立教大・髙林祐介監督インタビュー 前編駒澤大の選手時代には、学生三大駅伝で7度の区間賞を獲得した髙林祐介監督。監督就任2…
立教大・髙林祐介監督インタビュー 前編

駒澤大の選手時代には、学生三大駅伝で7度の区間賞を獲得した髙林祐介監督。監督就任2年目となる今季のここまでを振り返ってもらった
photo by Tsuji Shintaro
4大会連続の箱根駅伝出場となる立教大、チームを率いるのは就任2年目の髙林祐介監督(38歳)だ。昨季の立教大は予選会をトップ通過、さらに初出場の全日本大学駅伝でシード権を獲得し、箱根本戦でも終盤までシード権争いに絡むなど、存在感を発揮した。
迎えた今季は箱根予選会をぎりぎりの10位通過、全日本大学駅伝でも見せ場をつくれなかった。一方で"基準の可視化"と"立教らしさ"を軸に、夏以降に取り組んできた箱根へ向けての土台づくりは徐々に実を結び始めている。髙林監督へのインタビュー前編(全2回)では、そんな今季ここまでの状況を振り返ってもらった。
【全日本大学駅伝の予選会がなかった影響】
――まず監督として、いわゆる"2年目のジンクス"みたいなものを意識することはありましたか。
「いえ、練習やレースなど目まぐるしい毎日なので、そういうことを考える余裕はなく、気がついたら夏が終わり、駅伝シーズンが始まっていたという感じです(苦笑)。ただ、勢いだけだった1年目と違って、全体を俯瞰して見られるようになりました。やらないといけないことや課題をひとつひとつ地道に潰していく作業を現在進行形で続けています」
――前回の箱根駅伝は総合13位。特に往路は8位と健闘しました。目標のシード権(10位以内)が現実的に見えたと思います。その結果を踏まえ、監督就任2年目の今季は何を意識してチームづくりを進めたのですか。
「スタンスとしては土台づくりの継続です。昨年4月に着任し、手探りの状態でバタバタしながら1年間を駆け抜けましたが、練習面、生活面を含めて全員で意思統一してやれていたかというと、必ずしもそうではありませんでした。2年目だから何かを変えるというよりは、そこをしっかり詰めていきたいのがひとつ。もうひとつは、他大学の主力の選手と比べて、まだまだ力の差を感じたので、個人の能力をより引き上げなければ、というテーマがありました」
――シード射程圏内にたどり着いた箱根の結果を受け、選手たちはもっとやれるという自信を得たのではないでしょうか。
「往路で8位になり、あと少しでシード権に届くかもしれないというところまではきました。一方で、実力以上の結果というか、持ちタイムなどを冷静に分析すれば、成績が上振れしたところがあった。それは決して悪いことではないんですけど、過信や慢心にもつながりかねません。
率直に言って、春先はその部分が出てしまいました。個人の力とチームの力を考えた時に、(シード権まで)本当にあと少しなのかという私の認識と、あと少しがんばればいけるという学生の認識で、目指す方向は同じでもシード権までの"距離感"のとらえ方に少し差があったんです。シード権を獲るために何をどうしていくのか、というところから始めたのですが、なかなか噛み合わなかったですね」
春から夏にかけ、立教大の選手たちは関東インカレをはじめ、様々なレースや記録会に出場したが、結果はもうひとつ。持っている力を十分に発揮したとは言えなかった。
――チームとして、どういうところが噛み合わなかったのでしょうか。
「日々の練習はしっかりやってくれていましたし、雰囲気が悪くなることもなかったんですが......。チームで戦って、自分たちの立ち位置を確認する場がなかったことがとても大きかったですね。
具体的には、昨年は6月に全日本(大学駅伝)の地区予選会がありました。普通は新しい指導体制になって2カ月で予選を通過することは難しいです。でも、彼らはすごい集中力を発揮して、目標(予選通過)を達成してくれた。そして、その時にチームとしての成長をすごく感じられたんです。
その点、今年はシード権を持っているため、全日本の予選会のようにチーム一丸で戦う機会がなかった。シード権を得られたことはポジティブですが、そのぶん、個人種目の場を予選会のような一体感と成長の場にまでさらに高める余地があった、と感じています」
――通常は、春から夏のトラックシーズンで個々の記録や走力を伸ばし、それを秋の駅伝シーズンにチームとして生かす感じになりますよね。
「(トラックシーズンに全日本大学駅伝の予選会がない)その流れを経験するのが、立教大として今回初めてだったんです。全日本の予選会がないことを個人の成長にうまく落としこめればよかったんですけど......。ウチは5000mと10000mの記録水準が低いので、そこを上げていかないといけないのと、馬場たち4年生が抜けた後のチームづくりを考えると、3年生以下の底上げは必須です。3年生以下の選手には個人種目にフォーカスして、ひとりひとりがステップアップするシーズンにしたかったのですが、そこは監督としての反省点ですね」
【高校生のリクルート事情】
目先のシーズンを戦うための強化を進めながら、来季にも視点を向ける。監督の仕事は多い。そして、そのチームづくりに欠かせない、ある意味、一番重要なのが高校生のリクルートだ。今は情報があふれ、選手同士で横のつながりもあり、各大学の情報を共有している。髙林監督は「よくも悪くも全部、筒抜け」と苦笑するが、立教大のリクルート事情は、どうなっているのだろうか。
――高校生をリクルートする際、どういうところを見ているのですか。
「一般的な話になってしまいますが、まずは選手の走りと人間性を見ます。加えて、立教大の場合は、"文武両道で4年間をやりきれるかどうか"をとても大事にしています。アスリート選抜入試も、速さだけではなく、学びへの姿勢や、人としての成長も含めて評価する入試です。そういう意味で、授業への向き合い方や、競技以外の学生生活も含めて『この選手と一緒に4年間を走りきれるか』という目で見ています。そして最後は、一緒に戦ってくれるかどうかという意志ですね。
今の立教大は箱根に出るだけでなく、シード権、その先の上位を本気で目指しています。強いチームに"のっかる"のではなく、『自分がチームを引き上げる側になる』『自分たちが新しい歴史をつくる』とイメージできるかどうか。そういう強い意志を持つ高校生と、一緒に戦っていきたいと思っています」
――高校生が大学を選ぶ際、保護者と一緒に進路を考えるケースは増えていますか。
「それは強く感じますね。自分が高校生の時は、親に何を言われようと子供は聞かない、もしくは親が勝手に決める、そのどちらかでしたよね(笑)。でも、今の高校生は親御さんとの距離がすごく近くて、相談しながら進路を決めるケースが多いと感じています。そして、保護者の方々は在学中の競技活動だけでなく、"卒業後にどうなるか"をとても重視されています。
その点、立教大の場合は、競技を続けたい選手には実業団という道が開けていますし、就職を希望する選手の場合も、自分が挑戦したい業界や企業に進めています。『4年間の学生生活と、その先のキャリアも含めて安心して預けてもらえる環境です』と自信を持ってお伝えしたいですね」
【夏合宿でシード権の基準を共有】
――話を今季のチームに戻しますが、トラックシーズン後に迎えた夏合宿は、うまく切り替えて進められたのでしょうか。
「全体での一次合宿を終えたあとにミーティングをしました。箱根のシード権獲得を"現実の目標"としてとらえるために、まずは基準を整理して共有する必要があると感じていたからです。チームとして練習はある程度できていました。ただ、このままで本当に届くのか、という問いは持っておくべきだと思ったんです。
そこで練習メニューや練習の消化率、食事や睡眠など生活面を含めて、上位校の水準と照らし合わせながら、シード権に必要な要素をできるだけ具体的に書き出しました。選手たちはシード権を強く意識しているので、だからこそ、それを言葉だけではなく"行動基準"に変えていくことを、夏の段階で丁寧にやりたかったんです」
――反応はいかがでしたか。
「手応えはありました。そのうえで私があれをやれ、これをやれと上から押しつけることはしません。やらされるのではなく、自分たちで考え、納得して積み上げていくことが立教大のスタイルですから。
例えば、箱根の上位チームが月間1000km走っているのに、それよりも少ない距離のままでは同じ土俵で戦うのは難しい。じゃあ、毎日、5km、10kmと増やすのか、それとも週末にドカンと距離を走るのか。方法をひとつに決めるのではなく、選手たち自身が自分たちの現実と向き合いながら、最適解を探していくプロセスが大事だと思っています」
――その夏合宿を経て、選手の意識、姿勢に変化は生まれましたか。
「少なくとも、シード権を目指すうえでの道筋は整理できたと感じています。ただ、その基準を"チームの習慣"として当たり前にするには、もう一段階の積み上げが必要でした。夏合宿は"方向性をそろえて、足りない部分を自分たちで埋めにいくスタート地点"だったと思います」
――迎えた箱根の予選会は、エースである馬場賢人選手(4年)の欠場が大きく響いたとはいえ、前回のトップ通過から一転、ぎりぎりの10位通過でした。
「順位発表時の選手たちの(泣いて喜んでいた)リアクションがすべてを物語っていると思います。2023年に55年ぶりに箱根本戦に出て、そこから連続して出場できていたけど、当たり前だと思っていたものが当たり前じゃなかった。その場での挨拶で、キャプテンの國安(広人・4年)が『(このままでは)シード権は厳しい』という話をしていましたが、これは非常に大きかった。シード権までの距離を、ようやく具体的にイメージできるようになったんです。10番目の通過だからこそ、そこで課題と危機感をチーム全体で共有できたことが、次の成長の起点になると感じています」
後編を読む>>>本選で巻き返しを期す立教大・髙林祐介監督「エースの馬場は、最後の箱根をしっかり走ってくれると思います
■Profile
髙林祐介/たかばやしゆうすけ
1987年7月19日生まれ。三重県立上野工業(現・伊賀白鳳)高校ではインターハイで3年連続入賞。駒澤大では学生三大駅伝で区間賞を7度獲得。卒業後はトヨタ自動車に入社し、2011年の全日本実業団対抗駅伝で3区の区間記録を更新。2016年の現役引退後は社業に専念するも、2022年から母校・駒大のコーチとして指導を開始。2024年4月に立教大の男子駅伝監督に就任。