プレーはもちろん、キャプテンとして見せる振る舞いが相手チームを取材している記者からも称賛される。 今季、大阪ブルテオン…

 プレーはもちろん、キャプテンとして見せる振る舞いが相手チームを取材している記者からも称賛される。

 今季、大阪ブルテオンの主将に就任した西田有志は11月9日、東レアローズ静岡のホーム、三島市民体育館で連勝したあと、こう言った。

「我慢という言葉を掲げるのは好きじゃない。もっとポジティブにさまざまな出来事に挑んでいきたい」


エモーショナルにチームを盛り立てる大阪ブルテオンの主将、西田有志

 photo by スポーツ報知/アフロ

 すると、静岡で長年バレーボールの取材を重ねる記者が、取材後に思わずつぶやいた。

「発する言葉が、すべて前向き。強いチーム、いいチームのキャプテンだな、と。言葉からも伝わってくるよね」

 勝ち負けによって、選手が発する言葉は変わる。敗者は課題を克服するための対策も述べるが、その前に敗因を分析して受け入れなければならないため、ネガティブな言葉になりがちだ。

 一方、勝者はポジティブな言葉を発することは前提としても、1試合を終えた直後にまた次、さらにはその先を見る。言葉を生業とする記者から「すべて前向き」と称賛された西田の言葉と、チームを率いる姿勢を同様に称えていたのが、大阪Bのミドルブロッカー、西川馨太郎だ。

「西田さんがどう思っているかはわからないですけど、僕は(西田が)すごくキャプテンらしいキャプテンだな、と。SV(リーグ)でキャプテンをやるような選手は、みんないろんなことができる人たちだし、そもそもSVでプレーする選手はレベルが高い。

 キャプテンだからといって特別なことをする必要がないのかもしれないですけど、西田選手はすごくキャプテンシーを発揮しているし、コート内でも外でもチームをリードする。引っ張ってもらっているのを実感しています」

 西川の言葉を聞いた西田が、照れ笑いを浮かべる。

「僕が一番はっちゃけられるので。そもそもプレースタイルがそうだと思うし、何より第一に思っているのが、いかなる状況でもチームとして"我慢"をするのではなく、何ができるか。俯瞰しながら見続ける余裕があるので、それがチームにとっていい影響を与えられているならいいな、と」

【キャプテン就任を依頼され「断る理由はなかった」】

 西田は高校在学中の2018年1月にSVリーグの前身、VリーグのジェイテクトSTINGSで鮮烈なデビューを飾った。同年に日本代表にも選出され、東京、パリと二度の五輪に出場する日本の中心選手へと成長を遂げていった。また2019年ワールドカップ最終戦のカナダ戦のように、勝負どころでの連続サービスエースなど、自らのプレーで見せ場をつくり、喜び方も実に豪快。日本代表や所属するクラブの中で最年少として長く過ごした印象が強いせいか、今季、大阪ブルテオンの主将就任を意外と捉える人も少なくなかった。

 だが西田自身は、「ごく自然だったし、キャプテン(の就任)を打診されて断る理由はなかった」と言う。

 それはなぜか。これまでのキャリアを振り返れば、すべてのカテゴリーで主将を経験してきたからであり、レベルや意識は異なるとはいえ、やるべきことは変わらないからでもある。

「キャプテンになったから特別なことをする、というわけではないです」と西田は話す。

「でもキャプテンがチームの顔であることは間違いない。だから、僕は今までと同じようにまず自分がやるべきこと、チームとしてやるべきことをやりますけど、そこにプラスしてキャプテンとして何かするのであれば、自分がやることで周りも引き上げること。

 技術や体力には人それぞれ違いがありますけど、バレーボールに取り組む姿勢ややるべきことをやるということに対して違いはないので、とにかく徹底して、やるべきことをやってレベルを上げる。できない人に合わせるのではなくて、できる人に合わせてどんどん高いレベルを目指す。それが僕の考え方だし、変えるつもりもありません」

 やるべきことをやる──特に西田が重きを置くのは、周到な準備だ。日々の練習への準備はもちろん、ひとつひとつの試合に対して身体と心、頭の中をどれだけ万全に整えて臨めるか。西田に強くそう思わせるようになったのは、昨シーズンの苦い記憶、プレーオフでのセミファイナル、ジェイテクトSTINGS愛知に敗れた2試合だ。

「試合はテストと同じで、準備していなければ結果は出ないと思っています。いくら『やってきた』と言っても、試合で結果を出せなかったり、テストで取るべき点数を取れなければ、明らかに足りなかったということですよね。

 そこでよく頑張ったね、いいバレーだったね、で終わるのは違う。結果として及ばなかったのであれば、勝負の世界では相手よりも準備が足りなかったということ。これだけやれば大丈夫だ、と思える準備を重ね続ければ技術も上がるし、できないことは少なくなる。だから僕は準備を大切にするし、周りに対しても求める。すごくシンプルなことだと思うんですよ」

【新加入ブリザールとの相性も良好】

 本稿執筆時点で、今季の大阪Bは12試合を終えて11勝1敗。同じ勝率のサントリーサンバーズ大阪をセット率で上回って首位につけている。そんな好調のチームでプレーする西田の姿は実に楽しそうで、動きも軽やかだ。

 日本代表登録選手に選出されたものの、合宿や試合には帯同せず、自身のフィジカルと向き合うべく身体の原理原則を学び、肉体改造や動作の見直しに務めた。その成果に加え、今季から新加入したセッターのアントワーヌ・ブリザールの影響も大きい。

「(ブリザールからは)常にどこからでもトスが来るので、やっていて面白い」と西田が言うように、ラリー中もセオリーにとらわれることなく、相手ブロックやディフェンスと駆け引きしながら自在に攻撃を展開するフランス代表の司令塔とは、相性も抜群だ。

 またリベロの山本智大やレシーバーで起用される池城浩太朗のセットからの攻撃展開や、ミドルブロッカーやアウトサイドヒッターが2本目をセットする際も、チームとして求めるレベルは高い。単に個人技に長けた選手が揃うから強いのではなく、そうした選手が組織としてプレーできているからこそ強い。それがブルテオンだ。西田は得点した後、雄叫びを挙げるよりも、満面の笑みを浮かべることが多い。それは、やりたいバレーが体現できている楽しさの表われだろう。

 リーグ戦は今週末で一旦、休息期間に入り、天皇杯が開催されるが、ブルテオンはブラジルでの世界クラブ選手権にアジア代表として出場。石川祐希が在籍する昨季の欧州チャンピオンズリーグ王者、ペルージャとも対戦する。

 長いシーズンはこれからが本番とも言える戦いが待っている。だが誇張も謙遜もせず、西田は冷静に"今"を見ている。

「ダメな日もあるけれど、ダメだった、で終わらせるのではなく、ダメだったことも次につなげる。それは僕だけじゃなく、チームとしても同じ。特に競り合った場面では、誰かひとりが『やらなきゃ』と思っても勝てるものじゃない。コートに入る6人、7人、もっといえばベンチに入る14人が全員で声を掛け合いながら戦う。それができれば、気負うことなく、勝ちにつなげられると僕は信じています」

 我慢するのではなくポジティブに戦い、結果を求める。もちろんそのための準備は誰よりも怠らない。

 重ねた準備がすべて必要だった、と最後に笑えるように。キャプテン西田は誰よりもバレーボールを楽しんで、チームを勝利に導いていく。