12月5日から3日間、愛媛県松山市で侍ジャパン大学代表候補の強化合宿が行われています。全国から逸材が集う場とあって、スタ…

12月5日から3日間、愛媛県松山市で侍ジャパン大学代表候補の強化合宿が行われています。全国から逸材が集う場とあって、スタンドには多数のスカウトが集結します。また、野球ファンの数も年々増えている印象があります。

野球のオフシーズンに行われるこのイベントの楽しみ方、見どころを私なりに紹介できればと思います。

■チェックポイントその1 投手は現在地を掴め!

 合宿に参加する投手たちを見る時に大事なことは、それぞれの現在地を掴むこと。12月に行われるこの合宿では、秋のリーグ戦、神宮大会といった公式戦が終了しているため、故障をしないように出力が抑え気味の投手もいれば、スカウトへのアピールの場と捉えて、シーズン以上の投球を見せる投手もいます。

 合宿の投球が前評判以上なのか、抑えめにしているのか――。事前情報をチェックしておくと、より深く合宿を見ることができます。

 情報を記録することも大切です。投手の状態を知るには、最速、平均球速のチェックが一番です。いつもより速いのか、遅いのかが調子のバロメーターです。

 今回の合宿では近畿大の宮原 廉投手(崇徳)が最速148キロを連発していました。さらにスプリット、フォークの精度も非常に高かったです。これは前評判よりも遥かに良い内容でした。宮原投手はこの合宿に向けて、かなり力を入れて調整をしてきたようです。

■チェックポイントその2 一番上手い遊撃手に目をつけろ!

 NPBの各球団は毎年、センターラインを担える野手を指名します。特に「世代NO.1遊撃手」と呼ばれる選手は、高確率でドラフト指名される傾向にあります。直近では楽天の宗山 塁内野手(広陵-明治大)、今年のドラフトで日本ハムから3位指名された大塚 瑠晏内野手(東海大相模-東海大)らがそうです。

彼らは明らかに他の遊撃手と比べても抜けていました。宗山選手は守備範囲の広さだけではなく、送球の正確性も高い選手で、ミート力の高い打撃も秀でていました。

 大塚選手は守備のスペシャリストというべき選手で、出足の速さ、守備範囲の広さは宗山選手以上でした。昨年の合宿ではピカイチの動きを見せ、課題は打撃をどれだけ向上できるかだけでした。大塚選手は4年春、リーグ戦で打率.390、大学選手権では12打数6安打、2本塁打5打点の活躍で、評価を高め、3位指名を勝ち取りました。

 今年の参加者では明治大の光弘 帆高内野手(3年=履正社)が来年、注目の遊撃手となりそうです。迫力のあるスイングは遊撃手としてはかなりパワーがあります。守備も安定しており、肩の強さが光ります。

 國學院大の緒方 漣内野手(2年=横浜)は高校時代から華麗な守備が魅力の遊撃手ですが、入学から2年間で攻守ともにパワーアップしています。今回の合宿では本塁打を放ち、三遊間の深い位置からダイレクトスローでアウトにしました。緒方選手は2年後、ドラフト上位になる可能性が高いでしょう。

■チェックポイントその3 代表候補の打撃をいろんな角度から見てみよう!

真鍋 慧(大阪商業)

打者のポテンシャルの高さを測るには、フリー打撃を見るのが一番です。会場となる松山坊っちゃんスタジアムは、両翼99メートル、中堅122メートルと非常に広く、なかなか本塁打になりにくい球場です。

  過去には、創価大の立石正広外野手(阪神)などスラッガーと呼ばれた選手たちがフリー打撃で豪快な本塁打を打っています。やはりプロからの評価が高い選手は他の選手よりも飛ばすことが求められます。また、最近ではトラックマンを使って打球速度が測定されるようになりました。しかし、数値面や飛距離だけではなく、各選手がどのように練習に取り組んでいるかを見ることも非常に面白い。各選手の意識の高さや技術をチェックすることが大できるのです。

例えば、フリー打撃は左右に器用に打ち分ける選手もいれば、フルスイングする選手など様々。ティー打撃でも、スタンスをあえて広げたり、ボールを後ろから投げてもらって打つなど、自分のルーティンにこだわる選手もいます。

高校生と大学生のティー打撃の違いを上げるとするならば、綺麗に軸回転ができているかどうかです。

高校生のティーを見ると、斜めから入るボールを切るように打っている選手が多いのですが、大学生になると、自分の打つポイント、スイング軌道をチェックしながら打っています。どの打ち方が一番力が入るのか。一つずつ確認をしています。

 ただ試合になるとなかなか思い通りに打てません。打てない選手はトップの形成が遅れたり、ボールの呼び込みが良くなく、振り遅れる選手が多いです。ティー打撃を見ていると、試合で打てる選手、打てない選手の理由も見えてきます。

 今回の合宿で驚かされたのは大阪商業大の真鍋 慧内野手(広陵)です。高校通算62本塁打を放ち、超高校級スラッガーと呼ばれながらドラフト指名漏れを経験しました。真鍋選手の練習を見たのは2年前の高校日本代表候補の強化合宿以来でしたが、全く力感がなく、バットを寝かせ気味にして、軽く当てるようにボールを飛ばしていました。

 スラッガーと呼ばれる選手は豪快に振り抜く傾向にあるのですが、真鍋選手はその対極にある選手でした。それでも真鍋選手の打球は滞空時間が長く、スタンドまで届きます。6日の実戦打撃練習ではスタンド上段に打ち込む特大弾を打ちました。真鍋選手の今後の進化が楽しみになってきました。

■チェックポイントその4 上位指名の可能性も!代表首脳陣、報道陣も楽しみな50メートル走

 この合宿では必ず50メートル走を行います。光電管で測定するため、手動の測定よりも選手の走力をより正確に測れるといわれています。このイベントは大いに盛り上がります。観客は50メートル走が行われる一塁側ベンチの近くに大挙して観戦します。

この50メートル走で上位に入った選手は、ドラフト上位指名を勝ち取るケースが多いのです。昨年の1位は岡城 快生外野手(岡山一宮-筑波大)で5.82秒、2位は松川 玲央内野手(関西-城西大)で5.89秒でした。岡城選手は阪神3位、松川選手はヤクルト2位。5.99秒だった平川 蓮外野手(札幌国際情報-仙台大)も広島から1位指名を勝ち取りました。

もちろん3人は走力以外にも打撃、守備のポテンシャルも高いものがあり、総合力を評価されていると思いますが、俊足が評価されたのは間違いありません。

 過去にさかのぼると、19年に参加したヤクルト・並木秀尊外野手(獨協大)が5秒32、日本ハム・五十幡亮汰外野手(中央大)が5秒42を記録。当時はまだ手動計測でしたが、無名だった並木選手はこの足が評価されて、ヤクルトから指名されるまでの選手になりました。

 来年、再来年の俊足のドラフト候補を見出す意味でも重要なイベントです。今年、代表監督を務める鈴木 英之監督(関西国際大)は「報道陣の皆さんも楽しみだと思いますが、私達も楽しみです」とコメントしています。

そんな50メートル走。今回は法政大・境 亮陽外野手(大阪桐蔭)に注目です。中学時代は陸上部に所属し、100メートル11秒06を記録しており、境選手は「1位を狙います」と宣言してくれました。

 松山で行われる強化合宿は金の卵を見つけるには絶好のイベントです。いろんなチェックポイントを持っておくと、参加選手たちの今後の可能性を見通せるのではないかと思います。今回参加した58選手が合宿をきっかけに別人のように成長することを期待しています。