試合後の会見で口をぎゅっと結び、悔しさを滲ませた天心(C)Getty Images 神童にとって歓迎ムードとは言えない会…

試合後の会見で口をぎゅっと結び、悔しさを滲ませた天心(C)Getty Images

 神童にとって歓迎ムードとは言えない会場だった。

 11月24日に行われたトヨタアリーナ東京で行われたボクシングのWBC世界バンタム級王座決定戦で、同級2位の井上拓真(大橋)と対峙した同級1位の那須川天心(帝拳)は0-3で判定負け。キックボクシング時代を含めた格闘技の公式戦で55戦目にして初めての黒星を喫した。

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 試合前からどこか敵意にも似た雰囲気が漂っていた。試合中も相手を鼓舞するコールが目立ち、終盤には天心が接触シーンから拓真を押し倒してしまうと、会場中から野次が飛んだ。筆者は日本を舞台とした試合で彼がここまで露骨に“ブーイング”を向けられたことはなかったと記憶している。それぐらい珍しい光景だった。

 目立った場面を生み出したのも序盤1、2回まで。以降は「経験の差で、立て直された」と圧倒された。だからこそ、試合後の行動は話題を生んだ。相手の勝ち名乗りを聞いた天心は、四方の観客席に向かって深々と座礼。自身に敵を置向けたスタンドに頭を下げたのである。

 興行後、一部メディアでは「土下座」ともクローズアップされた座礼。その行動の真意はなんだったのか。目を少しばかり赤くさせて会見場に姿を見せた天心は、「やっぱり応援してくれている人がいての格闘技ですから」と説明した。

「応援してくれた人に対してしっかりと感謝を伝えるっていうのは大事なこと。今回は本当たくさんの人に応援してもらって、愛されてるなっていうのも感じましたし、声援のおかげで最後まで立ち向かうことができた」

 ともすれば、世間、そしてコアなボクシング・マニアたちは天心に厳しい目を向け、敗北を望んでいたのかもしれない。会場の異様な雰囲気を「常にアウェーだと思いますよ。ボクシングに入ってきてね、皆さんは生意気だと思っていると思う」と感じ取っていたという27歳は、こうも続ける。

「そういう選手がやられて落ちていくところって、見たいじゃないですか。そういう声もあるのはわかってたし。僕は全て受け入れてますから。危害さえ加えなければ何を言っても大丈夫です」

 当たり前だが、敗北への悔しさはある。それでも「みんなの前で恥を晒すのもかっこいいじゃないですか。それは一生懸命に生きてるやつしかできない」と断言。そして、「こんなことで辞めないっすよ。一切ないです。ダサいじゃないですか、負けてやめますみたいなの」と今後を見通した。

「(ボクシングには)長い歴史があって、こういう思いを自分がさせられるっていうのが、素晴らしく、楽しくもあり、悔しくもあり……。今日は改めて経験させてくれる競技だなっていうのを改めて思いました。始める時からボクシングを全く舐めたことも思ってないし、1からしっかりと学んでやってきたつもりだったんで、より好きになった」

 2年半前のボクシング転向以来、「生半可な気持ちで行くわけじゃない」と突き進んできた天心。負けを知った彼はここからどう変貌を遂げるのか。その行く末を興味深く見守りたい。

[取材・文/構成:羽澄凜太郎=ココカラネクスト編集部]

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