創価大・榎木和貴監督インタビュー 後編創価大の榎木監督。昨年度のスーパーエース・吉田響(現・サンベルクス)が抜けた穴を、…

創価大・榎木和貴監督インタビュー 後編

創価大の榎木監督。昨年度のスーパーエース・吉田響(現・サンベルクス)が抜けた穴を、チームとしてどう埋めていくのか

 photo by Murakami Shogo

前編を読む>>>「5強」崩しに期待の"たたき上げ軍団"創価大・榎木和貴監督の育成、強化へのこだわり

 青山学院大、駒澤大、國學院大、中央大、早稲田大の「5強」とも言われる今季の箱根駅伝。その5強を崩すかもしれないという期待を抱かせるチームのひとつが創価大だ。チームを率いるのは就任7年目の榎木和貴監督(51歳)。全2回のインタビュー後編では、「3位(以内)」という目標に向けての現状、さらにレースの展望を聞いた。

【出雲駅伝では過去最高の3位に】

――吉田響(現・サンベルクス)という大エースが抜け、その穴をどう埋めていくのかが、今季のチームの大きなテーマとしてあったと思います。個々のレベルアップは必須ですが、その成長具合を推し量る春のトラックシーズン、創価大の選手たちは好結果を残しました。

「関東インカレ(2部)では青山学院大、駒澤大、國學院大が主力をそれほど投入していませんでしたが、それでもハーフマラソンで野沢(悠真・4年)が2位、山口(翔暉・2年)が3位に入り、スティーブン(・ムチーニ・3年)が5000mと10000mで優勝するなど、選手の自信になりました。

 また、早い段階からハーフの経験も済ませておけば、秋以降の駅伝があって慌ただしい時期に、レースを走る必要がなくなるかなと考え、6月末に函館マラソン(ハーフ)を入れ、そこでスティーブンが優勝して、山口も自己ベスト(1時間01分32秒)を出してくれました。全体的に余裕を持って強化ができたトラックシーズンだったと思います」

――当時、主力の強化、中間層の底上げが大きなテーマだとお話しされていましたが、そこは順調だったのでしょうか。

「小池(莉希・3年)は(吉田)響のレベルにならなければという思いでやっていましたし、ほかの主力選手もそのレベルを目指していたんですけど、私に言わせれば、全員が響になる必要はないんです。全体を底上げすることで、箱根で戦えるチームをつくっていこうと考えていました。

 その意味では、10月の出雲駅伝に出た織橋(巧・3年)、小池、スティーブン、石丸惇那(4年)、山口、野沢の6人は計算できる選手になれたのでよかった。一方で、そこに続く選手がもうひとつという課題は残りました」

――出雲駅伝では、その6人がピタリとハマって3位という好成績を残しました。

「この6人しかいないというところで、全員が区間5位以内で走り、総合3位という結果を残してくれたのでチームは盛り上がりました。ただ、その3週間後の全日本大学駅伝は、(全8区間の)あとふたりを誰がいくのかという話になった時、チームとして盛り上がってはいたんですけど、どこかみんな他人事でした。『自分がやるんだ』という覚悟ができていなかったですね」

 全日本は、出雲の6人組に加え、駅伝初出場のふたりが走った。5区の衣川勇太(1年)は区間6位、6区の榎木凜太朗(2年)は区間10位で、チームは総合7位に終わった。

――初出場組のふたりは、レース前の状態がよかったのですか。

「衣川も凜太朗も部内タイムトライアル(5000m)がよかったんです。ただ、チーム全体を見ると、ギリギリで8人をそろえたという感じだったので、もう少し部内の競争力を高めたうえで選んだ8人だったら、凜太朗のブレーキもなかったでしょう。

 全日本に出ずにハーフの調整をしていた選手もいたなかで迎えたレースだったので、5位なら上出来、3位なら出来すぎで、むしろみんな慢心してしまうと危惧していました。その意味では、7位に終わり、箱根に向けてピリッとした雰囲気になれてよかったと思うようにしています」

【全日本で出た課題をどう克服するか】

――優勝した駒澤大とは5分余りの差がありました。

「そこですよね。その差を埋めていかないといけない。全日本で言えば、つなぎ区間の5区、6区、7区で4分半くらいの差が開いているので、そこをなんとか各自1分以内に抑えればと思うんです。アンカーの山口は、(その1週間後の)世田谷246ハーフマラソンでの走り(1時間1分46秒で優勝)を見れば、最初から攻めさせればよかったです」

――トラックシーズンは好調だったムチーニ選手も、もうひとつでした。

「彼は出雲、全日本ともに不発でしたね。夏にケニアに帰ったんですけど、昨年は現地でしっかり走ってきたんですよ。今年は2週間くらい長めに帰っていたんですけど、少しゆるんだみたいです。日本に戻って練習を見た時、こちらが求めている質と量が全然足りていなかった。昨年は戻ってきてすぐの合宿で5000m×4本をやって、ラスト1本を13分40秒ちょっとで走り、これは強いなと思ったんですけど、今年はそういう驚異的な走りができていません。

 ただ、(11月22日の)八王子ロングディスタンスの10000mでは27分50秒前後で走るという話をしていて、実際に27分34秒で走れたので、これをきっかけに上がってくるでしょう」

 ケガなどで離脱していた選手たちも復調しつつある。本来、主力のひとりである黒木陽向(4年)は夏に仙骨の疲労骨折が判明し、練習復帰を果たしたあとも胃腸炎などで苦しんだが、世田谷ハーフで1時間03分24秒とようやくスタートラインに戻ってきた。また、昨年の箱根で1区を走った齊藤大空(3年)も故障のため離脱していたが、11月16日の上尾シティハーフマラソンで1時間03分19秒の自己ベストをマークするなど調子を上げている。

――故障者が戻ってきたのは明るい材料ですね。

「そうですね。黒木は世田谷ハーフで1時間03分台にまとめてくれました。齊藤は上尾ハーフで試運転として1km3分ペースを達成できたので、箱根までにはもっと状態が上がってくるはず。このふたりと全日本を走った衣川と凜太朗、あとは世田谷ハーフで1時間03分18秒の自己ベストを出した(石丸)修那(2年)、上尾ハーフで5km15分ペースを維持できた藤田(圭悟・1年)などの6、7人で、箱根の8区、9区、10区を争うことになるでしょう」

――箱根に特化した練習も進めていますか。

「往路(候補)組と復路(候補)組に分け、例えば復路組は1km3分ペースの単独走で押していっても崩れないように、ハーフの距離で強みを持てる練習をしています。泥臭い、きつい練習をして、ようやく15、6人はハーフを1時間3分以内で走るためのメニューをこなせるようになってきたので、もう少し上げていけば箱根でも戦えるはずです。最後の3区間を"仕方なく埋めた"となるのではなく、激しい部内競争のなか、自分の力で勝ち取ってほしいですね」

【気になる箱根の区間配置】

――出雲の6人組が主に往路区間を担い、終盤の8区、9区、10区は中間層の競争で決めるイメージでしょうか。

「今回の箱根は6区、7区が非常に重要だと考えています。全日本で駒澤大が6区(伊藤蒼唯・4年)、7区(佐藤圭汰・4年)、8区(山川拓馬・4年)の後半3区間にエースと主力を置きましたよね。その区間に強い選手がいると、前の選手は安心して走れるんです。箱根ではそれが6区、7区になると考えています。

 また、以前、(パリ五輪10000mに出場した創価大OBの)葛西(潤)が4年生の時、本当は4区で起用したかったのですが、ケガ明けで7区に置いたんです。あまり期待せずに起用したわけですが、爆発的な走りで区間賞を獲り、流れを大きく変えてくれました。復路は7区がキーになると思うので、6区に新たな人材を置きつつ、7区には主力を配置するプランを考えています」

 往路の5区間はおそらく出雲6人組の選手たちが担うことになるだろうが、区間配置は悩ましい。世田谷ハーフで優勝した山口は昨年は5区だったものの、今季は平地でも勝負できる力を身につけた。ただ、ムチーニも復調していて、2区に入る可能性がある。

――2区と5区の人選については、どう考えていますか。

「2区については、スティーブンが1年の時に1時間06分43秒で走ったのですが、当時は10000mの持ちタイムが28分そこそこで、その時よりは走力が上がっています。仮に彼が2区に入るなら昨年の響ほどのタイム(1時間05分43秒)までは求めませんが、悪くても1時間06分30秒、上振れして1時間06分ひとケタ秒ぐらいでいければ、"つなぎの2区"としては上出来です。5区に関しては、昨年、山口が走りましたが、彼は平地でも十分走れますし、野沢も山を上れます。今のところ、山口についてはふたつの区間を想定しています」

――エースとして期待する選手は誰になりますか。

「現時点では、昨年の響のようにエースと呼べる選手はいません。出雲、全日本を見ても、まだ流れを変えられる走りを見せた選手はいないので、今回の箱根までにエースをつくることは難しいですが、来年のチームのエース候補は小池、山口、織橋かなと思っています。彼らがそういうエース的な存在になればチームにとっては大きいですし、他大学にとっては脅威になります。来年、13分台の選手が入ってくるので、彼らの勢いに負けないように成長して、エースになってほしいですね」

――今回の箱根駅伝はかなり熾烈なレースになりそうですが、創価大の目標はどこに置いていますか。

「3位(以内)です。ただ、青山学院大、駒澤大、國學院大は安定して強いでしょうし、ほかには中央大も選手個々の能力が高くて、どっちに振れるか蓋を開けてみないとわからない怖さがあります。あと、帝京大が強い。勢いがあり、もともとの力もあるので怖いですね。そういうチームがいるなかでの往路優勝は少し欲張りかなとも感じるので、3位をしっかり達成したい。これができれば再来年の箱根は、その上を目指すところにいけると思っています」

■Profile

榎木和貴/えのきかずたか
1974年6月7日生まれ。宮崎県立小林高校では全国高校駅伝で区間賞を獲得。中央大学では箱根駅伝で4年連続区間賞に輝き、3年時にはチーム14回目の総合優勝に貢献した。卒業後は旭化成に入社し、2000年別府大分毎日マラソンで優勝。2004年に沖電気陸上競技部コーチに就任。その後、トヨタ紡織陸上競技部コーチ、監督を経て、2019年に創価大学陸上競技部駅伝部の監督に就任すると、1年目の箱根でチーム史上初のシード権獲得、2年目で往路優勝、総合2位に導いた。