F1第22戦ラスベガスGPレビュー(後編) 予選での致命的なミスを受け、チームは角田裕毅(レッドブル)をピットレーンから…

F1第22戦ラスベガスGPレビュー(後編)

 予選での致命的なミスを受け、チームは角田裕毅(レッドブル)をピットレーンからスタートさせることを決断した。

 ウェットコンディションに合わせて加えていたリアウイングのガーニーフラップを外し、空気抵抗を少しでも減らしてオーバーテイクができるように。そして新品のパワーユニットも投入し、前戦サンパウロGPでマックス・フェルスタッペンが3位表彰台まで挽回して見せたような走りができるように、さまざま準備を整えた。


角田裕毅はギャンブルで一発逆転を狙ったのだが...

 photo by BOOZY

 ミディアムタイヤを履いてスタートした角田は、1周目に大きな混乱がなく17位に留まっていたためにピットイン。ハードタイヤに履き替え、他車とは違う場所で単独走行し、フリーエアで本来の速さを存分に発揮する戦略を採った。

 フリー走行が赤旗に見舞われてまったくロングランができておらず、ハードタイヤはぶっつけ本番でどんな挙動を見せるかはわからない。残り49周を走破できればポジションアップも見込めるが、グレイニング(表面のささくれ)がひどければもたないリスクもある。

 ラスベガスらしい「ギャンブル」だが、予選19位では失うものがない。ドライコンディションのFP1で3位の手応えをつかんでいた角田にとっては、考えるまでもなくチャレンジすべきギャンブルだった。

「ピットインした直後にVSC(バーチャルセーフティーカー)が出てしまったのが、僕らにとって理想的な展開ではなかったですね。1周目にピットインしてダーティエアを避けようというのが僕らの戦略だったんですけど、VSCで何台もピットインして僕をカバーしてきたので、どうすることもできませんでした。

 今日はそれが一番大きかったです。運も何もかもが裏目に出ている感じでした。運・不運という言葉を使いたくはないですけど、今週末はとにかく不運でした」

 角田はレース直後にそう語ったが、実際にはVSCでピットインしたピエール・ガスリー(アルピーヌ)とリアム・ローソン(レーシングブルズ)を抜き、角田の前に立ちはだかったのは10秒前方のアンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデスAMG)だけだった。

【コラピントをすぐ抜いていれば...】

 角田は堅実な走りで中団グループの集団とのギャップを詰め、彼らがピットインすれば先行できる位置にいた。

 アントネッリがここから最後までハードタイヤを保たせて、オスカー・ピアストリ(マクラーレン)を抑えきり4位でフィニッシュ(レース後マクラーレン勢の失格により3位に繰り上がり)したことを考えれば、このレッドブルと角田のギャンブルは決して間違いではなかった。

 角田もアントネッリと同じようなペースで最後まで走り続けられれば、アントネッリの10秒後方ならカルロス・サインツ(ウイリアムズ)との5位争い。実際にはサインツやイザック・アジャ(レーシングブルズ)が角田に先行される前にピットストップしてカバーしてくるため、アジャの後方になった可能性が高いが、それでも7位。

 20周目あたりまでは、この展開が見えていた。

 しかし、ペースの上がらないフランコ・コラピント(アルピーヌ)を抜きあぐね、逆に15周ほどフレッシュなタイヤを履くフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)とオリバー・ベアマン(ハース)に抜かれてしまい、入賞圏は遠のいてしまった。

「フリーエアでのペースは悪くなかったと思うんですけど、ダーティエアに入ってからはペースがなかなか伸びませんでした。ダウンフォースを削ったのが逆にアダとなって、(ツイスティなコーナーが連続する)セクター2がなかなか伸びなかったのもありました」

 もしコラピントをスムーズに抜いていれば、ここから最後まで引っ張って、実質ノンストップ作戦で7位が獲れた可能性が高かった。

 だが、ここでタイムロスしている間に中団勢はすべて角田のピットウインドウ外に出てしまい、ノンストップ作戦で入賞する可能性は消滅。あとはミディアムタイヤに戻してタイヤ差で抜き返すことに賭けるしかなかったが、デグラデーション(性能低下)が小さかっただけにタイヤ差の効果は小さく、その成功確率が極めて低いことは明らかだった。

【力強いレースができなかった事実】

 つまり、予選では不運でチャンスを失ったが、決勝ではコラピントを抜きあぐねたことでチャンスを失った。

 その原因はマシンのセットアップでもあり、ドライビングでもあり、コース特性でもあり、ひとつではないだろう。しかし、前戦サンパウロGPでフェルスタッペンが見せたような力強いレースができなかったことは厳然たる事実だ。

 速さを結果に結びつけられない、もどかしさとフラストレーションは痛いほどわかる。だが、たったひとつの理由でギャンブルに敗れたわけではない。運・不運だけではない。

 その現実と向き合わなければ、本当の意味での成功には手は届かない。