12月5日、6日に女子シングルが行なわれたフィギュアスケートのGPファイナル。千葉百音(木下グループ)はショートプログ…
12月5日、6日に女子シングルが行なわれたフィギュアスケートのGPファイナル。千葉百音(木下グループ)はショートプログラム(SP)で自己最高得点を更新する首位発進をしながらも、フリーでは最下位の得点で総合順位を5位まで下げた。

GPファイナルで総合5位に終わった千葉百音
フリーの演技終了後に千葉は、「いつもだったら悔しい気持ちが出てくるはずなのに、気持ちがまだ空っぽの状態という感じ。自分の気持ちを受け止める時間をしっかり作ろうと思います」と話した。一方で翌日の会見では決意の表情でこう語った。
「昨夜は濱田美栄先生や母と一緒に演技の振り返りをして、反省はするけど後悔は引きずらないように。自分にはもう悔しがる時間もない。今は自分のスケート人生にとって生死を分ける期間と言っていいぐらい大事な時に来ているという自覚をしっかり持って、覚悟を持って全日本選手権に臨むしかない」
【点数と自分の感覚が一致していない】
初出場で2位になった2024年のGPファイナルは、挑む立場で臨めた大会だった。だが今回はGPシリーズ2戦2勝で、ポイントランキングトップでの進出。さらに今季はファイナルの順位がミラノ・コルティナ五輪代表選考でも重要な条件となるうえ、SPは最終滑走と、プレッシャーは格段に大きかった。
しかも、SPでは前に滑った優勝候補のアンバー・グレン(アメリカ)と坂本花織(シスメックス)にミスが出て、ともに60点台の発進。スタートのポーズを取った千葉の表情に余裕はまったくなく、強ばっていた。
「前(に滑った)選手の結果や点数は見ていなくても空気感でなんとなくわかってしまうので、ここが踏ん張り時だ、乗り越え時だというのはヒシヒシと肌で感じて、骨まで感じていたので、すごく緊張していました。振り付けのケイトリン・ウィーバー先生からは『演技の最初は寂しそうにしていて、途中でパッと表情を切り替えるように』と言われていて、その切り替えはよくできたと思うけど、ちょっと緊張しすぎて寂しそうな表情1割、緊張の強ばり顔9割みたいな感じになってしまいました」
SP後には安堵の表情でこう話した千葉。77.27点の高得点に関しては「練習でやってきたことを信じてやり通せた。まだ実感が持てなくて点数と自分の感覚が一致していないところはあります」と口にしていた。
【一番の屈辱を感じた試合】
翌日のフリー、他の選手の追い上げは強烈だった。2番滑走の坂本は合計得点を千葉の自己ベスト(217.23点/2025年スケートカナダ)を上回る218.80点にすると、中井亜美(TOKIOインカラミ)はそれを上回る220.89点に。さらに世界女王のアリサ・リュウ(アメリカ)は222.49点。千葉が1位になるにはフリーで145点台に乗せなければならない状況だった。
「いつもどおりに順位は気にせずにいけた」と滑り出した千葉は、最初の3回転フリップ+3回転トーループで加点をもらう着実なジャンプにしたが、続く3回転ループと3回転サルコウはともにダウングレードで転倒。これまでにないようなジャンプになった。
「ループとサルコウは、今までに感じたことがないぐらい足に力が入らなかった。すごく緊張はしましたが、体の状態は悪くなかったので自分の感覚の問題だと思います。6分間練習では感覚がよかったけど、それがゆえに自分で繊細に微調整しながら滑るっていう危機感が足りてなかったんだと思います」
それでも、4本目のジャンプのダブルアクセルからはすべて加点を取るジャンプとし、ステップはレベル3だったがスピンはレベル4と、2度の転倒のあとは安定した滑りを見せた。結局、フリーの得点は132.95点にとどまり、合計は210.22点で5位という予想外の結果に終わった。フリー翌日に千葉はこう話した。
「フリーもコンディション的には悪くなかった。でも、緊張している自分が弱いと思ってそれを少し強がり、自分のなかで自覚しようとする姿勢から逃げてしまっていたというのが、今回は一番ぴったりと合う表現だと思います。緊張を自覚するということがいかに大事なことかというのがわかった試合。今シーズンで一番の屈辱を感じた試合で、だんだん消化できている感じだけど、自分の悔しさに浸っている段階でそれは甘えだと思うので、悔しい気持ちをしっかり自覚して、そのうえで自分の弱さに蓋をせずにやり通していきたいと思います。弱さを認めてこそ強くなれると思うので、二度と同じ悔しさを経験しないためにも心に刻んでいきたいです」
【五輪代表をかけた全日本へ「行動に移す」】
五輪代表選考での優位性は今回の結果で少し薄れた状況になったが、そのなかで五輪出場をかけた全日本選手権(12月19日〜)へ向けては、「とにかくやれることは全部やりたい。努力する自分というのも大事だけど、もっと大事なのは質を積み上げた状態で、ちゃんと準備しきって臨めるかということだと思います」と述べた。
「悔しさが少しあと味みたいににじむ瞬間はあるけど、本当に行動に移してこそ失敗が生きると思う。自分でぐいぐい自分を引っ張っていくしかないと思います」と強い口調で言った。
シニア移行の2023−2024シーズン、GPシリーズは環境の変化による体調不良で少し苦しんだが、全日本選手権で2位になり、四大陸選手権で優勝し、世界選手権も初出場した。それからは日本女子トップレベルの選手として安定した位置をキープし、実績を積み上げてきた。
これまでに経験した悔しい結果と言えば、2025年四大陸選手権でSP2位からフリーで6位まで順位を落としたことだが、その時は当日朝からの体調不良があり原因はハッキリしていた。
そんな千葉にとって今回は初めての、予測不能の屈辱とも言える結果だった。だが、それは順調すぎるほど順調だった彼女のキャリアにとって、一度経験しておかなければいけないつまずきだったのかもしれない。強い意志で自身を律することができる千葉だからこそ、今回の経験をその先にある本物の強さにつなげるはずだ。