■「まだ終わっていないから」母親の言葉に涙 11月29日の第38節の大分トリニータ戦を2-0で勝利して、J2リーグ優勝と…

■「まだ終わっていないから」母親の言葉に涙

 11月29日の第38節の大分トリニータ戦を2-0で勝利して、J2リーグ優勝とJ1昇格を成し遂げた水戸ホーリーホック。

 水戸の今シーズンの躍進には、いくつかの理由を上げることができるが、筆者が重要なポイントと考えているのは、ゲームキャプテン大崎航詩(27)のボランチ転向によって、チームの中盤が安定したことである。

 記事前半で説明した理由以外にも、大崎のボランチ起用には、理由がある。実は、シーズン開幕前、水戸は左ききのボランチを獲得しようとしたのだが、話がまとまらずに獲得できなかった経緯がある。

 そこで、左ききの大崎をボランチにコンバートする案が出てきたのである。

 森監督が「分岐点」と言ったのは本当のことで、あの札幌戦以降、ボランチ大崎の誕生によって、水戸が勢いづいたのは確かなことである。

「サッカー批評」でも11月23日の第37節のV・ファーレン長崎戦(1-2で水戸の敗戦)での現地独自カメラの映像を記事として取り上げたが、世間でも大きな話題となった。

 大崎の背中が映し出される。大崎はスタジアムをしばらく見渡して歩き出す。次に映像は、スタジアムにいる彼の両親のところに行き、母親に「まだ終わっていないから」と声をかけられて涙する大崎の背中が映し出される。話題のこの動画について大崎本人に話を聞いた。

■悔しい思いを噛みしめて「この熱気を覚えておこう」

――大崎選手がスタジアムを見回している動画が話題になっているんだけど、あの動画は見た?

「見ました」

――スタジアムを見ている背中から映し出された大崎くんは、まるで世界の終わりを見ているような感じに見えたんだけど。

「ネガティブじゃなくて、今日あの熱狂を自分たちが受けられればよかった、勝ったらこれくらい盛り上がるのか、というのと、このスタジアムの熱気を覚えておこう、と。

 次の最終節のホームでの試合は、自分たちがこれくらい歓喜の渦で、自分が次はその中心にいるんだ、と想像してスタジアムを眺めていました。悔しかった思いと、すべての思いを噛み締めながら、スタジアムを見回していました」

――「まだ終わっていないから」と声をかけたのはお母さんで、頭を撫でたのはお父さんなの?

「はい、そうです。少し安心したので泣いてしまいました」

 来シーズンJ1の舞台で戦う大崎に、どのチームと戦ってみたいか、問うてみた。

「アントラーズさんですね、いつもプレシーズンでの対戦だったので、本格的なシーズンで試合ができるのは楽しみです。

 J1でプレーするのは、自分がずっと望んでいたことなので、絶対にJ1に残って水戸の新たな歴史を作る。やっとスタートラインに立ったんです」

 大崎は、プレーが優れているだけでなく、人としても謙虚で信頼できる人間だ。今シーズン覚醒した大崎のプレーをJ1のステージで見られることは、うれしいことである。

撮影/重田航 ロングスローを得意する

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