高校野球の7イニング制導入の議論において、けがや熱中症を防ぎ、選手の健康を守ることは大きな論点だ。肩やひじの痛みに悩む…

 高校野球の7イニング制導入の議論において、けがや熱中症を防ぎ、選手の健康を守ることは大きな論点だ。肩やひじの痛みに悩む多くの高校生を診療してきた2人の医師に、考えを聞いた。

 慶友整形外科病院(群馬県館林市)の古島弘三医師は、過去に数百人の高校生のひじを手術してきた。

 「私の立場で反対の意見はありません。投手の投げすぎを抑制することと、暑さ対策。両方の視点から選手の健康を考えれば、7イニング制の導入は自然な流れかなと思います」

 2イニングの短縮は、一定のけが予防効果が見込めるという。先発投手が完投した場合、投球数は30球ほど少なくなる。

 「球数が100球に到達する七回ごろから疲れが出て、多少痛みが出ても無理をする状態になりやすい。先発完投を基本とするチームの場合、負担は減るでしょう」

 選手の公式戦での出場機会が減ることが懸念されるが、「選手の経験と健康を守ることのバランスをてんびんにかけた場合、後者が絶対的に大事。初戦敗退のチームは、1試合だけで公式戦を終えてしまう。リーグ戦形式の可能性も含めて考える時代がきている」。

 栃木県高校野球連盟と連携して選手の障害予防に携わってきた薬師寺運動器クリニック(栃木県下野市)の伊沢一彦医師は、「痛め止めを打ってでも投げたい」と言う選手の声に耳を傾けてきたからこそ、7イニングへの短縮には複雑な思いだ。

 「いち高校野球ファンとしても八、九回のわくわくする攻防が見たいけれど、選手の安全性を踏まえれば(7イニング制は)仕方がない。世界的に7回でやっているんだと納得するしかない」

 夏の栃木大会中は大会本部に入り、熱中症を含めた救護をサポートしている。

 少人数のチームには、屋外での運動に慣れていない他部からの「助っ人」の選手がいる場合がある。強豪校でも試合中に足がつる選手はあとを絶たない。スタンドの保護者や応援の生徒の負担も懸念され、「熱中症で救急車を複数台呼んだことがありました」。

 ただ、投手の肩ひじの負担減については「やってみないとわからない部分もある」とみる。

 「9イニングはもたないけれど7イニングなら完投できる、という投手はきっといますよね。かえってそのエースに負担が集中しないかは少し懸念しています」

 2人の医師が口をそろえたのが、障害予防は「公式戦のルール変更だけでは完結しない」ということだ。

 普段の練習や練習試合でのオーバーワークによってけがをする例が少なくない。高校生は「ほぼ大人の骨」ではあるが、成長には個人差がある。

 指導者が適切な知識を学び、練習や起用方法にいかすことや、選手が痛みを訴えられる環境をつくることが重要だという。(大宮慎次朗)