現地発! スペイン人記者「久保建英コラム」 久保建英は古巣ビジャレアル戦で2試合ぶりに先発し、ラ・リーガで1年半ぶりとな…

現地発! スペイン人記者「久保建英コラム」

 久保建英は古巣ビジャレアル戦で2試合ぶりに先発し、ラ・リーガで1年半ぶりとなるアシストを記録した。なぜこれほどまでにアシストがつかなかったのか。今回はサン・セバスティアンの地元紙『ノティシアス・デ・ギプスコア』で、長年レアル・ソシエダの番記者を務めるマルコ・ロドリゴ記者に、久保のこれまでのプレーを分析してもらった。

【縦突破からのクロスでは数字が伸びない】

 久保はここ数年、右ウイングでプレーしている。これは彼の総合的な能力には大きく影響していないが、スタッツやドリブルの有効性には影響を与えていると思われる。


ビジャレアル戦で久々のアシストを記録した久保建英

 photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 持ち味である相手を振りきるドリブルの能力があまり役立っていない。右サイドでダブルマークを受け、孤立させられることが多いため、活路を見出す唯一の手段はスピードを生かしてゴールラインに向かっていくことだ。このプレーは得意であるため、たいてい成功するのだが、そのあとがうまく続かない。

 縦にドリブルを仕掛けた場合、利き足ではない右足でクロスを上げざるを得なくなるからだ。その精度はそれほど高くない。その上、ゴール前で待ち構えるチームメイト、とくにミケル・オヤルサバルは空中戦のスペシャリストではない。

 ビジャレアル戦の後半は、まさにこのような場面に遭遇していた。チームが3-4-3で臨んだ前半は中央寄りでプレーしたが、セルヒオ・フランシスコ監督は途中からシステムを4-2-3-1に変更した。これにより久保は右サイドに移動し問題に直面することになった。ボールを受けて相手DFとの1対1の状況を作り出すも、その多くはゴールライン際から右足でクロスを上げ、誰もシュートを打てずに終わっていた。

 それでも久保は、対峙したアルフォンソ・ペドラサを退場寸前にまで追い込み、カルロス・ソレールへのパスで2024年5月以来となるラ・リーガのアシストを記録する好プレーも見せた。カットインして得意の左足でチームメイトと連係すると、ゴールシーンを演出できたのは決して偶然ではない。

【ピッチ中央でプレーすればスタッツはよくなる】

 ウイングの選手たちは今季、セルヒオ・フランシスコ監督にこれまでと異なる役割を託されており、昨季と比べ、中央寄りでプレーする機会も増えている。

 2カ月にも渡って苦しめられたケガが完治した今、ビジャレアル戦の前半のようにサイドに偏らず中央寄りでプレーするのか、それとも過去のシーズンのように右サイドに張るプレーを求められるのか、今後数週間で明らかになっていくだろう。

 久保がピッチ中央でプレーすればするほど、スタッツがよくなると私は確信しており、そう思うための根拠も十分にある。

 ラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)4シーズン目の今季はケガの影響もあり、ここまでわずか1得点1アシストに留まっている。一方、4-4-2の2トップでアレクサンデル・セルロート(現アトレティコ・マドリード)とコンビを組み、より中央でプレーしたラ・レアル初年度の2022-23シーズンは、9得点6アシストを記録することができた。

 その後の2年間、4-3-3の右ウイングに固定されると成績は低下した。2023-24シーズンは7得点5アシスト、昨季は7得点4アシストと減少していっている。

 数字は嘘をつかない。久保がサイドで心地よさを感じているとしても、監督が彼をピッチ中央に近づけるほど、チームに与える影響力は大きくなるはずだ。ペナルティエリア手前でのドリブルは、右サイドよりも大きな効力を発揮するだろう。

 さらに、サイドから逆足でクロスを上げる必要はなく、ショートパスでチームメイトと連係できるようになるという利点もある。これにより彼はチームにとってより価値のある選手となり、今以上にアシストも増えていくはずだ。

 イマノル・アルグアシル監督時代から最近まで、タッチライン際で足元にボールを受ける役割を求められてきたが、それは久保にとってマイナスに作用していた。そのため彼は、FW陣の動き方やポジショニングを変えて攻撃を活性化させることに成功したセルヒオ・フランシスコの監督就任に感謝すべきだろう。

 ピッチで天賦の才能を発揮し、創造性とクオリティーを解き放つことで現在の地位を築き上げてきた久保のパフォーマンスに疑問の余地はない。より効果的なドリブルを仕掛けつつ、アシストを増やすためには、長所をさらに伸ばすための環境を彼に与える必要があるということだ。

【激化するポジション争い】

 セルヒオ・フランシスコ監督はビジャレアル戦の前日、「タケは最高の状態に近づいている」と長引いた足首のケガがもう過去のことであると強調した。しかし、この試合では久保のスタメン入りに疑問の声があった。その理由は、後半途中からの出場となった第13節オサスナ戦で、ポジション争いのライバルであるアンデル・バレネチェアとゴンサロ・ゲデスが揃ってゴールを決め、勝利に貢献したからだ。

 これにより今、数カ月前までは考えられなかった「久保は先発で起用されるべきか?」という議論がサポーターの間で巻き起こっている。

 攻撃陣にはオヤルサバルやバレネチェアといった実績のある選手に加え、ゲデスやアルセン・ザハリャンといった、ポジションを狙う候補者たちが次々と名乗りを上げている。さらに、負傷中のオーリ・オスカルソンが遅かれ早かれ復帰することも忘れてはならない。

 その上、今季は例年に比べて試合数が少ない。久保がこれまで同様にレギュラーの座を確固たるものにするには、1試合ごとのパフォーマンスが重要となる。

髙橋智行●翻訳(translation by Takahashi Tomoyuki)