最後の最後に勝ち切ったのはジャパンが成長している証しだろう(C)Getty Images ラグビー日本代表(以下ジャパン…

最後の最後に勝ち切ったのはジャパンが成長している証しだろう(C)Getty Images
ラグビー日本代表(以下ジャパン、世界ランク13位/11月17日時点)のオータムテストマッチシリーズ最終戦は、ジョージア代表(同11位)との間で、ジョージアの首都トビリシで行われ、ジャパンが25-23で僅差の勝負を制した。ジャパンは昨年の敗戦の雪辱を果たし、両国の通算対戦成績はジャパンの6勝2敗。ジャパンの2025年のテストマッチの成績は5勝6敗となった。
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この一戦は、何より勝ちが求められた一戦だった。ランキング上位国との対戦では力の差を見せつけられ、前週のほぼ同格のウエールズとの対戦では、最後の最後にするりと勝利が逃げていった。現状の指導体制への不安を封印するためにも、2027年W杯予選プールでの戦いを優位に進められるバンド2入りを果たすためにも、なりふり構わず勝ちに徹しなければいけない試合。試合が5週連続し、怪我人も続出、主力選手にも疲労が溜まっている上に、試合会場は完全アウェー。いくつもの不利な条件が重なった中での戦いだったが、ジャパンはなんとか勝ち切って、バンド2に滑り込んだ。
この試合、ジャパンはここ数試合の課題である立ち上がりの悪さをまず突かれた。相手ボールのキックオフからタッチキックで逃れたものの、そこからはジョージアの強みの一つである、ラインアウトでボールを確保され、密集近辺の繰り返しのアタックで反則を犯し、PGで先制されてしまったのだ。
北半球のシックスネーションの6か国、南半球のザ・ラグビーチャンピオンシップ加盟国4か国にジャパンとフィジーを加えた「ハイパフォーマンスユニオン」12か国に割って入ってランキング上位を長期間キープしているジョージアには、世界最高とも言われるスクラム、強力なモール攻撃の起点となるラインアウトに加え、近場での密集のバトルに無類の強さを発揮するという武器がある。トライこそ奪われなかったものの、試合開始からそのストロングポイントを存分に発揮されてしまった。
しかし、ジャパンも負けていなかった。すぐさまSO李承信がPGを返すと、得意の「近場フィジカルバトル」を駆使してゴール前に迫ってきたジョージアの最後のパスの乱れをついて、CTBチャーリー・ローレンスがこぼれたボールを足にかけて、大きく前に蹴ると、そのボールを追いかけたCTBディラン・ライリーが追いついてトライ。李のコンバージョンキックも決まり、10-3と突き放す。
相手の攻勢を切り返して一発で奪ったトライでモメンタムを生み出せたかに見えたし、その後しばらくはジャパンの攻勢が続いたのだが、そこはフィジカルバトルなら世界でも屈指の強さを持つジョージア。ジャパンがジョージアの守備陣形を崩しにかかる前の接点で、強烈なバトルを仕掛け、ジャパンに「超速」を許さなかった。
ジョージアに、ミスが多々見られたのに、そこに付け込んでトライまでもちこむことが出来なかったのはひとえに2フェイズ目、3フェイズ目あたりのジョージアのバトルが濃密で早い球出しが出来なかったせいだ。特に前半、ジョージアにイエローカードが提示され、ジャパンに優位な時間帯があったのにも関わらず、そこでPG1本しか加えられなかったのが、終盤のドラマへの伏線となった。
ジョージアというチームは、不思議なしぶとさを持っている。精緻なキックがあるわけでもないし、密集でボールはポロポロするし、何がなんでも点をとってしまうようなスピードランナーがいるわけでもない。しかし、大きく点差を引き離されるわけでもないし、敵陣深くのラインアウトではここぞとばかりにモールを組んで、バックスの選手もほぼ総動員してプッシュをかけて、かなりの確率でトライを奪う。実に泥臭いラグビーだが、型にハマった時は強いし、最後の最後まで諦めないメンタルの強さは世界屈指だ。
この試合でも、こうした「特性」は随所にみられた。バックスも参加した「12人モール」こそジャパンに2回跳ね返されたが、これしかないと思い定めた、密集近辺をこれでもかと突いてくる戦法で試合終盤に2トライ2ゴールを奪い、ついに逆転したのだ。
コンバージョンキックが決まり、ジャパンが22-23と逆転された時点での残り時間は2分。またここでも、「世界の壁」に跳ね返されてしまうのか、という思いがよぎる中、ジャパンのキックオフでリスタート。中盤付近でボールをキープしたジョージアだったが、ここでミスが出た。
SHのキックがダイレクトでタッチを割り、ジョージア陣内でのジャパンボールラインアウト。後がないジャパンはとにかくボールをキープし続けて相手トライラインに迫るしかない。攻撃を継続させていく中で、ジョージアが密集の中で重大な反則を犯し、ジャパンにPGのチャンス。時間はすでにロスタイム。入れば勝利、外せば負け。スタジアムのジョージアファンは、観戦マナーをどこかに置き忘れたかのように一斉にブーイング。その中で李が冷静にゴールを決めた。25-23。劇的な幕切れで、ジャパンの勝利。2027年W杯でのバンド2入りを引き寄せた。
前週のゲームで2本のPGを外したことで敗戦の責任の大部分を負うことになった李は、心中期するものがあったのだろう。この日は6本のPGと1本のコンバージョン全てを成功させるスーパーブーツぶりを見せつけた。その他にも、まさに腕一本でランナーの足の裏を叩いてトライセービングしたジャック・コーネルセン、ゴール前の接点でスチールを見せた小林賢太、自陣ゴール前5メートルのラインアウトでボールをスチールしたワーナー・デイアンズなど、随所に好ディフェンスがみられ、それが結局最後に勝利に繋がった。相手のミスの多さを完全に生かしきれずに、接戦に持ち込まれてしまった点は大いに反省すべきだが、本日の唯一にして絶対の目標、勝利が達成できたのはジャパンの進歩の証と言って良い。
来年のテストマッチでは上位チームを一つでも多く倒し、再来年のW杯では4強進出という目標をぜひ達成したい。道はまだまだ険しいが、次々と明らかになった課題を一つ一つクリアしていくことこそが目標達成につながる。
[文:江良与一]
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