サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニ…

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回のテーマは、「まさに隔世の感」。

■分厚い束となった「航空券」

 国内移動は、もちろん、飛行機である。大会の取材計画を立て、どの日にどの都市でどんなカードを取材するかを決める。そして当時、海外出張のときにいつも手配を頼んでいた交通公社(JTB)の担当者に知らせ、日本からの往復便と国内移動の便をすべてとってもらった。

 当時はネット予約などない時代である。当然、Eチケットもない。航空券は、すべて航空会社発行の「実券」である。成田からサンフランシスコ経由でシカゴまで飛び、シカゴからはニューヨーク、ワシントン、ボストン、シカゴ、デトロイト、ボストン、シカゴと、大会の前半は東部を回った。そしてグループステージが終了したら西海岸に移り、ロサンゼルス、サンフランシスコ、ダラスなどを回った。日本とアメリアを結ぶユナイテッド航空のチケットは、予定変更も返金もできない安いものとしたが、アメリカ国内の航空券はすべて正規料金のものである。航空券は分厚い束となった。

■キックオフの「2時間前」に着きたい

 大会4日目の7月20日にワシントンDCでオランダ×サウジアラビアを取材し、翌日はボストンで12時半キックオフのアルゼンチン×ギリシャを取材することになっていた。アルゼンチンはマラドーナを擁する注目のチームである。JTBが手配してくれていたのは、ダレス国際空港を午前8時半に出発する予定のユナイテッド航空の便だった。

 しかしオランダ×サウジアラビアを取材してワシントン都心のホテルに戻ったとき、今井さんが「もう少し早く行けないかな」と言い出した。予定の便の到着予定時刻は10時20分。ボストンの会場は、空港から70キロも離れた場所だが、タクシーを飛ばせばキックオフの1時間前には着くだろうという計算だった。しかしカメラマンはキックオフの2時間前に「ブリーフィング」があり、撮影ポジションが決まるので、できれば、10時半には競技場に着いていたいというのだ。

 調べると、都心に近い「ナショナル空港」から7時に出発し、9時20分にボストンに到着するアメリカン航空の便がある。正規の航空券なら他社でも使えるはずだ。すぐにアメリカン航空のオフィスに電話し、2人分の席を予約した。翌日は5時半に出発しなければならない。私と今井さんは、早めに寝ることにした。

■私の席がない!「ノー・プロブレム」

 ところが―。翌朝、目が覚めて時計を見ると、なんと6時半ではないか! 「今井さん、大変だ!」と隣のベッドで熟睡する今井さんをたたき起こし、すぐに支度を始めた。しかしいくら近い空港とはいえ、アメリカン航空の便には間に合わない。そのとき思い出したのが、8時半ダレス国際空港発の便をキャンセルしていなかったことだった。10分で荷物をまとめ、チェックアウトしてタクシーでダレス国際空港に向かう。そして7時45分にはチェックインを済ませ、8時半初の便に乗ることができたのである。 

 それにしてもノンストップなのにワシントンからボストンまで2時間近くもかかるのかなと思いながら搭乗ゲートをくぐると、理由がよくわかった。UA6506便は、19人乗りの小さなプロペラ機だったのである。

 しかも搭乗してみると私の席がない。片側1席ずつ10列の飛行機で、私の席は10Aだったのだが、搭乗口に上って機内に入ると、10Bはあるが10Aは見当たらないのだ。機内でにこやかに乗客を迎えているキャビンアテンダント(CA)に言うと、「ノー・プロブレム」のひと言。全員が乗り終わって着席し、搭乗口のドアを閉めたCAは、ドアの背後にあった壁から座席をひとつ引き出し、「これがあなたの席よ」と示し、自らは10Bの席に着いてシートベルトを締めた。

 飛行機は低空をぶんぶんと飛び、予定どおり10時20分にボストンの空港に着陸した。

■【画像】「マラドーナの試合に間に合うのか?」ワシントンからボストンまで2時間近くもかかる「19人乗りのプロペラ機」

ワシントンからの移動は、ベテラン記者の中条一雄さんと一緒だった。中条さんの背後に見えるのが、私たちをボストンまで運んだ19人乗りのプロペラ機である。©Y.Osumi

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