今年の高校野球最後の公式戦・明治神宮大会は九州国際大付が優勝をおさめた。この秋の公式戦を追っていくと、1年生ながらエース…
今年の高校野球最後の公式戦・明治神宮大会は九州国際大付が優勝をおさめた。この秋の公式戦を追っていくと、1年生ながらエース格として活躍する大型左腕や本格派左腕の活躍が際立っていた。2年後の2027年のドラフトが早くも楽しみと思わせた1年生たちを紹介しよう。
27年世代を牽引する3人の大型左腕たち
まずこの秋に名を高めたのは、九州国際大付の大型左腕・岩見 輝晟だ。187センチ77キロの長身を活かしたオーバーハンド。常時135キロ前後の速球、鋭く落ちるスライダーで次々と三振を奪った。神宮大会2試合16.1回で19奪三振の好投を見せ、初優勝に貢献したが、決して調子は万全ではなかったわけではない。岩見は神宮球場のマウンドに合わなかったと語る。
「とにかくマウンドが固くて、上手く投げられない。軸足の指を痛めたぐらい。ボールをうまくコントロールできませんでした」
2試合で9四球を与えているように、ボールが高めに浮くことが多く、思い通りの投球はできなかった。それでも、要所では踏ん張った。岩見は縦に鋭く落ちるスライダーを軸に打者と対峙した。
ピンチになっても、点を取られても平然としている度胸があり、プレースタイルや取材時の受け答えを見ると、九州国際大付は上手く岩見の個性を伸ばしているようだ。
本人は優勝決定後のインタビューで「四球を少なくして、三振が取れる投手になりたい」と語った。来年のセンバツまでさらにスケールアップした投球を見せれば、もっと騒がれる存在になるだろう。
長身の大型左腕といえば、近年ならば藤田 琉生投手(東海大相模-日本ハム)がいるが、藤田の高校1年時は120キロ台後半だった。現段階で藤田よりもスピードのある岩見には大いに期待したい。
大阪桐蔭の146キロ左腕・川本 晴大投手も来年のセンバツで騒がれる存在になりそうだ。岩見はしなやかな腕の振りから角度のある直球、スライダーで勝負する投手だが、川本は190センチ95キロ。馬力の大きさを生かしたパワーピッチャーだ。秋季大阪大会では、6回7奪三振の快投。最速144キロを計測した。秋季近畿大会では1回戦、準々決勝と2試合続けて先発登板。12回を投げ11奪三振1失点の好投で評価を高めた。
東京城南ボーイズ時代にはU-15代表入りした川本。当時の投球を見たことはあるが、荒削りで、大成までには時間がかかる印象だった。実際に近畿大会の投球を見てもまだ荒々しさがあるが、ストレートがコーナーに散っていて、狙い球が絞りにくい。ここまでゲームメイク能力の高い投手に育っていることは驚きだった。
近畿大会準々決勝の天理戦後、西谷浩一監督は川本について「全球バタついてる感じでした。ただ、逆に言うと、バッターからしたら打ちにくい。そこを利用して、普通は『フォアボールはやめよう』と言うんですけど、川本の場合は『フォアボールを許してやってくれ』ということをベンチで言っていたので、フォアボールが出てもみんな『オッケー、オッケー』という感じでした。今日は荒れ球を生かしたという感じです」
小さくまとまらず、大きく成長させる方針が分かるコメントだ。
2人に続くのは、横浜の小林 鉄三郎投手だ。中本牧リトルシニア時代から評判の好投手として活躍。184センチ77キロと恵まれた体格から最速140キロの速球、切れ味鋭いスライダーでこの秋の初戦では4回7奪三振無失点の快投。関東大会準々決勝の専大松戸戦でも先発を任された。まだ球威が課題だが、来年以降、常時140キロ中盤の速球を投げる可能性を秘めている。プロ入りした杉山 遥希(西武)、奥村 頼人(ロッテ)に匹敵する潜在能力の高さがあり、来年入ればもっと話題になる投手になることは間違いない。
強豪校で早くも柱となる左腕たちが続々登場

桐光学園・鈴木陽仁投手は中本牧リトルシニアで横浜の小林とダブルエースとして活躍。24年春のシニア全国大会決勝戦で先発して好投を見せた。球速は120キロ台中盤だったが、当時からスライダーのコントロールが抜群の左腕だった。高校に入っても1年夏からリリーフ、先発で奮闘。直球は130キロ台中盤だが、腕の振りもしなやかで、高校3年までには常時140キロ台を計測してもおかしくない。
まだ無名ながら将来有望なのが、西武台の190センチ左腕・深見 陵太投手だ。春の県大会でデビューした左腕で、夏はベンチ外だったが、角度のある直球が持ち味。来春以降、大きく伸びることができるか。
明徳義塾の藤本 優磨投手は182センチ78キロの体格から最速136キロの速球、スライダー、フォークを組み立てる本格派。この秋は背番号11だったが、四国大会準決勝戦で8回2失点の好投だった。
出力はこれからだが、大きく伸びる可能性があるのは銚子商の鈴木 直磨。180センチ71キロと細身だが、常時120キロ台後半のストレートと切れ味鋭いスライダーで抑える。船橋シニア時代から評判の好左腕で、私学からの誘いもありながらも伝統校・銚子商でプレーしたい思いで同校に入学。1年秋にはエースとして登板し、順調に経験を積んでいる。残りの高校2年間で大きく球速を伸ばすことができるか。
明治神宮大会に出場した帝京長岡のエース・工藤 壱朗投手はフォームの動きが滑らかで、130キロ台中盤の速球、120キロ台前半のスライダーを低めに集める投球スタイルが持ち味。北信越大会では先発、リリーフで奮闘して優勝に貢献した。神宮大会では初戦敗退となったが、初めての全国舞台の経験を力に変えることができるか。
二松学舎大付は大江 竜聖投手(ソフトバンク)、秋山 正雲(ロッテ)、辻 大雅(広島)など伝統的に好左腕を育ててきたが、川島連十投手も威力のある速球を投げ込む。オリックスの川島慶三打撃コーチを父に持つ川島は1年夏からベンチ入りし、この夏の東東京大会の開幕戦に先発して、5回参考記録ながらノーヒットノーランを達成。秋には公式戦初完投を成し遂げ、順調に階段を登っている。現在は最速140キロほどだが、来年には安定して140キロ台の速球を投げているだろう。
1年生は高校生最初の冬の練習で信じられないほど大きく伸びることがある。来春にはどれだけの1年生左腕が台頭してくるのか待ち遠しい。