手に汗握る攻防で天心を翻弄した拓真(C)Takamoto TOKUHARA/CoCoKARAnext 引退を覚悟した男の…

手に汗握る攻防で天心を翻弄した拓真(C)Takamoto TOKUHARA/CoCoKARAnext

 引退を覚悟した男の世界王者としての再起、そして神童の敗北――。一つのリングで起きた二つのドラマは、“ボクシングの本場”でも小さくない関心を集めた。

 日本でも話題となったのは、11月24日にトヨタアリーナ東京で行われたボクシングのWBC世界バンタム級王座決定戦だ。

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 この一戦で、昨年10月に堤聖也(角海老宝石)に判定負けを喫し、WBA王座を失ってから1年1か月ぶりの再起となった同級2位の井上拓真(大橋)は、同級1位の那須川天心(帝拳)に3-0で判定勝ち。キャリア8戦目で初の世界戦に挑んだ神童に、キックボクシング時代を含めて55戦目にして初の黒星をつけた。

 ボクサーとして一日の長がある拓真は、相手に合わせた適応力の高さを披露。出鼻こそ良かったものの、4回を過ぎてから近距離戦に持ち込まれた天心に「ちょっとした『どうしよう』みたい気持ちがあった」と迷いを生じさせ、内容で圧倒した。

 ド派手なダウンシーンやKOこそないなれど、両雄が繰り広げた技術の駆け引き。互いに「負けるものか」と意地も見られた世界戦は、米メディアでの評価も上々だ。老舗誌『The Ring Magazine』は「13か月のブランク期間を経て、引退を真剣に考えた元WBA王者・タクマ・イノウエは、テンシン・ナスカワを出し抜く見事な戦いぶりを見せた」とリポート。最終的に大差となった3-0という判定結果について「異論を唱える者は誰もいない。当然の結果と言える」と断言した。

 無論、敗れた天心のパフォーマンスを軽んじてはいない。左のオーバーハンドをヒットさせもした序盤の戦いを「型破りで、刺激的な武器を新たに加え続けようとする彼の姿を改めて示した」と評価した同誌は「序盤2回まではテンシンがイノウエに今晩も厳しい夜になるだろうと言い聞かせているかのようだった」と振り返っている。

 試合は4回から拓真ペースとなった。先述した近接戦に転じた29歳は、天心が得意としていた距離感を掌握して主導権を渡さなかった。この華麗なる挽回劇を「ジャブを的確に決め、防御を鋭く保った」と記した同誌は、勝者の巧者ぶりを臨場感たっぷりに伝えている。

「第6ラウンド終盤、テンシンの攻撃は明らかに鈍り、足取りも重くなった。その隙にイノウエは右アッパーを連打。さらに7ラウンド序盤、イノウエはテンシンと至近距離でアッパーを打ち合う中で右から繰り出したパンチを確実に命中させる。29歳の巧みな足運びは、意のままに射程圏を操った距離を詰めては離れる動きを支えた」

 ボクサーとしての経験値と気迫でタイトルを掴んだ拓真。天心を一蹴したパフォーマンスは、世界的に見ても評価に値するレベルだったようだ。

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

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