連載第79回 サッカー観戦7500試合超! 後藤健生の「来た、観た、蹴った」 現場観戦7500試合を達成したベテランサッ…

連載第79回 
サッカー観戦7500試合超! 後藤健生の「来た、観た、蹴った」

 現場観戦7500試合を達成したベテランサッカージャーナリストの後藤健生氏が、豊富な取材経験からサッカーの歴史、文化、エピソードを綴ります。

 FIFAワールドカップ2026の組み合わせが決まり、日本の対戦相手も決まりました。1974年の西ドイツ大会からW杯を現地観戦している後藤氏が、今回の大会を展望します。

【"死の組"はない】

 12月5日にアメリカ・ワシントンで2026年W杯の組分け抽選会があって、F組に入った日本代表の対戦相手も決まった。


優勝するには8試合を戦う「消耗戦」のFIFAワールドカップ

 photo by Getty Images

 組分けが決まると早速「"死の組"はどこか」といったことが話題になる。何かと危機感を煽りたがる日本のメディアでは、しきりに「日本の組は厳しいグループ」と言われている。

 F組には欧州プレーオフ(パスB)勝者を含めて欧州勢がふたつ入っているので、そういう意味ではたしかに厳しいグループかもしれない。今回、ポット1には実力的に日本と互角の開催国(カナダ、メキシコ、アメリカ)が入っていたので、できればFIFAランキング27位のカナダあたりを引き当てたかったのだが、W杯に出場したのだからまあ強豪と当たるのは当然のことだ。

 欧州プレーオフからどこの国が進出してくるかはわからないが、可能性がある国のなかでランキング最上位はウクライナの28位。日本の18位よりは下である。カタール大会でドイツ、スペインと同組になった時の衝撃に比べれば、なんとか五分に戦える相手であるような気がする。

 チュニジアも「アフリカ予選を無敗・無失点で通過」と警戒されているようだが、アフリカ予選の方式を考えてみる必要がある。

 今大会のアフリカ予選は9グループに分かれた1次予選の首位チームがそのまま本大会進出となったのだ。つまり、アジアにたとえれば、日本が2次予選で北朝鮮やシリア、ミャンマーと戦って6戦全勝、得点24・失点0で勝ち抜いた段階と同じようなものだ。アジアはその後、強豪国同士の3次予選があったのだが、アフリカでは1次予選の結果で出場国が決まった。

 しかも、その1次予選の組分け抽選でポット1のチュニジアは、ポット2から5までは(ポット6まであった)最下位あるいは下から2番目の国と同組に入るという超幸運もあったのである。

 つまり、「無敗・無失点」という彼らの"看板"に惑わされる必要はまったくないのだ。

 そもそも、A組からL組までを見渡しても、「死の組」っぽいグループはひとつもない。L組にはイングランドとクロアチアが入っており、両国の首位争いは面白そうだが「上位ふたつ」には間違いなく入ってくるだろう。

【グループリーグ突破の可能性は十分に高い】

 従来32だった出場国数が今大会から48となったことで、やはり「水増し感」は否めないようだ。

 1978年のアルゼンチン大会では、開催国アルゼンチンが1次リーグからいきなり「死の組」に入った。アルゼンチン、イタリア、フランス、ハンガリー......。

 W杯本大会が16カ国参加で行なわれていた時代を知る者にとっては、「死の組」というのはこういうグループのことを言うのである(イタリアが首位通過。アルゼンチンは2位で2次リーグに進んだ)。

 1986年のメキシコ大会の時は参加国数が24に拡大されていたが、それでも「西ドイツ、ウルグアイ、スコットランド、デンマーク」なんていうグループもあった(当時、スコットランドはW杯常連の強豪だった。結果は「最弱」と思われていたデンマークが3連勝で突破)。

 FIFAのジャンニ・インファンティーノ会長は、クラブW杯を大規模化するなどでFIFAの収入を増やしている。そして、W杯出場国を増やすことによってもサッカー途上国からの支持を獲得。インファンティーノ会長はFIFA内での絶対的権力を握った。しかし一方で、クラブW杯は選手たちの負担などをまったく考慮していないし、W杯は出場国や試合数が増えた結果、「水増し感」満載の大会になってしまった。

 もっとも、日本も1998年のフランス大会から出場国が32に拡大されたおかげで、前回と同じアジア3位ながら本大会初出場を果たし、それが現在につながっているのだから、あまり批判もできないのだが......。

 そんなわけで、F組は日本にとってけっして楽ではないが、十分にグループリーグ突破の可能性は高い。

 だが、別の意味でF組は「死の組」なのだ。

【暑さを体験するチームは大会後半不利になる】

 今年の夏にアメリカで行なわれたクラブW杯では「暑さ」が大問題となった。猛暑のなか、しかも欧州での放映・配信のために日中に試合が行なわれたので、選手たちの負担が大きくなってしまったのだ。

 W杯は(クラブW杯も)6月から7月にかけて行なわれるので、北半球での大会はいつも暑さが問題となる。

 1994年にアメリカでW杯が行なわれた時も、東部は異常気象で高温多湿の熱波に襲われた。一方、西海岸は気温が高くても湿度が低く、比較的過ごしやすかった。その結果、東部で激戦を勝ち抜いてきたイタリアと西海岸で戦っていたブラジルが決勝で対戦したのだが、コンディション的にイタリアは大きなハンディキャップを負っていた。

 1982年のスペイン大会も地域によって気候が大きく違う大会だった。結局、ベスト4に残ったイタリア、西ドイツ、ポーランドなどは、グループリーグの間、気温が低い大西洋側のラ・コルーニャやビーゴ、オビエドなどで戦ったチームだった。

 さて、クラブW杯後の9月に「フットボール・フォー・フューチャー(Football for the Future)」という英国の非営利団体が報告書を発表したが、そのなかでW杯開催都市別に、今年の夏にWBGT(暑さ指数)が35以上になった日が何日あったかを調べた結果が報告されている。

 開催16都市のうち、一度もWBGT35以上にならなかったのが5都市。そして、最多はヒューストンの51日、2番目がダラスの33日、次いでカンザスシティの17日、モンテレイ(メキシコ)とアトランタの9日という結果になったそうだ。

 そして、F組の試合はダラス、ヒューストン、モンテレイで行なわれるのである。

 ダラスとヒューストンではスタジアムは開閉式屋根があって、屋内の気温はコントロールされているが、モンテレイにはそのような設備はない。また、各都市近郊に置かれるであろうキャンプ地でのトレーニングは暑さのなかで行なうしかない。

 48カ国参加のW杯では、優勝するためには「中3日」の強行日程も含めて8試合を戦い抜かなければならないのだ。グループリーグの間に暑さのなかで戦って体力を消耗してしまったら、大会後半の戦いでは絶対に不利になる。

 だから、F組のチームが優勝するのは非常に困難になるはずだ。

【暑熱対策にぬかりない日本だが......】

 グループリーグだけを考えれば、暑さはむしろ日本にとってアドバンテージになるかもしれない。

 なにしろ、「暑さ」なら最近の日本の暑さは世界最高クラス。日本代表選手たちも、ユース年代まではそうした猛暑のなかで、炎天下の試合をさんざん経験してきているはずだ。また、各年代の日本代表は、中東の暑さのなかで試合をする機会が多く、日本のスタッフも「暑熱対策」についての知識が豊富だ。

 2002年日韓大会の時は、明らかに高温多湿の気象条件がホームアドバンテージとなって2度目のW杯で初めての決勝トーナメント進出を果たしている。

 2006年ドイツ大会では、暑さの影響でオーストラリアに逆転負けを喫した苦い経験もあるが、あの時のジーコ監督は暑熱対策を重視していなかった(ジーコ監督は「サウナに入れば対策できる」と語ったことがある)。

 暑さ対策にぬかりがなければ、少なくとも欧州勢との対戦では暑さは日本の味方となるだろう。

 だが、それでも負担は大きい(「暑熱対策」そのものが、消耗を伴う)。「優勝」という目標を考えた時には、やはりF組に入ってしまったことは大きな痛手と考えるべきだろう。現在の日本代表の実力で優勝を狙うには、組分けや気象条件など、あらゆるファクターで幸運が重ならないと難しいからである。

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