11月下旬に入り、大学野球部では4年生の進路発表、社会人野球部では引退選手の発表が行われています。そんな中で、2021年…

11月下旬に入り、大学野球部では4年生の進路発表、社会人野球部では引退選手の発表が行われています。

そんな中で、2021年夏の甲子園で決勝まで進んだ智弁学園の2人が野球から離れることになりました。法政大・山下 洋輔選手の一般就職、エース左腕だった西村 王雅投手(東芝)の引退が決まったのです。2人の同級生には阪神の前川右京外野手がいます。筆者はこの世代の智弁学園を熱心に追いかけました。

1年春から非凡な才能を見せていた前川右京と西村王雅

 この世代が面白くなりそうだと思ったのは、2019年春。まだ彼らは1年生でした。奈良で開催された春季近畿大会で、いきなりその年センバツに出場した智弁和歌山vs智弁学園の一戦が行われたのです。

 試合は9対7で智弁学園が勝利しました。両チームの選手たちのレベルの高さに驚かされた記憶があります。この試合で智弁学園は2人の1年生が出場していました。前川外野手が5番レフトでスタメン出場し、3打数1安打1打点の活躍。1年生とは思えない体格をしており、威圧感のある構えが印象に残りました。

 前川選手以上に鮮烈なデビューを飾ったのが西村投手でした。6回からマウンドに登った西村投手は常時130キロ台後半の速球で次々と智弁和歌山打線から空振りを奪い、4回8奪三振、無失点の快投で逆転勝利を呼び込みました。

 投打にこれほどの逸材がいて、控えにはU-15代表の小畠一心投手もいました。彼らが3年生になる2021年はかなり楽しみな世代になるだろうと心躍らされました。

 2人ともは順調に成長し、西村投手はエースに。そして前川選手は主軸打者として公式戦で順調に本塁打を重ねます。

 翌年、コロナ禍に真っ只中の夏、智弁学園を直接取材する機会に恵まれました。コロナ禍によって多くの公式戦が中止となり、NPBと日本高野連がプロ志望選手を対象に、8月下旬に甲子園と東京ドームで練習会を行うことを発表しました。筆者は甲子園の練習会とともに、智弁学園、報徳学園など関西の強豪校を取材するプランを組みました。

練習で打撃、守備、投球すべてにおいてレベルの高さを実感

智弁学園の練習はとても緊張感が漂っていました。小坂将商監督の強烈なノックに選手たちが食らいつきます。選手の動きに目を光らせる小坂監督の挙動には筆者も引きつけられました。

 その中で軽快な動きを見せていたのはショートの岡島 光星内野手、セカンドの竹村日向内野手の二遊間。スピーディな動きでボールを処理する姿に、21年世代の智弁学園は前川選手だけではなく、守備の名手もおり、層の厚さを感じました。

 ブルペンを見れば小畠投手が切れの良い速球、変化球を投げ込んでいました。その速球は回転が良く、しっかりと指にかかっていました。

 最も見せ場となったのは打撃練習です。前川選手は本塁打を意識せず、ライナー性の打球を打ち返すことを心がけていましたが、その高速の打球は圧巻でした。また前川選手とともに主軸を打った山下選手も鋭い打球を打っていました。この2人だけではなく、主力野手はどの選手も最短距離でバットを振りぬいており、ことごとくライナー性の打球を打ち返していました。

 智弁学園の打撃練習で特徴的だったのは、1人あたりの打撃練習の本数が少なく、打てなくてもすぐに代わることでした。選手たちは限られた打席の中で集中して打つことで、ミート力アップを目指していました。

 選手たちは待ち時間、ずっと素振りを繰り返したり、休む暇なく素振りをしたり、選手同士で打撃フォームの確認をしていました。

 この打撃練習について当時の主将だった山下選手は「野球の練習は待ち時間が長くなります。その時間をどれだけ有意義に使うかでほかのチームと差がつけられると思います」と話しました。

 小坂監督から𠮟咤激励を受けながらハードな練習をこなす智弁学園ナインが逞しく感じ、秋の大会での活躍がより楽しみになりました。

 秋、智弁学園は順当に奈良県大会を勝ち抜いて、近畿大会では決勝戦に進出。決勝の大阪桐蔭戦では前川選手、山下選手の両主砲が本塁打を放ち、7対3で優勝を果たしました。

対大阪桐蔭2連勝を達成 さらに全国7勝をあげ智弁学園史上、最も全国で勝利したチームに

 2021年のセンバツの抽選はコロナ禍ということもあり、リモートで行われることになりました。智弁学園は大阪桐蔭といきなり対戦することになります。抽選会後、山下主将は報道陣の前で「マジかって感じです」と苦笑い。それでも「遅かれ早かれ当たると思っていた相手なので、それが初戦になっただけです」と気を引き締めていました。

迎えたセンバツでは8対6で大阪桐蔭との打撃戦を制しました。ただこの大会はベスト8に終わり、思い通りの戦いができずに終わった感じがあります。

 その後も筆者は智弁学園を追いかけ続けました。滋賀で行われた春季近畿大会準決勝、決勝も直接見に行き、さらに21年夏の奈良大会決勝戦では高田商を破り、2大会連続の優勝を収めましたが、優勝の瞬間も現地で見届けました。

 21年甲子園では前述したように投打に力強い戦いを見せて準優勝を収めました。この大会は雨天続きで調整がかなり難しい大会でしたが、本来の強さを見せました。この代の智弁学園は秋の近畿大会優勝、センバツ8強、春の近畿大会準優勝、夏の甲子園準優勝と創部以来全国で最も実績を残し、智弁学園史上最強世代と呼ばれました。

 その4年後、前川選手は期待の和製大砲、小畠投手が立教大のエースに成長した一方で、

山下選手はリーグ戦通算5試合出場に終わり一般就職、西村投手は今年実戦登板を大きく減り、引退となりました。2人の高校時代の雄姿、実力の高さ、将来性の高さから考えると早すぎる引退のように感じます。

 あれから4年、今年の智弁学園は秋季近畿大会準優勝を収め、潜在能力の高さは4年前に匹敵するチームです。ただ攻守の精度についてまだまだな部分がありますが、今後に期待したいです。

 4年の智弁学園ナインが大きな歴史を作り上げたように、今後の取材活動でも、新たな歴史、伝説を起こすチームを追いかけていきたいと思います。