フェルスタッペンをアシストし、チームに貢献した角田(C)Getty Imagesセカンドドライバーとしての大役を果たす貢…

フェルスタッペンをアシストし、チームに貢献した角田(C)Getty Images

セカンドドライバーとしての大役を果たす貢献

 注目を集める“ラストラン”に向けて、角田裕毅(レッドブル)は意地を見せた。

 現地時間12月6日、F1の今季最終戦アブダビGPのフリー走行3回目(FP3)と公式予選が行われ、今季限りでチームのF1シートを喪失する角田は、公式予選3回目(Q3)に進出して10番手に食い込んだ。FP3でキミ・アントネッリ(メルセデス)に衝突されるアクシデントを必死の走りで乗り切った。

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 セカンドドライバーとしての大役を果たす魂の貢献だった。

 決して状態は良くなかった。というのも、FP3でピットレーンを走行中、コース確認を怠って飛び出してきたアントネッリと衝突。マシンのまさに脇腹にあたる右側のサイドポッド付近が大きく破損した。

 レース後にメルセデスのトト・ウルフ代表が「ユウキに本当に申し訳なく思っている。彼のマシンの良いパーツを全部壊してしまったと聞いた。あれは我々のミスだ」(英衛星『Sky Sports』のフラッシュインタビューより)と謝罪したように、明らかな不運だった。

 Q1に向けてマシンの再調整を余儀なくされた。しかし、エースドライバーであるマックス・フェルスタッペンのタイトル争いに全力を傾けているチームに残されたパーツは残りわずか。必然的に角田は旧式のフロアパーツを取り付け、予選に臨んだ。

 万全ではないマシンというハンデを背負った25歳だが、凄まじい走りを見せる。突破ラインギリギリの0.008秒差で15番手に入ってQ1を抜けた角田は、続くQ2も0.0007秒差で突破。まさに紙一重の好走でQ3進出を果たしたのである。

 圧巻だったのは、Q3で見せたエースに対する貢献だ。フェルスタッペンがストレート区間に入るタイミングで、前方にいた角田は故意的にスローダウン。絶妙な距離を保ちながら走り、盟友のマシンが受ける空気抵抗を減らさせたのだ。

 コンマ数秒の展開の中で見せた神がかり的な“アシスト”で、タイムを縮めたフェルスタッペンは1分22秒295をマークして暫定トップに立ち、そのまま今季8度目のポールポジションを獲得した。

 レース後にF1公式サイトのフラッシュインタビューに応じたフェルスタッペンは「ユウキのトウ(先行車の後ろにつくことで空気抵抗を減らし、最高速度を向上させて追い抜きを有利にする戦略)に感謝しかない。あれが確実な助けになった」と強調。続けて「彼は自分のラップの1周分を犠牲にしてくれた。本当に素晴らしいチームプレーヤーだし、本当に感謝している」とも話した。

 逆転での5連覇に突き進む偉才が、「感謝」を繰り返したように、リスクを抱えていた角田が見せた捨て身の走りをチーム首脳陣も高く評価する。

「彼のおかげで我々は全力を尽くすチャンスを得られた」

 F1公式サイトのフラッシュインタビューで「マックス、ユウキ、そしてチームの皆、今日は本当に素晴らしい仕事をしてくれた」と振り返ったローラン・メキース代表は、角田に対する総評を次のように話している。

「ユウキは1回目の走行でマックスにトウをし、これ以上にない素晴らしい仕事をしてくれた。もちろん、あの走りでポイントは獲得できないが、彼のおかげで我々は全力を尽くすチャンスを得られたんだ」

 チームにチャンスを与えた――。レッドブルで迎えるラストGPで、まさしく救世主と言っていい働きを見せた。では、当の本人はどう感じていたのか。FP3での予期せぬアクシデントを「あれでマシンのフロアを旧式の状態に戻さざるを得なかった。予選前ってことを考えたら理想的ではなかった」と回想した25歳は、こう続けている。

「そういう状態の中で自分には妥協が必要だった。とにかく進出が難しいと覚悟したQ3まで辿り着けて、マックスも助けられたのは本当に良かった。常に目標に据えていたことが出来て、誇りに思う。明日(決勝)はできる限りマックスをサポートしたい。それが僕に残された目標であり、レースの最大の焦点になる。もちろん求められるタスクは単純ではないかもしれないけど、彼が5度目のドライバーズチャンピオンになれるようにサポートする。それこそが僕の最優先事項だ」

 チームから衝撃のシート喪失を告げられてから約4日。テスト兼リザーブドライバーに回り、1年間はF1で戦えなくなる来季に向け、「腹が立った」と語った複雑な胸中は想像に難くない。そうした中で、アクシデントに見舞われながらも、懸命な走りを見せた角田はまさにプロフェッショナル。「人生そのもの」と語るF1での存在価値を証明したと言えよう。

 泣いても笑っても残り1日。フェルスタッペンの大逆転優勝が懸かる中で、角田はいかに有終の美を飾るだろうか。

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

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