帝京大・中野孝行監督インタビュー 後編前編を読む>>> 箱根駅伝に向けて、今季の出雲駅伝、全日本大学駅伝で「5強」崩しも…
帝京大・中野孝行監督インタビュー 後編
前編を読む>>>
箱根駅伝に向けて、今季の出雲駅伝、全日本大学駅伝で「5強」崩しも見えそうな走りを見せた帝京大。頼りにしていた昨年の4年生が抜けたあとの新チームの成長の裏には、中野孝行監督のどんな指導があったのか。箱根駅伝に向けて、今取り組んでいること、考えていることを語ってもらった。(全2回/後編)
昨年の箱根駅伝 監督トークバトルでも熱く語っていた中野孝行監督
photo by 日刊スポーツ/アフロ
【今季は、「自分で考えてみて」が増えた】
――今季の全体的なレベルアップの要因は、どういうところにあると思いますか?
中野 放っていたからですかね(笑)。主体性をできる限り彼らに持たせました。ただ、何もないところには主体性も生まれないので、ある程度の方向性を見せたり、スケジュールも幅を持たせたりしました。いつも言っているのは、「ベースになる最低限のスケジュールしか立ててないから、それプラスで何かやらないとダメ」ということ。食事やケアの面に関しても、言われたことは基本でしかないから、それから展開させないといけないことは伝えていました。
それは競技だけではなくて社会に出てでも同じ。言われたことしかやらないのは評価につながらないですよね。コロナが始まって以降は余計なことはしない子が増えてきているのかなとも思っていましたが、今は思いきってやってくれる子が少しずつ増えてきていると思います。
――コロナ直前の2020年の箱根駅伝で4位になった頃とは、また違ってきていますか?
中野 あの時はやんちゃな子たちばかりだったから、無理矢理やらせていました。みんなそれぞれの方向を向いて迷走していたから、「こっちへいくぞ!」とやらなければいけなかった。でも、今の子たちはたぶん、向いている方向は一緒なのかなと思います。
選手たちにかける言葉は昔と変わってないけど、「自分で考えてみて」というのは増えましたね。 選手をロボットにしたくないというのと、ある程度、私がレールを敷けば失敗しないのはわかっているけど、それ以上にはなれない。私の範疇を超えないとダメだなと思ったので、選手自身がレールを敷くようにしました。ただ、彼らに責任を負わせる気はないので、「やってみようか」「それは違うね」という駆け引きは多くなったような気がします。
――去年は山中博生選手(現大阪ガス)というエースもいるなかで、「レベルの高い練習を冒険的にやらせてみた」と話していましたが、今年はそういう冒険心をほかの選手も持ててきた感じですか?
中野 そうですね。今までは「ベースの練習もできていないのにこっちは無理かな」と思っていた練習を、下のレベルの選手たちもできるようになりました。そこにはシューズの影響もあるとは思いますが、自信にもつながっています。上のレベルの選手は「実業団でもやれない練習をやれている」と思うくらいでした。
【真っ向勝負でいくしかない】
――箱根駅伝に向けては、往路候補も多く出てきたように感じますが、2区は島田晃希選手(4年)と楠岡由浩選手(3年)が希望していると聞きました。そのあたりはどう考えていますか?
中野 「2区でアドバンテージを取りたいのか」「1~3区をひと区間と考えて、3区が終わった時点で何番を狙うのか」の2パターンがあります。2区にエースがいても、ひとりだけでは勝てないですから、どうやって流れに乗せられるかをこれから考えたいと思っています。
肉を切らせて骨を断つじゃないけど、2区をそれなりにしのげるのなら、逆に後半に上げていったほうが他校にとってダメージは大きいとも思います。エース区間の2区は結局詰められるから慎重になると思うんです。最近は2区や3区で上位のところがそのままいきますが、必ずしもそうではないんじゃないかとも思います。
――では、ほかの大学の動向を見て、配置を考えるということは今のところないですか?
中野 それはないですね。例えば全日本大学駅伝なら、1区は確実にスローペースになるので誰が走っても大丈夫でした。今回は柴戸(遼太・4年)を1区で試しましたが、結果論で言えば、3区を走った原(悠太・3年)でも、4区の谷口(颯太・3年)でも、問題はなかったと思うし、それ以外では尾崎(仁哉・4年)でもやれたなと思います。
だから箱根に向けては、「誰が来ようがウチのレースをすれば、それでいい」と今は考えています。どんなに考えても、陸上は真っ向勝負でいくしかないですし、適材適所で使うしかないのかなと思っています。
――山(5区、6区)はどう考えていますか?
中野 難しいですよね。前回の5区を走った楠岡も準備をしたけど、体が動かなかった(区間17位)。2021年と2022年に5区で区間賞を取った細谷翔馬(現・ロジスティード)の時も、ある程度走れるというのはわかっていたけど、あそこまで走れるとは思っていませんでした。今季は5区の経験者である楠岡と尾崎が残っていますが、やってみないとわからないのが箱根駅伝ですね。
――学生たちは「5位以内」を目標にしていますが、中野監督はいつも「目標は12月29日にメンバーが決まってからじゃないとわからない」と言っていますよね。現時点ではどういう気持ちでいきたいと思っていますか?
中野 やっぱり優勝を目指すような練習をさせたいという気持ちはあります。ただ、現状として、目標に優勝を掲げるのはまだ早いと思うので、「3位を目指す」くらいです。ただ、「3位を目指している」と話すほかの大学は、実際には優勝を目指している学校も多いので、3位イコール優勝にはなってしまいますが、そのぐらいの気持ちで臨みたいと思っています。
簡単じゃないのはわかっているし、シード権獲得も同じように簡単ではなくて「一歩間違えたら......」という恐怖もある。とにかくスタートラインながらにマネージャーも含めて、万全な状態で立たせるのが私の仕事かなと思っています。今年の全日本のように、レース当日を楽しめるくらいの手応えを感じ箱根を迎えられたら最高ですね。
Profile
中野孝行/なかの・たかゆき
1963年8月28日生まれ。北海道出身。国士舘大学在学時、箱根駅伝に4年連続で出場した。大学卒業後は実業団で走り、引退後は指導者の道へ。2005年に帝京大駅伝競走部の監督に就任。2007年から19年連続で箱根駅伝出場を果たしている。最高順位は2000年と2020年の4位。今シーズンは、出雲駅伝8位、全日本大学駅伝6位の成績を残している。