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12月1日、アシックスは、河村勇輝と共同開発した新作バスケットボールシューズ『SWIFTACE YUKI』を発表した。
発表当日、バスケットボールキング編集部は原宿にある旗艦店『アシックス原宿フラッグシップ』で開催されたローンチイベントに潜入。佐々木クリス氏の司会のもと、国内最注目の一足の全貌が暴かれた。
河村勇輝のスピードの本質を紐解く
トークショーの第1部には、TikTokやYouTubeでお馴染みのバスケクリエイターのクリス氏と、世界を股にかけるトップモデルのUTA氏が登場。河村の“多層的なスピード”を軸に、登壇者たちによって夢を与える国産ポイントガードの魅力が語られた。
“SWIFT”とは「素早い」という意味を持つが、これは河村の物理的なスピードだけに当てはまるものではない。クリス氏は、河村の早さについて“判断力”を例に挙げ、同選手の持つ様々な“SWIFT”について「日本の学生バスケにある“速さ”を成熟させていったもの」と私論を展開。この点について、佐々木氏は河村の緻密なフィルム研究が背景にあり、「日頃映像と向き合うことをゲームの擬似体験としてイマジネーションを育んできたのでは」と分析した。
一方、学生時代に名門校IMGアカデミーでプレーしたUTA氏は、河村のスピードの原動力でもある“フィジカルの強さ”に脱帽。自身より遥かに大柄な選手と対峙した際にも当たり負けしない河村の下半身の強さは、同じガードを主戦場とするUTA氏にとって尊敬に値するものであり、クリス氏も「河村選手の凄さはスピードよりもフィジカルにある」という知人のBリーガーの発言を引用して、UTA氏に同調している。
“スピードの再構築”の末に辿り着いた一足
続く第2部には、アシックスより企画担当の實方一朗氏とシューズデザイナーの松浦貴広氏も参加。いよいよ『SWIFTACE YUKI』にスポットライトが当てられた。
話題はシューズの企画コンセプトから始まる。實方氏は開発のスタート地点が「現代の高速化するバスケットボールへの対応」と、河村の「子どもたちにも自分と同じシューズを履いてほしい」という次世代プレーヤーたちの熱い想いにあったと振り返る。同モデルからはジュニアサイズの『SWIFTACE GS YUKI』が同時発表となっており、純粋なサイズダウンではなく、カットの高さや屈曲性に調整を施し、成長を阻害しない仕様を実現している。
河村とアシックス陣営のコミュニケーションでは、“スピードの再構築”をテーマに「バスケットボールにおけるスピードとは」と、改めてスピードの意味に向き合ったという。そして、各所へのヒアリングと分析の末、アシックスは「限られた時間の中でより多くの動作を完結させること」がスピードの本質と結論づけ、パス、ジャブ、ドライブ、シュートといったバスケットボールの一連の動作をスピーディーに繰り出すためのギアを目指した。
専門店で働いた経験やコンテンツ制作で数々のシューズを手に取り、試着してきたクリス氏は『SWIFTACE YUKI』の特徴的なつくりに目を向けた。同氏は『SWIFTACE YUKI』を「現行で発売されているモデルで1歩目の踏み出しが最もしやすいシューズ」と評価し、トゥの反り上がりや屈曲性能、つま先からかかとにかけての高低差に言及。この鋭い視点には實方氏も即座に反応し、昨今の主流であるフラットなつくりとは一線を画し、前後の高低差はこれまで河村が愛用してきた『UNPRE ARS LOW 2』が5ミリだったのに対し、『SWIFTACE YUKI』は倍の10ミリに設計されていると説明した。『SWIFTACE YUKI』はこれにより前傾姿勢を取りやすく、一歩目の初動の速さを後押しする構造を実現している。
別のベクトルからのアプローチにも、会場からは感嘆の声が漏れた。マイクは松浦氏へと移り、デザインコンセプトの話題へ。「BLITZ」というキーワードに象徴されるように、アッパーのサイドを飾るアシックスストライプは、後部に稲妻がほとばしるアグレッシブなデザインが採用されている。さらに、このコンセプトはダブルミーニングになっている。日本では古来より「雷が多い年は豊作」というような言い伝えがあったことから、BLITZは“五穀豊穣をもたらす雷神”を表現。田畑への刺激で作物が育つ、すなわち河村の世界での活躍がバスケットボール界を刺激し、国内の土壌を耕すことで、次世代のスター誕生に貢献するという願いが込められているのだ。
また、スピードシューズと聞くと軽量性と思いがちだが、開発過程において河村からは「軽さ=スピードではありません」との強調があり、爆発的なスピードとフィジカルな戦いが求めらるコートにおいて、シューズの“剛性”も開発の重要項目となった。それを実現するのが、ミッドソールに搭載された樹脂製の補強パーツ「SPEEDTRUSS(スピードトラス)」だ。この樹脂パーツは、ドライブ時に内側に蹴っていくような動作を容易すると同時に、外側への耐久性を発揮し、ケガ発生の抑制にも貢献している。
UTA氏は早速、実践で『SWIFTACE YUKI』を着用し、すでにその性能を体感済みだ。ドライブにおける縦への推進力はもちろんのこと、レイアップやダンク動作のステップ時に前足部のバネ感が印象に残ったようで、これは反発性を生み出す「FLYTEFOAM PROPEL(フライトフォームプロペル)」によるもの。また、ディフェンスではサイドのスライドに意識を払いながらプレーしたそうで、「今までの履いてきたシューズの中で最もくるぶし周辺の痛みがなかった。確かな堅牢性もあり、キュッとディレクションチェンジが可能。グリップとトラクションもはっきりと感じられて、まさにポイントガードに相応しい一足でした」とレビューした。
「世界の舞台で戦うためのバスケットボールシューズ」
そして、イベントの最後にはサプライズで河村からの直筆メッセージがスクリーンに。「世界の舞台で戦うためのバスケットボールシューズが完成しました。 僕とアシックスの思いが皆さんに届けられたら嬉しいです」とコメントを寄せ、共同企画モデルが世界基準の一足に仕上がっていることを報告している。
その後は、フリーセッションとなり、『SWIFTACE YUKI』の試着体験も。実際に足を通すと、メッシュアッパーの軽やかなビジュアルとは裏腹に、構造のタフさを感じられた。また、クリス氏やUTA氏も絶賛したトゥの構造も両者のフィードバックと違わず、踏み出しにはランニングシューズを疑うようなスムーズさがあり、移動と姿勢維持への貢献はプレーをせずとも容易に想像できるほど完成度の高い一足だった。
また、デザインも細部まで洗練されており、ボックストップにブランドロゴはなく、メタリックな河村のサインだけが輝く美しいラッピングに。シューズ本体についてはパリでランウェイを歩くUTA氏も「流れるようなデザイン。僕の知っている従来のアシックスのバスケットシューズではなく、海外のファッションシーンからも人気の高い『GEL-KAYANO』のようなムードを感じる」と絶賛した。
『アシックスフラッグシップ原宿』では、12月末頃まで『SWIFTACE YUKI』の特別展示を開催中。お近くの際には、12月10日(水)のオンラインストア予約や、12月19日(金)のアシックスストア販売前に、アシックスバスケットボールの意欲作をその目で確かめてみてはいかがだろうか。
文=Meiji
【動画】河村勇輝の足元を支える至極のシューズが誕生