駒澤大・藤田敦史監督インタビュー 後編前編では、駒澤大・藤田敦史監督に、今シーズンの出雲駅伝5位、全日本大学駅伝優勝につ…

駒澤大・藤田敦史監督インタビュー 後編

前編では、駒澤大・藤田敦史監督に、今シーズンの出雲駅伝5位、全日本大学駅伝優勝について振り返ってもらい、そこで得た箱根駅伝にむけての自信やチーム状況を語ってもらった。後編では、箱根駅伝に向けてさらに深く掘り下げて、各校の分析や取材をした11月の時点での理想のオーダー、次世代のエースについても聞いた。



箱根駅伝は3年振りの優勝を目指すと語った駒澤大の藤田敦史監督

【今回の駒澤大はバリエーションが多い】

――前回の箱根駅伝は青学大に敗れ2位でした。結果的に2区、4区、5区、6区に絶対的な大砲を持っていた青学大に軍配が上がりましたが、今回は前回ほど戦力的な差はないように感じます。そのなかで4年の佐藤圭汰、山川拓馬、伊藤蒼唯と3人の頼れる主力を持っている駒澤大としては、どういう戦いを意識していますか?

藤田 もし、伊藤蒼唯が6区を走るなら56分台がターゲットになるだろうし、山川拓馬が5区ならば、1時間9分台がターゲットになると思う。そのふたりが山区間を走れるなら相当強いと思います。ただ、ふたりは1年生の時からこの区間を走っているので、彼らが4年になっても走る状況は、チームとして成長がない証だとも思います。今後も考えたうえでそこをどうするのか、決断をしなければいけないです。

 現状で5区と6区で彼らに代わる存在がいるか?となるとなかなか難しい。5区、6区で勝負にいくのか、平地で挽回しながら5区、6区はしのぐのか、ふたつの考え方があります。ある程度そこが解消されれば、今回の箱根はすごく自信のあるオーダーを組めるかなと思います。

――今回は作戦が立てやすいかもしれませんね。

藤田 ほかの大学からすると、今回の駒澤はバリエーションが多いので、箱根に関してはとくに読みにくいのではないかと思います。伊藤や山川が山の区間に行くのか、平地を走るのかで、ほかの大学の作戦は変わってくると思います。逆に言えば、そこはうちの強みだと思うので、選択肢を増やすためにも伊藤や山川に代わる山の人材を作らないといけないです。

――まずターゲットは、5強と言われる駒澤以外の4校(青学、國學院、中央、早稲田)になりますか?

藤田 そうなってくると思います。早稲田は往路に強い選手を並べて、復路はしのぐという走りになるかと思います。中央は前回のように1区でどこまで逃げられるかという作戦でくる可能性が高い。青学は箱根に向けて作り込んでくるので、箱根になると走る選手がいっぱいいますよね。國學院も強い選手が多いので、他校を見ていくと"往路でどれだけ遅れずにいけるか"というのがカギになってくると思います。

 駒澤の復路は間違いなく強いので、往路でいかに前をキープして、遅れたとしてもどれだけ僅差でついていくかが大事です。オーダーをどう組むかバリエーションが多いがゆえに悩ましいところはありますが、「これしかない」というオーダーではないので、来年を見据えて組むこともできるのではと感じています。

【選手層が厚いからこそ、オーダーを考えるのが楽しい】

――そうなると予想外の2区起用もありそうですか?

藤田 山川を5区にするのであれば、ほかの選手を2区に持ってこなくてはいけないので、そこが難しいですね。青学は今の学生のなかで一番強い黒田朝日くんを2区か5区に置くでしょう。黒田くんが2区の場合はそこで張り合うよりも、3区を大事したほうがいいかなとも考えますし......。

 ただ、うちは選手層があるので、2区と3区をセットで考えることができます。山川を黒田くんにぶつけて、佐藤圭汰で勝負というのもできるし、もしくは2区に次世代のエース候補を持ってきて、3区の圭汰で勝負もできる。5区に山川がいれば、そこでももう1回ストロングポイントを作れるので、それはそれでありかなと......楽しいですね。

――黒田選手が2区を1時間5分で走っても、1時間6分でついていければ、次の3区で対応できるということですね。

藤田 そうです。3区で挽回できるのであれば、そこでリセットして、5区にジョーカーを置けるチームのほうが勝つという考え方もできるんですよね。

――前回1区の帰山侑大選手(4年)も、どこで使うのか気になります。

藤田 全日本の1区で区間4位の小山翔也(3年)が、箱根1区で使える目処が立てば帰山を別に回せると考えています。

(2023年に)2年連続三冠をやろうとした時は、箱根で青学に負けました。当時ももちろん強かったですが、出雲、全日本と限られたメンバーでしか戦えず、箱根では疲労が出てしまったという感じです。ただ、今回は出雲、全日本と休めた選手もいるので、その選手たちが戻ってくると考えれば、期待感のあるチームだと感じています。

――余裕を持って戦えるようになれば、それぞれの選手の特性を十分に生かした区間配置もできるようになりますね。

藤田 そうですね。前回で言えば、7区に圭汰がいるのは、他チームはやっぱり嫌だったと思うんです。主要区間に来るよりも圧倒的な差がつきますから。今回の全日本の5区も、本来なら主要区間を走る伊藤が走ったことで、区間2位の選手とは1分25秒差がありました。

"相手が嫌がる配置"をできるかが、勝負のポイントになるかと思います。3区は下り基調の伊藤が走れば相当前に行くと思うし、圭汰だけではなく帰山も下りの経験者なので向いている。

 例えばですけど、もし下りに他の候補がいれば7区にまた圭汰、9区に伊藤というのもできる。7区で圭汰が59分台、伊藤が9区で1時間6分台なんて、とんでもない記録も出るかもしれませんね。簡単にはいかない夢のオーダーだけど、そういうのを考えるのが今年はすごく楽しいと感じています。

――夢だとは思いますが、どういう条件がそろえばそれができると考えますか?

藤田 実際には伊藤は6区か往路を走る選手だし、圭汰も普通に考えれば往路の選手だと思っています。夢のオーダーは、次世代候補選手たちが盤石に走って初めて実現することなので難しいとは思います。

【次世代エースと期待の選手たち】

――次世代を担う選手でいえば、誰が挙げられるでしょうか?

藤田 2年の桑田駿介と谷中晴ですかね。今の3年生がもっと高いレベルの層を作り出せれば、ダブルエース+αとして面白いチームが作れると思います。もし谷中が「次は俺がエースだから2区を走りたい」なんて言い出してオーダーを組めれば、1区小山、2区谷中、3区帰山、4区桑田、5区山川で往路が組めます。復路は、下り候補がしっかり育ってくれば、7区に圭汰、9区に伊藤を置ける。そうなれば他校が絶対に勝てない復路になると思います。

――来季を見据えて桑田選手、谷中選手以外で期待する選手はいますか?

藤田 2年生で坂口雄哉という5区志望の選手がいて、夏合宿では山川と同じ練習をこなしていました。本当は出雲からデビューさせる予定だったんですが、ケガでエントリーできませんでした。今はケガも治って練習を積めているので、箱根には間に合う見通しです。まだ全然世には出てきてないけど、けっこう気が強くて今後は出てくる選手なので、桑田と谷中に加えて坂口は非常に楽しみな選手です。

 あとは、今季の駅伝を走っていないメンバーで言えば島子公佑(3年)です。全日本は走ってもおかしくない状態まできていましたが、最後は村上響(3年・全日本6区区間2位)との比較で、その時状態のよかった村上を選びました。ほかの大学だったら間違いなく走れているくらいの力がある選手です。1年生だと双子の牟田颯太・凜太が、この1年間じっくりと練習をやってきたので、来年には出てくると思います。

 今のチームの核になっている4年生4人が抜けるのはきついですが、また1年作り込んでいけば、来年は来年で、また違った面白いチーム作れると期待しています。

【Profile】
藤田敦史/ふじた・あつし
1976年11月6日生まれ。福島県出身。駒澤大在学時には箱根駅伝に4年連続で出場し、4年生の時には4区で区間記録を更新している。卒業後は富士通に入社し、故障に悩まされながらも福岡国際マラソンで優勝を果たした。引退後、富士通陸上部で長距離コーチを務めたのち、母校である駒澤大陸上競技部のコーチに就任した。2023年の箱根駅伝終了後、長年、陸上競技部監督を務めた大八木弘明氏に代わり監督に就任。出雲駅伝優勝1回、全日本大学駅伝優勝2回と成績を残している。