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■PGに富樫、安藤、齋藤らベテランを選出した理由


 FIBAワールドカップアジア地区予選――「死の組」とも言えるグループに属した日本にとって、チャイニーズ・タイペイとの連戦は絶対に落としてはならない試合だった。また、準備期間が短いリーグ中ゆえに、「今回は経験を重視したメンバーで戦う」とトム・ホーバスヘッドコーチは宣言し、代表歴の長い選手や、Bリーグで実績のある選手たちを招集し、必勝態勢で臨んだ。

 経験重視とはいえ、もちろん選考合宿での競争はあった。Window1に挑む12名の選出理由についてホーバスHCは「ベテランだからといって選考のアドバンテージがあったわけではありません。若い選手たちも合宿でいいものを見せていました。ただ彼らはシステムを遂行する力があった」と語る。その“彼ら”とは、今回久々に代表に招集されたポイントガード、安藤誓哉と齋藤拓実のことだ。

 Window1での日本は、これまでガードがオンボールスクリーンを多用して崩していく展開や、ウイング陣がコーナーに張り付いているような時間を少なくし、ハンドオフやオフボールスクリーン、カッティングなどで展開を作り、全員で判断を早くして連携を作る「NO LAG(ノーラグ)」というテーマを掲げて取り組んだ。またディフェンスでは、これまで以上にハードショーに出たり、前からプレッシャーをかけて相手を止める策を取ったため、原修太など、ディフェンスに特化した役割の選手も加入した。

 言い換えれば、昨年のパリオリンピックから8強に残れなかった今夏のアジアカップまでは、オンボールピックからのチャンスメイクが得意で、ハンドラーが一人で解決するような「河村勇輝の残像」をポイントガードに求めていたといっていい。その点はホーバスHC自身もチーム作りを見直さなければならず、ワールドカップ予選仕様に作り替えたのだ。Window1では多くの選手の口から「ある意味、初期のトムさんのスタイルに戻っている」「シンプルな展開になってやりやすい」との言葉が出ていた。

 こうした、システムの変更にもすぐに対応でき、ペイントアタックができる即戦力のポイントガードとして招集されたのが、Bリーグで実績がある富樫勇樹、安藤誓哉、齋藤拓実だったのだ。

■パスとペイントアタックで躍動した齋藤拓実


 チャイニーズタイペイとの2連戦でスタメンPGに抜擢されたのは齋藤だった。1戦目に快勝するゲームメイクで導くと、2戦目には第3クォーターのはじめには、相手の裏を突くセンスのあるプレーで魅了した。齋藤が求められたことは名古屋ダイヤモンドドルフィンズと役割が同じなだけに、チームにフィットするのは早かった。

「2戦目は3ピリの出だしでいい流れを作れ、いいパスを出して、キックアウトできたことは良かったです。2戦を通してはスターティング5として、ディフェンスのトーンセットができたこと、速い展開を作ることはできたと思うので、自分の中ではいい経験になりました」と齋藤は2戦を終えて手応えを語った。ただし、「2戦目は試合を通しては流れを持って行きたいタイミングでミスをしてしまい、出足で難しいゲームにしてしまいました。そこは修正しなければならないです」と反省点も見せた。そうした齋藤が停滞した時間帯に、突破口を開くためにコートに立ったのが安藤だ。

■「ゲームチェンジャー」の役割をつかんだ安藤誓哉


 アウェーでの試合前日、練習で選手にアドバイスを送っている佐々宜央アシスタントコーチは、こちらが質問するよりも前に、新しい2人のポイントガード、特に所属チームとの役割が違う安藤に向けての期待感を言葉にした。

「今回、誓哉と拓実が入り、勇樹も含めて3人には経験があるので、練習がとてもやりやすかったんです。そこから、チームの中に自信がみなぎっていったんですよ。誓哉に関しては、1戦目の最後に自分の持ち味を出して1対1で決め切ったオフェンスがありましたよね。彼があれをやってくれたときにチームの中に『これから何かやってくれる』期待感が出てきました。代表チームはそうやって信頼関係を作っていくものなので。今後、彼はチームが困難になった時にどこかで救ってくれるはずです」

 30分超のプレータイムを得てエースムーブする所属チームとは役割が違う上、代表ブランクがいちばん長い。とはいえ、チーム最年長ゆえ、すぐにフィットすることが求められる。そんな中で安藤は初戦を終えた後、「自分がやることの感覚をつかめて終われたことは最低限良かった」と語り、2戦目はコートに入ってすぐにカッティングからファウルをもらい、積極的に3ポイントを狙って6得点を決めた。

 アジアカップでは停滞したときに突破口を開く選手が不在で、ハンドラーも不足していた。そうした様々な困難な状況を想定し、タイプの違う選手を選出し、役割を課して準備を進めるのが代表チームだ。このチームで安藤の仕事は短い時間ながら、停滞したときにアグレッシブに攻めることだった。

「今日(2戦目)は、アグレッシブに攻めて“ゲームチェンジャー”になろうと思い、得点を決めて悪い流れを止めることはできました。国際大会を見るたび、どこの国もタイプの違うポイントガードを揃えてゲームを作っていると感じていたので、自分としてはアグレッシブさを出し切るだけだし、それをしなければ自分がいる意味がないのだと、この2連戦で手応えはつかみました」

■信頼と経験でクロージングを任された富樫勇樹


 そして、接戦の場面でクロージングを任されたのが富樫勇樹だった。ホーバスHCは3人ポイントガードの起用法についてこのように語る。

「拓実はパスとペイントアタックがすごく良かった。誓哉はスコアリングがあるし、気持ちがあるいい選手なので、そこは彼に任せました。ただ、誓哉は(ブランクがある分)大事なところでどういうプレーをするのかまだ分からないところがあったので、こういうクロスゲームの最後は、長い間、代表経験がある選手が出たほうがいいと思いました」と言い、これまで信頼関係を築いてきた富樫勇樹に4クォーターを任せた。そして、その期待に応えた富樫は第4クォーターの頭にペイントアタックや3ポイントで得点を重ね、80−73での勝利へと導いたのだ。

 3番手としてコートに立つことに関しては、「正直、これまでの役割と変わっていないと思うので、スタートでもベンチでも、何番目に出ても、何分出ても、自分の出た時間に貢献するだけです。トムさんが調子のいい選手を長く使うことはわかっているし、お互いの信頼関係もありますから、僕の起用については理解しています」と言い、そのうえで、第4クォーターのみずからの出来については「ディフェンスの状況を見てやれたと思う」と評価した。

 チームとしては、終盤にシュートを決め切ることができず、修正すべき点は多い内容だったことは否めない。ただ、何よりも重要なのはチャイニーズタイペイに2連勝すること。そのための選手選考と対策プランは実行できた。ホーバスHCは、次の中国戦と韓国戦に向けて「対戦相手にアジャストすることが重要」としているため、再び、対戦相手に適したロスター選考と準備を重ねていくことになる。

 そして試合の重要な場面を任された富樫は「日本が次のステップにいくためにも、Bリーグの選手たちでも中国と韓国に勝てるようなチームを作らないといけない」と、Bリーガーたちで勝ち切ったからこその抱負を語った。

【動画】4Q開始早々、富樫勇樹がペイントアタックを敢行