卓球は、予測のスポーツである。よく卓球の経験がない人から、「卓球って反射神経が一番大事なんでしょ?」などと聞かれることがあるが、これは間違いである。卓球のボールのスピードは、男子選手のスマッシュで初速180km/hを超えると言われている。し…

卓球は、予測のスポーツである。

よく卓球の経験がない人から、「卓球って反射神経が一番大事なんでしょ?」などと聞かれることがあるが、これは間違いである。

卓球のボールのスピードは、男子選手のスマッシュで初速180km/hを超えると言われている。しかも、卓球台は小さい。たった2,7mほどの超至近距離から放たれる180km/hのボールに瞬時に反応し、落下点にラケットを動かし、回転を予測し、相手のコートに返るラケット角度を作って打球する。

これを試合中ずっと続けるのは、はっきり言って無理である。人間の反射速度の限界をゆうに超えている。

では、選手たちはどうしているのか。正解は予測である。打つ直前の相手の体勢や、これまでのプレーから見られる癖などから、「このあたりに来るだろう」と予測をし、それに基づいて返球しているのである。

卓球に一番大切なものは、予測能力である。試合とは、相手との予測合戦だ。

ということは、相手もこちらの次のプレーを常に予測している。そこをうまく逆手に取ろう。

卓球はフルゲームの11-9で勝てばよい

卓球は、時間制限の無い、点取りゲームである。野球やサッカーでは、「回数制限」や「時間制限」があるので、ひとつのミスが命取りとなるようなことが多くある。

しかし卓球にはそういった制限はない。決められたゲーム数を取る、つまり「最後の11点」を取りさえすれば、あなたの勝ちだ。いわば、その「最後の11点」を取るまでは、どんなにミスを繰り返したって構わないのである。

・相手がこちらのプレーを常に予測している
・最後の11点を取れば勝ち

この2つの特性をうまく使った戦術が、今回紹介する「見せ球」である。

「見せ球」の効果的な使い方

「見せ球」とはいわば、「相手に意識を植え付けさせるボール」のことである。

確実に得点に結びつくわけではないけれど、相手があっと驚いて、精神的にダメージを与えられるようなボール。そして、「そのボールがまた来るかもしれない」相手に思い込ませて、相手のプレーを制限させる。

「見せ球」は、得点することが目的ではなく、意識を植え付けさせることが目的なのだ。なので、ミスをしてもかまわない。

イメージをわかせるために、使い方を局面ごとに具体的に考えていこう。

相手のレシーブの動きを制限

たとえば、相手のフォア側へのストレートに、スピードを重視したロングサーブを出す。とにかく「速く」出すことがポイントだ。ミスしたって構わない。必ず「ノータッチで抜いてやる」という意識で出す。

こうすると、相手はバック側へのサーブを回り込んでレシーブしたくても、「フォアへの速いロングサーブ」を警戒して、自由に回り込めなくなるだろう。あるいは、動きにワンテンポ遅れが出る。

相手の3球目攻撃を制限する

今度はこちらがレシーブにまわった際。たとえば、相手サーブをフォア側におもいっきりフリックしてみる。入らなくてもOKだ。相手は先ほどと同様に、「フォアに払われるかもしれない」という意識があるので、安易に3球目を回り込めなくなるであろう。

相手のサーブを封じる

また今度は、自分が出されて嫌なサーブを、相手に出させないようにする方法だ。

たとえばあなたが、「逆横回転の巻き込みサーブ」のレシーブが苦手だとしよう。あなたがミスしまいと恐る恐る慎重にレシーブしていれば、相手はどんどん調子にのって巻き込みサーブを連打してくるだろう。

そこで、「見せ球」だ。巻き込みサーブを最初に出された時点で、フォアで思いっきり強打してやろう。もちろんミスしてもかまわない。2,3球続けてやれば、たとえ入っていなくとも、相手としては嫌なものである。

「これだけ思いっきり打ってくるということは、よほどこのサーブは得意なのだろう。この後は強打が全部入ってくるかもしれない…。」という心理にさせて、他のサーブを使わせるようにもっていくのだ。

カット打ちで相手にリスクを背負わせる

たとえばあなたがカットマンの場合はどうか。相手の甘いつなぎのボールを反撃するのはもちろんだ。しかし、「そこまで甘くないボール」に対してでも、前陣で思い切りカウンターを叩き込んでやろう。

相手は、「このボールでも打たれてしまうのか。つなぐボールでも、かなり気を使っていいボールを送らなければ…」という心理になる。相手はよりリスクを取ることが強いられる。当然その分ミスも多くなるだろう。

なるべく序盤に使って、より長く意識を植え付ける

各局面で思いつく具体的な見せ球の使い方を紹介した。
繰り返しになるが、この「見せ球」はミスをしたって構わない。なぜなら「見せ球」の目的は、「ポイントを取ること」ではなく、「相手に意識を植え付けて、プレーを制限させること」だからである。
もちろんしっかり入ればそれに越したことはないが、中途半端に入れにいくようでは、相手に「怖さ」を覚えさせることが出来ない。なので、「あえてミスする」くらいの方がよい。入ればラッキーと思えばちょうどよいだろう。

そしてもうひとつ大事なのは、「見せ球」は「なるべく序盤で使う」ということだ。
早い段階で相手に意識を植え付けられれば、よりその効果は長く働く。それに、終盤の緊迫する状況では、「1点」の重みがより大きいので、「見せ球」を使っている余裕がない。

試合開始直後に何本か使って、その後もゲームの序盤で使う。相手が忘れたか、忘れる前くらいにまた見せ球を使い、ずっと相手に意識を植え付けたままの状態で試合を進める。

そのように、序盤で点数の献上は覚悟のうえで見せ球をうまく使い、意識を植え付け、最終的には11-9で勝つ。そういう勝ち方も戦術のひとつだ。

まとめ 「見せ球」をうまく使い、フルゲーム11-9で勝つ!

もちろん相手に点数を与えず余裕で勝つ方がよいのだが、対戦相手がよほど格下でない限り難しい。

以前の記事でも書いたように、「格上に勝つ」ためにはこういった工夫が必須なのである。

今回紹介した「見せ球」は、誰でも今すぐ出来る簡単な戦術である。ぜひ、今日から取り入れてみることをおすすめする。

文:若槻軸足(卓球ライター)