ボディービル界のレジェンドが昨年、引退した。通称・ジュラシック木沢さん(本名・木沢大祐、50)。恐竜のような迫力満点の…
ボディービル界のレジェンドが昨年、引退した。通称・ジュラシック木沢さん(本名・木沢大祐、50)。恐竜のような迫力満点の筋肉で長期にわたって活躍した。今はフィットネスジム「ジュラシックアカデミー」を運営し、後進の指導にあたっている。現役時代からアンチドーピングを訴え続けてきた木沢さんに、筋肉増強剤の使用が愛好家にも横行している現状を聞いた。
――ボディービルとドーピングの関係を考えるようになったのは?
マレーシアであったジュニアのアジア選手権に、19歳で出場したときです。試合会場のトイレに行ったら、注射器のようなものがたくさん落ちていた。ジュニアの段階で、こんなに堂々と筋肉増強剤を使っている、という現実に戸惑った。
日本で1位になり、アジアでも1位になりたいと思って出ましたが、周りの選手を見ると僕らの年齢では考えられない大きな体をしていた。こんなに不公平な競技があるのか、と幻滅しました。
筋肉が好きで、筋トレが好きで続けてきましたが、49歳で引退する昨年まで、「世間にすべてを語れない競技だな」という葛藤と常に闘っていましたね。
――昨年10月、日本男子ボディビル選手権で優勝した後、現役最後の大会として出場した「世界フィットネス選手権&男子ワールドカップ」(東京・有明コロシアム)は繰り上げ優勝でした。
私は当初、2位でした。表彰式が終わった後にアラブ首長国連邦出身の優勝者がドーピング検査を振り切って逃げて行ったと聞きました。表彰式のやり直しもなく、私らしい最後だな、と。
――木沢さんは日本ボディビル・フィットネス連盟(JBBF)の大会で活躍してきました。この団体は日本アンチ・ドーピング機構(JADA)にも加盟しています。
僕は抜き打ち検査も含め、ドーピング検査は何度も受けました。僕らにとっては、ドーピングを疑われるのは勲章のようなものなので、それ自体は嫌な思いはしないです。
僕は身長170センチで、体脂肪を落としきった仕上がり体重は80キロを超える。これはもう、(筋肉増強剤使用者を表す)ユーザーのレベルと言われています。(筋肉増強剤を使用しない人を示す)ナチュラルのトップだと、このレベルまでいく。ただ、ドーピング検査をしない大会の出場者には、170センチで100キロの選手がいると聞く。これはナチュラルではどうにもならない世界。
――筋肉増強剤使用に揺れたことは?
まったくない。きっちりトレーニングをやりきって、筋肉を手に入れることが最高の喜び。ユーザー(増強剤の使用者)の方は多分、筋肉が手に入れば手段はどうでもいいんですよ。ナチュラル(増強剤を使わない人)がやっているボディービルはスポーツ。ユーザーのそれはスポーツではないと思う。
――一般の筋トレ愛好家の間でもユーザーが増えている。
この10年で、ライザップや24時間稼働しているジムも増えて筋力トレーニングをする人の数が急増した。ただ、一般の人は筋肉をつけるために、僕らみたいなハードなトレーニングは簡単にはできないと思う。それで筋肉をつけるために薬に頼る、という選択をする人が増えてしまったのかもしれない。
――木沢さんはずっと、アンチドーピングを発信しています。
自分が影響力を与えられる人間になってからは、そこを隠さずに話していくことが使命だとも感じていました。YouTubeを始めてからは、かなりアンチドーピングを発信していました。ただ、日本はもう、歯止めが利かない状態だと思う。
美容外科などに併設される筋肉増強外来が全国に広がっている。「病院でできるのなら」と、ドーピングで筋肉を手に入れることが、日本社会で受け入れられているように感じさせているのではないか。
――今はどのような活動を?
ナチュラルの筋肉がかっこいいんだ、本物なんだ、ということを広めることがやるべきことだと思っています。
今年で3回目を迎えたボディービルの大会「ジュラシックカップ」は、簡易の薬物検査を行っている。優勝賞金は300万円で賞金総額は約700万円。この世界では破格です。JBBFの日本選手権クラスの選手が出場する最高峰の大会になっています。ナチュラルの選手が輝ける場所をつくって、賞金も手に入る。もっと広げていきたい。(聞き手・塩谷耕吾)