スリランカ・コロンボで10月中旬にあった「アジアラグビーエミレーツセブンズシリーズ2025スリランカ大会」。男子セブン…
スリランカ・コロンボで10月中旬にあった「アジアラグビーエミレーツセブンズシリーズ2025スリランカ大会」。男子セブンズ日本代表は決勝でホンコン・チャイナ代表に敗れ、9月の中国大会に続き2大会連続の準優勝に終わった。この結果、2026年1月開催予定の「HSBC SVNS DIVISION3」の出場権も逃した。来秋の愛知・名古屋 2026 アジア競技大会、そして2028年夏のロサンゼルスオリンピックという大きなターゲットから逆算した時、今のチームの現在地をキーマンたちはどのように見ているのか。
◇荒天の中の決戦 延長までもつれた先に……
日本はスリランカ大会初日、10月18日のプール戦ではタイ代表に47-0、チャイニーズ・タイペイ代表に68-0、アラブ首長国連邦代表に33-0といずれも大量得点かつ零封という完勝劇で3連勝した。大会2日目の19日、地元スリランカ代表との準決勝は、津岡 翔太郎((公財)日本ラグビーフットボール協会/コカ・コーラボトラーズジャパン(株))の3トライの活躍で15-12と競り勝ち、頂上決戦に進んだ。
大雨の中の決勝で立ちはだかるのはホンコン・チャイナ代表。前半は、相手に先制トライを許し0-7で折り返したが粘り強い守備で対抗し、後半残り2分を切ったところでチャンスが来た。自陣ゴールライン前でのターンオーバーから荻田 直弥(NECグリーンロケッツ東葛)が右サイドを破って一人で走りきる独走トライ。ゴールも決まり、追いついた。しかしその後は延長で力尽き、7-12で敗れて中国大会のリベンジとはならなかった。
まずは一人一人が「個」で真っ向勝負をできるようになろうと、今シーズンはフィジカルやフィットネス強化に注力して、時間を割いてきた。その成果は試合の随所で至るところで確認することができ、確かな成長の跡を示していた。だが、戦いの後のピッチに残ったのは、善戦した「手応え」や「充実感」よりも、勝ちきれなかったことへの「悔しさ」だった。共同主将を務めた中野 剛通(トヨタヴェルブリッツ)は「自分たちが得たい結果ではありませんでしたが、ハードワークする姿勢を見せられたのではないかと思う。ここでの経験を学びに変え、糧として次に向かって進んでいきたい」と力を込めた。
悔しさが大きくなる要因の一つが、次のステップへの道が早々に断たれてしまったことにある。7人制の国際大会「HSBC SVNS」の大会フォーマットが変更になり、日本が目指していた「DIVISION3」に進出するためには、今回のスリランカ大会でホンコン・チャイナを大きく上回る成績で頂点に立つことが必須だった。プール戦から大量得点を重ねて、決勝まで勝ち上がり、あとは宿敵を倒すだけ---。ほぼ思い描いた通りのシナリオで今大会を進めながら、最後の壁だけを乗り越えることができなかった。
◇想像以上の早い終幕 指揮官が今思うこと
この結果、日本代表の今シーズンは想定以上に早く終わりを迎えて、常々重要性を強調してきた若手の「国際経験」という視点でも、やや不安が残る結末となった。
就任2季目のフィル・グリーニング・ヘッドコーチ(HC)はこの点をどのように捉えているのか。「短いシーズンで終わったことは非常に残念」としつつ「基本的には今後の強化方針は変わらない」ときっぱり言いきる。「引き続き7人制を通じて若い選手に国際経験を与える機会を提供して、15人制にもつなげていく。変わらず重要なのは、若手が国際舞台に立つことで肉体や精神面の成長していくことをサポートすること」。
就任当初からグリ―ニングHCが進めてきた、大学やリーグワンの若手を積極的にセブンズ日本代表に招集し、経験を積んだ上で15人制代表や所属チームなどに送り出す「パスウェイ(人材育成の連携)」の考えは着実に日本ラグビー界に浸透し、好循環を生みつつある。
悔しさを感じつつも、パスウェイの考えがぶれない背景には、この2年間の目に見える変化もある。グリーニングHCが就任当初から7人制、15人制問わず日本ラグビー界全体の課題と指摘してきたのが「若手の体作り」。集中したトレーニングなどにより、セブンズ日本代表のプログラムに取り組んだ選手の筋力やスピードなどの数値は、世界の15人制の強豪チームと比べても遜色ないほどに向上しているという。
今後は、海外での招待試合などに参加しながら強豪との実戦を重ね、レベルアップを図ることになる。グリーニングHCは「成長の場としてセブンズの活動も視野に入れてもらえるように、学校やリーグワンのチームとのコネクションを強化していく」と今後の活動を見据える。その上で「将来的には高校代表やU20代表などと同様に、セブンズ代表が一貫した強化プログラムの一つとして組み込まれる形になれば理想」と思い描く。
◇パスウェイはセブンズ強化に直結?
そもそも、セブンズ強化とパスウェイは相反する考え方なのではないか。素朴な疑問に対し、男女セブンズ日本代表チームディレクター(TD)の梅田 紘一は「7人制強化だけを見れば、必ずしもプラスではない場面もあるかもしれない」という。それでも、今のセブンズ代表が入り口も出口も広く設けているのは「可能性を広げる」という意識からだ。2016年からセブンズ競技と密接に関わるようになった梅田TDは、当時から感じていることがある。
「セブンズは選手の成長にとって本当に素晴らしいプログラム。フィジカルやスキルの強化だけではなく、時には過酷な環境下で、限られた時間でコンディションの整えるためにメンタル面の準備やリカバリー、次へ向けての準備など自分と向き合う時間が増える。チームディレクターになるにあたっては、若い選手にとって可能性を広げるセブンズでありたいと、目標として掲げてきた」
2024年夏、パスウェイという近い考えを持つグリーニングHCと出会った梅田TDは、一緒に大学やリーグワンのチームをこまめに訪問したり、オンラインでミーティングを重ねたりして、セブンズを一つのステップとして捉え、選手として成長し、世界に羽ばたく道筋を丁寧に説明してきた。梅田TDは「7人制を経験した選手が後にリーグワンや15人制代表でもっと活躍できるような環境にし、選手も一つのレベルアップの手段としてセブンズへの挑戦を前向きに捉えてもらえるようにしたい。専任化だけではなく、セブンズに対するアプローチをオープンにすることで選手層を深め、セブンズの代表強化にも繋げていきたい」と日本ラグビー界の底上げをイメージする。
今季掲げたアジアシリーズ優勝の目標には届かなかったが、悲観的な空気はない。むしろ、ようやく軌道に乗り始めたパスウェイの理念に支えられ、男子セブンズ日本代表の将来への期待が膨らみつつある。今年、男子セブンズ日本代表と男子日本代表(15人制)の両方で活動したバックス・高本 とむ(リコーブラックラムズ東京)は「どちらでもいいパフォーマンスをできる準備を心がけている。7人制と15人制で役割分担や一人一人に求められる仕事も異なる中、どのように自分の持ち味を発揮するのか試行錯誤することで、レベルアップできていると感じる」と、柔軟に7人制と15人制を行き来してプレーできるメリットを語った。
想像以上に早いシーズン終了となったが、チームは一歩ずつ、着実に前に進んでいる。
(角田直哉)
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