高崎高校は群馬大会で夏秋ベスト4入り…夏の準決勝進出は21年ぶり 今年の群馬県大会で夏・秋ともにベスト4へ進出したのは、…
高崎高校は群馬大会で夏秋ベスト4入り…夏の準決勝進出は21年ぶり
今年の群馬県大会で夏・秋ともにベスト4へ進出したのは、健大高崎や2013年に夏の甲子園を制した前橋育英ではない。公立、しかも偏差値70超の進学校として知られている高崎高校だ。練習時間は2時間前後、朝練もなし。一体彼らはどんな“ミラクル”を起こしているのか。
土埃舞うグラウンド、観音山からの吹き降ろす風。筆者が高校時代に見た景色と10数年経っても変わらない。高崎高校、通称“タカタカ”。1学年280人前後が在籍し、例年10名ほど東大への進学者を輩出している公立高校だ。一方でスポーツ推薦はなく、いわゆる“普通の進学校”でもある。
昨秋は初戦敗退、今春も2回戦で姿を消したチームが、夏大会で突如覚醒した。3回戦・前橋高校(通称マエタカ)戦では延長10回に4点を勝ち越されながら、その裏に5点を返す大逆転サヨナラ勝利。準々決勝では、1999年夏の甲子園を制した桐生第一を下して21年ぶりとなる夏ベスト4進出を果たした。新チームになった秋季大会でも再び4強進出と勢いは続いている。
どんな秘密があるのか――率直な質問を飯野道彦監督にぶつけたが、答えは「他の学校と大きく変わった練習はしてないですね」「たまたまうまくいったことがあった、ことが要因でしょうか」と驚くほど淡々としたものだった。
学校に伺った11月上旬。この日は5限終わりで午後3時45分過ぎに練習が始まった。10分ほどキャッチボールで汗を流すと、投手陣は投げ込み、内外野は守備練習、その他の選手はケージ打撃へ。午後5時に近づくと外は真っ暗。ナイター設備がないため早々に室内ウエイトへ移動していった。主将の多胡絢稀(しゅんき)外野手は「今日は5限だったので練習を早く始められましたが、6限の日はキャッチボールを始めたら暗くなりますね」と話す。
一方で、練習を見守っていた飯野監督は、生徒と会話を交わしつつも細かい指示は出さない。実は、タカタカの練習はほぼ生徒主導で進んでいく。長期的な目標を立て、そこから逆算して何が足りないのかを考える。飯野監督は「方向性がズレそうなときは修正」するが、日々の練習は生徒たちの意向を重視するという。それゆえ、昼に聞いた練習メニューが突如変わることも。それでも問題ない。生徒たちが考えた末に決めたことだからだ。
「まさか練習メニューまで全部自分たちで決めているとは」
学生野球はトップダウン型の指導が多いなか、タカタカは約2年前から生徒が練習メニューを考えるようになった。2年生の坂下悠真内野手は「(入学前に)生徒主体とは聞いていましたけど、練習メニューまで全部自分たちで決めるとは思いませんでした。正直びっくりです。でも、自分たちに足りないものを考える時間が増え、成長につながっている実感があります」と充実感を口にする。
ただし、当然ながら全員が同じ方向を向くわけではない。宮石悠歩投手は「やりたいことが人によって違うので、時々意見がぶつかることもある」と苦笑する。それでも、こう続けた。「本当に選手で運営というか。大学の練習体験とか行っても同じような感じもするので。その先取りじゃないですけど、やっていることのレベルは高いと思います」。
タカタカは昨年から「分析班」を置くようになった。近年は大会の早い段階で負けていたこともあり、“何かを変えないと”という考えで生まれたという。ベンチ外のメンバーが中心となり、対戦相手の試合映像から、相手投手の球種や配球、クセを観察し、打者の傾向も考察する。最終的にリーダーが見やすいようにGoogleスライドに落とし込んで理解しやすく共有するというのも、いかにも進学校らしい取り組みだ。
今年の夏まで担当していた小島大和投手は「私立と比べると体格や技術で劣る場面があるので。そこを補うためにも、力がなくても勝てる、みたいな感じです」と分析班の意義を話す。特に夏の準々決勝・桐生第一戦では分析班のデータが役立ったという。
“考える野球”が結実した上での夏秋の県ベスト4。しかし、現実は甘くない。夏は前橋育英に2-17のコールド負け。秋は夏に勝利した桐生第一に1-16と大敗した。選手たちから「桐生第一が怖かった」との声が漏れ聞こえた。甲子園出場の可能性も見える中、飯野監督は、進学校ゆえの“ジレンマ”を明かす。(新井裕貴 / Yuki Arai)