岩佐歩夢 インタビュー後編(全2回) F1のレーシングブルズのリザーブドライバーを務めて世界を転戦しながら、国内最高峰の…

岩佐歩夢 インタビュー後編(全2回)

 F1のレーシングブルズのリザーブドライバーを務めて世界を転戦しながら、国内最高峰の全日本スーパーフォーミュラ(SF)選手権に参戦している岩佐歩夢。今、注目を集める24歳は、11月21〜23日に三重・鈴鹿サーキットで開催されるSF最終戦でチャンピオンに挑む。

 ドライバー人生を左右する大事な一戦を前に、日本最速の称号にかける思いや今シーズンのF1での活動、そして気になる来年の動向について話を聞いた。



インタビューでスーパーフォーミュラ制覇への思いを語った岩佐歩夢

【勝てない時期に学んだこと】

ーーSFのデビューシーズンとなった2024年は未勝利で、ランキング5位で終えています。この結果を受け、参戦2年目の今シーズンはレースへの取り組み方を何か変えましたか?

岩佐歩夢(以下同) 勝てない時には理由が絶対あります。運だけでレースを落とすこともごく稀にありますけど、基本的には何かしらの理由があるので、それを明確にする必要があります。そのあとで、それはエンジニアが何かしらのリアクションをしなければならないことなのか、メカニックの領分なのか、それともドライバーが対応すべきなのかと、問題を整理していきます。

 もしドライバーが対応できないことであれば、それをドライバーが延々と考えていても時間の無駄になってしまうだけです。ドライバーとして自分がやるべきことに集中し、余計なことに労力は費やさないようにしていました。

 僕はレースやクルマが好きだからこそ、いろんなことを知りたいし、あらゆることに関わって、やりたくなってしまう性質なんです。でも、自分ができることとやるべきことは別の話だと気がつきました。

 自分が関わることで物事がうまく運ばないケースもあるんだ、と。それはSFだけでなくF1の仕事をするなかでも感じたことですが、とくにSFに関しては昨シーズンの僕の反省点のひとつでした。

 だから今シーズンは、ドライバーの僕を含めてチームのメンバー全員が自分の持ち場で、それぞれの力を最大限に出しきることを目指してきました。そうすればおのずと結果が出るという考えのもとでチームとともに戦ってきました。

【SFでの勝利には100点が求められる】

ーー岩佐選手はF3やF2など、国内よりも海外でのレース経験が豊富です。SFの難しさをどう感じていますか?

 SFとF2はドライバーのキャラクターや実力が幅広く、全体的なレベルは似ているという印象があります。でも、SFで上位をつねに争っているドライバーのレベルは、F2よりもはるかに高いと思います。というのも、国内トップカテゴリーのSFには何年も乗られているドライバーがいますので、コースやマシンのすべてを知り尽くしているからです。

 簡単に説明すると、SFで勝つためにはつねに100点を狙いにいかなければならないんです。F1やF2の場合は、レースは毎戦違うサーキットで行なわれ、しかも1年に1回しか走らないので、絶対に100点は狙えないというか、100点を取りにいこうとすると逆にえらい目に遭ってしまう。だから週末を通していかに95点の力にまとめ上げられるのかが勝負のポイントになる。

 一方、SFはマシンもドライバーも100点を取りにいける精度というか、時間や環境が整っているので、F1やF2のように95点を取りにいくと勝てない。95点では2位や3位、あるいは入賞はできますが、勝てないというチャンピオンシップなんです。

ーーとくに鈴鹿サーキットや富士スピードウェイ、モビリティリゾートもてぎに関しては、SFに参戦するドライバーは若い頃からいろんなカテゴリーで何度もレースやテストをしています。エンジニアやメカニックも同様です。SFの場合は、走り始めの時点で多くのドライバーが95点はクリアしており、そこにいかに上積みしていけるかというレースということですか?

 そうですね。本当に完璧に近いところをどれだけ取りにいけるかというのがSFの勝ち方であり、難しさだと僕は分析しています。

ーー岩佐選手も1年目はそのあたりに苦労した面もあったのですか?

 僕の前にレッドブルから派遣されたリアム・ローソン選手(レーシングブルズ)やピエール・ガスリー選手(アルピーヌ)は、いきなり日本に来て勝つことはできましたが、結局チャンピオンにはなれませんでした。それは先ほどから指摘している、100点を取りにいかないと勝てないSFの難しさが原因だと考えています。

ーーレッドブルやレーシングブルズの人たちはSFのレースを見ているのですか?

 見ている人は見ています。本当にうれしいことに、とくにレーシングブルズのメンバーは、シミュレーターやテストでの僕の仕事ぶりを評価してくれ、早くレギュラードライバーとして乗ってほしいと言ってくれています。

 僕がF1でレギュラードライバーに昇格するために、今戦っているSFでチャンピオンを獲れそうなのかと、エンジニアやメカニックはすごく気にしてくれています。実際にSFのレースを終えた直後にF1の現場に行くと、SFのレースについていろいろと聞かれます。

 でも、"F1村"の人たちみんながSFを知っているかというと、そうじゃないというのが現実です。世界的な観点でいくと、認知度はまだそんなに高くないのかなと思います。

ーーとはいえ、SFは非常にレベルが高いレースをしていることは認めているんですね。

 そうですね。レーシングブルズのメンバーやアラン・パーメイン代表、もちろんレッドブルのモータースポーツアドバイザーを務めるヘルムート・マルコさんはSFについてはよく知っています。

 レッドブルのメンバーが僕によく言うんです。「SFは残念なことにグローバルでの認知度は低いけど、レベルが高いから難しいよな」って。そのあとには、「レッドブルのドライバーは今までSFで惜しいところまで行っているけど、チャンピオンを獲ったドライバーがいない。お前がタイトルを獲らないといけないんだぞ」と、昨年から言われ続けています。

【F1昇格へ向けて目の前のレースを戦う】

ーーさて、今シーズンのSFは残すところ最終戦の鈴鹿ラウンドの3戦のみです。岩佐選手はポイントリーダーの坪井翔選手に対して14.5ポイント差のランキング2位につけています。鈴鹿ではどういうレースをしたいですか?

 スポーツランドSUGO(第8戦)でドライバーの僕自身もそうですし、チームみんなでそれぞれの持っている力というのをしっかりと示して、結果的に勝利を達成することができました。SUGOのレースと同様に速さを見せつつ、自分たちが出せる力を最大限出し切ることに集中するしかないと思っています。

 自分の持てる力を最大限に出せれば、絶対に勝てるポテンシャルはあります。とはいえ、セットアップがうまくいかないとか、流れが悪くて優勝にたどり着かないことがあるかもしれません。そういう状況の中でも最大限の力を出し切って、常に上位にいることがチャンピオンになるために絶対条件だと思っています。

ーー岩佐選手はF1にステップアップし、チャンピオンを獲ることが目標だと公言しています。参戦2年目のSFに関しては結果がどうであれ、今シーズン限りで卒業と考えているのですか?

 今は来年のことはまったく考えてないというか、考えている余裕はありません。目の前のSFでチャンピオンを獲ることだけに集中しています。もちろんF1のレギュラーシートを獲得するという次の目標はありますが、そのためには目の前のレースに勝って、チャンピオンを獲らなければならない状況だと思っています。

ーーSFでタイトルを獲得しなければ、その先の道も簡単に切り開いていけないということですね。

 そうですね。SFでチャンピオンになったからといって、必ずF1のレギュラードライバーになれるという世界ではありません。ただ、チャンピオンになることでF1のシートを獲得できるチャンスがわずかでも広がるかもしれません。

 それにF1へのステップとは関係なく、ひとりのドライバーとして、レベルが高く、本当に研ぎ澄まされた精度を求められるチャンピオンシップで頂点に立って、日本一になりたいという気持ちが強いんです。そのために目の前のレース、一戦一戦に全力でチャレンジしていくだけです。

終わり

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<プロフィール>
岩佐歩夢 いわさ・あゆむ/2001年、大阪府生まれ。4歳からカートに乗り始め、ホンダ・レーシング・スクール・鈴鹿(HRS)の前身となる鈴鹿サーキットレーシングスクール フォーミュラを首席で卒業しスカラシップを得る。ホンダ フォーミュラ・ドリーム・プロジェクト(HFDP)より2020年にフランスF4選手権に参戦し、チャンピオン獲得。翌2021年からはレッドブルの育成プログラム「レッドブル・ジュニアチーム」にも加入し、FIA-F3選手権に参戦。2022年はFIA-F2選手権に昇格し、デビューイヤーに2勝を挙げ、ランキング5位。2023年は3勝でランキング4位。2024年は全日本スーパーフォーミュラ選手権にTEAM MUGENから参戦しランキング5位。2025年はレーシングブルズでリザーブドライバーを務めながら、TEAM MUGENからSFに参戦中。