2025年のJ1リーグもクライマックス。首位の鹿島アントラーズは優勝のプレッシャーの中で、苦しみながらも勝利した。勝点…

 2025年のJ1リーグもクライマックス。首位の鹿島アントラーズは優勝のプレッシャーの中で、苦しみながらも勝利した。勝点3を積み上げたわけだが、その大熱戦の裏側には、対戦相手である東京ヴェルディが披露したものも含めて、雌雄を決す「3つのマジック」があったという。サッカージャーナリストの後藤健生が、その瞬間を試合の経過とともに、詳らかにする!

■終盤まで残す必要があった「交代カード」

 それは勝負勘のようなものでもあろうし、また論理的な判断でもあったのかもしれない。

 ひとつには、鬼木達監督自身も語ったように「プレッシャーの中で戦っている選手が足を痙攣させるようなアクシデントが起きかねない」という心配があったことだ。そのためには、ゲームの終盤まで交代カードは残しておく必要があった。

 そして、もうひとつは東京Vの選手たちの動きが落ちてくるだろうという予測だ。

 前半から、東京Vの選手たちはまさに持てる力を出し切って戦っていた。後半に入って、時計の針が進めば、いずれは動きが落ちたり、ミスが増えたりするはずだ。

 実際、後半に入ってからも鹿島の攻撃は迫力を欠いたままだったにもかかわらず、東京Vのパスワークにミスが生じ始めていた。ボールを奪われた後、すぐに守備に切り替えられないような場面もあった。

 そして、そんな流れの中で54分にまず松村優太が投入され、実際、ピッチに立った2分後には東京Vの平川怜にプレッシャーをかけてボールを奪って、田川亨介とパス交換して左サイドからチャンスをつくった(そこで獲得したCKを小川諒也が蹴って、ゴール前でレオ・セアラがヘディングする決定機につながった=シュートはバウンドしてクロスバーを越えた)。

 そして、試合はいよいよ「勝負どころ」に差し掛かる。

■勝負の交代から「わずか2分後」の決勝弾!

 鬼木監督が勝負に動く。72分に田川に替わって荒木遼太郎、MFの知念慶に替わって舩橋佑が投入された。

 同じタイミングで、東京Vもこの試合で素晴らしいパフォーマンスを発揮した両シャドーを交代させたが、交代カードの切り合いになると選手層の厚い鹿島が圧倒的に有利になる。

 その「勝負の交代」からわずかに2分後、鹿島の決勝ゴールが生まれた。

 東京Vの右WBとして上下動を繰り返していた内田陽介に鹿島の松村がプレッシャーをかけると、内田からのパスは荒木の足元に入ってしまった。

 内田は明治大学出身の23歳。J1リーグ出場は9試合目という若い選手だったので、強度の高い試合の中で疲労が溜まっていたとしても不思議ではない。

 荒木はボールを前に持ち運んでから、前線のレオ・セアラに正確なパスをつける。レオ・セアラがDFから離れる方向に持ち出してシュート。これは、東京VのGK、マテウスがブロックしたが、そこに最初に内田にプレッシャーをかけてから足を止めずに走り込んできた松村が到達して、こぼれ球を蹴り込んだ。

 東京Vの選手たちに疲労の色が濃くなった時間帯に、運動量のある松村を入れてプレッシャーをかけたこと。そして、交代で入ったばかりでフレッシュなうえ、モチベーションも高い荒木が関与……。

 まさに、鬼木監督の采配が的中したのだ。

■試合を締めくくった「勝負師」としての能力

 結果論として言えば、必然のゴールではある。

 しかし、この日の鹿島は「引き分けは許されない」状況に置かれていた。

 同時刻に2位の柏レイソルアルビレックス新潟と戦っており、細谷真大のハットトリックで快勝した。鬼木監督は「柏の試合の情報は入れていなかった」と言うが、すでに降格が決まっている新潟相手の試合で柏が勝利する可能性は高い。鹿島が引き分ければ、首位の座は入れ替わってしまう。

 そんな状況で、前半は東京Vに試合をコントロールされたのだ。「勝負どころを待つ」ことなんて、なかなかできることではない。

 しかし、鬼木監督は、「ハーフタイムでは動かず、そのときを待つ」という決断ができたのである。優勝経験の豊富な監督だからこそできる決断だったろうし、この人の持つ勝負師としての能力は恐るべきものだ。

 この試合の最後を締めくくったのは、鬼木監督の勝負師としての「マジック」だった。

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