岩佐歩夢 インタビュー前編(全2回) 11月21〜23日、三重・鈴鹿サーキットで国内最高峰の全日本スーパーフォーミュラ(…

岩佐歩夢 インタビュー前編(全2回)

 11月21〜23日、三重・鈴鹿サーキットで国内最高峰の全日本スーパーフォーミュラ(SF)選手権の最終戦が開催される。その戦いでタイトルに挑むのが現在ドライバーズ・ランキング2位につける岩佐歩夢(24歳)だ。

 今シーズンはF1のレーシングブルズのリザーブドライバーを務め、世界を転戦しながらSFに参戦していた岩佐にインタビューを行ない、日本最速の称号にかける思いや今シーズンのF1での活動、そして気になる来年の動向について話を聞いた。



10月、富士スピードウェイでインタビューに応じた岩佐歩夢

【フライデーサポートの役割とは?】

ーーまずF1について聞かせてください。2025年シーズンのF1は残り数戦となりましたが、最終戦のアブダビGPまでの全レースでレーシングブルズに帯同するのですか?

岩佐歩夢(以下同) そうですね。ただF1の第22戦ラスベガスGPとSF最終戦の鈴鹿はスケジュールが重なっていますので、そこは当然SFの出場を優先することになります。

 今年はF1のレースが開催される週末の金曜に「フライデーサポート」と呼ばれるシミュレーター業務を行なっていましたが、それは基本的にヨーロッパ圏内でのグランプリだけです。マシン開発のためのシミュレーターセッションは引き続き担当はしていますが、今はリザーブドライバーとしてチームに帯同することが主な役割となります。

 ヨーロッパでのレースに関しては、レッドブルの本拠地があるイギリスから各サーキットへ日本の国内線のような感覚で移動できます。金曜の昼や夕方までシミュレーター作業をして、金曜の夜か土曜の朝にサーキットに入っていました。でもヨーロッパ圏外はそういうスケジュールで移動ができないので、直接現地入りする形になります。

ーーフライデーサポートでは、具体的にどんな作業をしているのですか?

 自分たちのマシンがサーキットの特性に合う、合わないというのはありますが、金曜のフリー走行1回目(FP1)や2回目(FP2)で合わない時に、それをどう修正して翌日の3回目(FP3)に持ち込めるか。そこは今シーズンのキーポイントになっています。

 マクラーレン、レッドブル、フェラーリ、メルセデスのトップグループ以降の中団グループの戦いは僅差なので、セットアップをちょっと外しただけで一気に順位が落ちてしまいます。逆に言うとセットアップやマシンのバランスを少しでも改善できれば、一気に順位を上げることができます。

 今シーズンは各チームの週末を通しての対応力や改善力が大事になっていて、それをシミュレーターの作業を通じてサポートするのがドライバーの役割です。

ーー今シーズン、岩佐選手がリザーブドライバーを務めるレーシングブルズは好成績を残しています。達成感があるのでは?

 シミュレーターによってチームにもたらすことができる力は限られていますが、レーシングブルズからいい評価をしてもらえていると感じていますし、何よりも結果が出ているのはすごくうれしいですね。

 シミュレーター作業をする際には、基本的に担当のエンジニアがいて、現地のエンジニア陣とディスカッションして、どういったセットアップで、どういったテストするかを決めていきます。

 そのプログラムに沿ってシミュレーターで走らせるのですが、実車を走らせる時よりも情報量が当然少ない。その環境のなかでも、ドライバーはしっかりと実車と同じようにクルマを感じ取って、正しいデータを残すことが求められます。

 さらにシミュレーターでの走行が終わったら、データには出ていませんが、ドライバーとして感じたことを明確にエンジニアにフィードバックします。それによってチームが次の日、あるいは次のセッションへ向けセットアップやマシンの改善を正しい方向に進めていけるようにサポートしていく。そこは自分の得意分野でもあります。

 レーシングブルズがフライデーサポートを本格的にやり始めたのはここ最近のことです。まだまだ精度が上がっていっている段階ですが、すでにシミュレーターでの結果やフィーリングがリアルとマッチする度合いがかなり高いです。今でもシミュレーターの影響力は大きいですが、今後ますます重宝されていくと思います。

【行ったり来たりの"しんどい移動生活"】

ーー今シーズンはF1中継で岩佐選手が国際映像で捉えられるシーンが何度もありました。日本と海外ではどちらにいる時間が割合的には多かったのですか?

 日本と海外と半分半分ぐらいだと思います。F2(2022〜2023年)やF3(2021年)に参戦している頃よりは断然、日本にいる時間は多くなっています。やっぱりSFでチャンピオンを獲るためにできる準備、それこそフィジカルのトレーニングやチームとのミーティングなども時間をかけてやってきましたから。基本的には日本で過ごしながら、世界中を回っているという感じです。

 でも、今年は同じところに長く滞在することはいっさいなかったですね。日本とレッドブルの本拠地があるイギリス、F1が開催される世界各国のサーキットを行ったり来たり。それをずっと繰り返している感じです。

ーーちなみに今年、日本と海外を何往復くらいしたんですか?

 もう20回ぐらいじゃないですかね。今年はとにかく移動が大変です。F1のレギュラードライバーたちは全24戦で世界中を回っていますが、僕の場合はそれにプラスして日本のSFもあります。間違いなくF1のレギュラードライバーよりも移動距離が長いし、しんどい移動生活を送っていると思います(笑)。

ーーきちんと休める時間はあったのですか?

 今年に関しては丸1日オフだったことはないですね。休めても半日です。振り返ってみると、移動の連続なので、フライトの時はひたすら寝ていますね。「時差ボケが大変じゃないですか?」とよく聞かれるのですが、出発の前後も、到着したあとも何かしらの予定が入っていて、すぐに動かないといけない場合が多い。ゆっくりと休んでいる時間はほとんどありません。

 だからフライトの時は時差の調整のことは考えず、とにかく寝る。エネルギーを消費しないようにというか、無駄遣いしないように、機内では回復することを最優先に考えて移動しています。

【コントロールできないことに悩まない】

ーーそんな忙しいなかで、強豪のTEAM MUGENから参戦しているSFでは、スポーツランドSUGO(宮城)で開催された第8戦でようやく初優勝をあげました。

 自分たちが持っている力を考えれば、時間がかかりすぎましたよね。昨年から勝てる力、速さはあったのですが、それをしっかりと形として残せていなかった。その時間がやっぱり長かったと感じます。

 今年も開幕戦からずっと勝てるだけの速さはあり、上位にいるのにもかかわらず、何か小さな歯車がひとつ欠けて、優勝から見離されるというレースが続いていました。だから勝てた時は純粋にうれしかったですが、同時に若干ホッとしたというか、やっと勝利を手にすることができたという思いもありました。

ーー結果的にSFで初優勝するまでに1年半ぐらいかかりましたが、こんなにも長い期間勝てなかったのは初めての経験ではないですか?

 初めてです。僕自身、カートから始まったドライバー人生で今まで1年間未勝利というのはなかったんです。すごく屈辱的でしたが、それは僕だけじゃなくて、TEAM MUGENの15号車を担当するエンジニア、メカニックも一緒でした。

 全員にとって丸1年間、優勝がなかったシーズンというのはそれぞれの人生で初めてで、15号車のメンバー全員が悔しい気持ちを共有しながら戦っていました。

ーー勝てそうで勝てないというレースが続き、落ち込んだりしたことはなかったですか?

 第3戦のもてぎではシフトトラブル、第5戦のオートポリスではタイヤが外れて、勝ちを逃したレースがありました。それでも心が折れたことはまったくなかったです。

 もちろんリタイアした瞬間や、その日はすごく悔しい気持ちはありました。でも、マシントラブルで落とした2戦に関してはレース中にドライバーの力でコントロールできたり、何とか対応できたりする問題ではありません。だから次の日にはくよくよ考えても仕方がないと切り替えができていました。

後編へつづく

<プロフィール>
岩佐歩夢 いわさ・あゆむ/2001年、大阪府生まれ。4歳からカートに乗り始め、ホンダ・レーシング・スクール・鈴鹿(HRS)の前身となる鈴鹿サーキットレーシングスクール フォーミュラを首席で卒業しスカラシップを得る。ホンダ フォーミュラ・ドリーム・プロジェクト(HFDP)より2020年にフランスF4選手権に参戦し、チャンピオン獲得。翌2021年からはレッドブルの育成プログラム「レッドブル・ジュニアチーム」にも加入し、FIA-F3選手権に参戦。2022年はFIA-F2選手権に昇格し、デビューイヤーに2勝を挙げ、ランキング5位。2023年は3勝でランキング4位。2024年は全日本スーパーフォーミュラ選手権にTEAM MUGENから参戦しランキング5位。2025年はレーシングブルズでリザーブドライバーを務めながら、TEAM MUGENからSFに参戦中。