日本で初めて開催され、メダル総数51個と日本人選手の活躍で沸いたデフリンピック東京大会。聞こえない、聞こえにくい選手た…
日本で初めて開催され、メダル総数51個と日本人選手の活躍で沸いたデフリンピック東京大会。聞こえない、聞こえにくい選手たちが躍動する中で、伝える側の報道陣の中にも、ろう者のスタッフが取材の中心となっている番組があった。
手話と字幕で情報を伝える番組「目で聴くテレビ」。1995年の阪神・淡路大震災の時、聴覚障害者が必要な情報をテレビから受け取ることができなかった教訓を生かし、98年から放送が開始された番組だ。
開幕3日目の11月17日、テニス競技が行われた東京・有明のテニスの森公園。「目で聴くテレビ」のテニス取材班が、試合後のミックスゾーン(取材場所)で、試合終了直後の選手たちのインタビューをしていた。
ろう者で手話キャスターの小田久子さん(45)が手話で質問し、選手が手話で答える。口話で受け答えする選手もいるため、手話通訳者の清水晶子さん(43)が、手話を口話に訳して選手に伝える工夫もしていた。
取材班をまとめていたのは、ろう者でディレクターの池田一美さん(56)だ。「聞こえる、聞こえないという枠を超え、それぞれが得意分野を生かし合いながら取材を進められたことが、このチームの特徴だった」と池田さんはいう。
■聞こえる人が見落としがちなもの
テニス競技の取材に関わったのは、編集者なども含めて総勢10人。聴者6人、ろう者4人の混成チームだ。
池田さんの取材班には3人の撮影者がいて、そのうち2人がろう者だった。そこも取材時の強みになったと池田さんは感じている。「選手たちは聞こえないからこそ表情や動きにすべてを込めて周囲に伝える。ろう者の撮影者には、聞こえる人が見落としがちな視覚的なリズムや空気の動きを捉える感性がある。そうした多様な視点を生かすことで、より豊かな『見え方』を番組に反映できると感じている」という。
「目で聴くテレビ」の番組は、インターネットを使ったテレビ放送「IPTV」での視聴が中心で、専用の受信機が必要だ。受信機は全国で数千台ほどで、その普及が課題となっている。地上波では、テレビ神奈川、京都放送、サンテレビで週1回、約30分の番組が放送されているが、まだ少ないのが現状だ。