JRP会長・近藤真彦氏 インタビュー 前編(全2回) 2023年4月、全日本スーパーフォーミュラ(SF)選手権の主催団体…

JRP会長・近藤真彦氏 インタビュー 前編(全2回)

 2023年4月、全日本スーパーフォーミュラ(SF)選手権の主催団体であるJRP(日本レースプロモーション)の新会長に就任した近藤真彦氏。

 当時、国内最高峰のフォーミュラカーレースは人気が低迷し、シリーズ存亡の危機に直面していたが、近藤氏がトップに就任して3シーズンの間にスポンサーや観客動員は増え、SFの注目度は確実に上がり始めている。

 当の本人は「全然まだまだ満足していません。ここから本当の勝負」と語るが、近藤会長にこれまでの3年間を振り返ってもらうとともに、SFの未来像について聞いた。



2023年からJRPの会長を務める近藤真彦さん

【重鎮たちからの期待を背負って】

ーー近藤さんがJRP会長に就任して3年目のシーズンが終わろうとしています。会長に就任した初年の2023年の年間観客数は約16万5600人、2024年は約20万9600人、そして2025年は目標に掲げていた25万人に達する見込みで、毎年お客さんは確実に増えています。

近藤真彦(以下同) 「客寄せパンダの会長と思ってもらってもいい。僕をうまく利用してください」とJRPの方にお願いして会長に就任しましたが、お客さんが増えたのは僕だけの力ではありません。

 観客動員数が増えた一番の理由は、レースが面白いからです。レースが面白ければ絶対にお客さんは増えると僕は思っています。面白くするために運営側、ドライバー、チーム、サーキットのみんなで努力した結果、今の観客動員につながったと考えています。

 国内最高峰のレースと言えばSFとスーパーGTですが、僕が会長に就任した頃、SFは本当に厳しい状況でした。このままでは日本のトップフォーミュラも存続が厳しいというなか、当時のJRPの方々はいろいろ打開策を考え、「SFgo(エスエフゴー)」を導入することが決まったんです。

ーー「SFgo」はレースの中継映像や各マシンのデータやトラックポジション、チーム無線などをリアルタイムで見て楽しめるレース観戦用のアプリです。

 当時、JRPの会長を務めていた中嶋悟さんはアプリでレースを楽しむという新しい時代に入ったこともあり、「若返りを図って新たなトップにしよう」と決め、トヨタやホンダといろいろと揉んでいただいて、僕の名前が出てきたそうです。

 その時にトムスの舘信秀会長、インパル(の代表)の星野一義さんたちから「お前が会長をやるならしっかりと支えるから、その代わりSFを盛り上げてくれよ」と言われました。さらにホンダ・レーシングの渡辺康治社長と、当時トヨタのモータースポーツ活動を担うガズー・レーシングカンパニーのプレジデントを務めていた佐藤恒治さん(現トヨタ自動車社長)も「全面的にバックアップする」と約束してくれました。

 そしたらもう断わることができないですよね(笑)。最後はモリゾウさん(豊田章男・トヨタ自動車会長)のところへあいさつに行った際、「SFは世代交代で、新しい時代に突入だね」とお墨付きをいただきました。

【2026年からSFはグローバル化へ】

ーー会長に就任した際は、メディアを巻き込んで"にわかファン"を取り込みたいと話していました。この3年間でDAZN、FOD、ABEMAなどSFを放映するメディアとファンは確実に増えました。

 ファンの幅は間違いなく広がりましたね。観客動員数だけでなく、世界的にSFのシリーズとしての評価も上がったと思います。FIA(国際自動車連盟)によるスーパーライセンスの付与ポイントが上がっていることがその証明です。

ーー2025年からは、海外のF2に比べて少なかったイベント数は7大会12レースとなって3レース増え、F1出場に必要なスーパーライセンスの付与ポイントも上がり、F1を目指す海外のドライバーがSFに参戦しやすくなりました。ご自身でも、この3年間はよくやったと思っているのではないですか?

 いや、全然まだまだです。出だしはまあよかったかなという程度のことだと思います。僕が会長になって花火をドカーンと打ち上げることはしたくなかった。一気に盛り上がっても飽きられるのが早くなってしまうので、じわじわと盛り上げていきたいという気持ちがありました。

 だからスタートからうまくいっていても、常に緊張感を持って、何かあった時はブレーキをかけなければならないと思っていました。でもこの3年間、結果的にはいろいろなことがうまく進んでいきました。

 とはいえ、これからが本当の意味での飛躍のチャンスだと思っています。具体的なことはまだ言えませんが、来年からまた大きく変わって、もっとグローバルな展開になっていきます。

ーー近藤さんはもともとアジアを代表するフォーミュラカーレース「アジアのF1」を目指すとおっしゃっていました。今年の開催カレンダーには当初、インジェ・スピーディウムでの韓国大会がスケジュールに組まれていました。韓国大会は最終的に断念しましたが、アジアのF1路線を本格的に進めようということですか?

 韓国でのレースは自分たちが構想していたというより、向こうから提案されたものでした。それでスタッフを派遣して調査して、いろいろ打ち合わせをしたのですが、最終的な開催OKの判断が出ていないタイミングで、日本自動車連盟(JAF)にカレンダーの申請をしなければいけない時期になってしまった。

 JRPが海外でのイベント開催へ向けて動いているという姿勢を見せるにはカレンダーに入れてしまったほうがいいと僕は判断しました。申請して、そこから両者で開催要件を詰めていこうと頑張りましたが、結局ダメになってしまった。賛否はいろいろありますが、よくも悪くもJRPが動いていることを示せたので、最終的にはよかったと思っています。

 いずれにしても、今は何も決まってないので、具体的なことは言えませんが、海外でのレース開催は引き続き目指していきたいです。

【国籍も性別も関係ないドラマを演出】

ーーアジアを中心に海外のドライバーやチーム、スポンサーをどんどん日本に取り入れて、アジアのサーキットに出かけていってレースを開催したいと前々からおっしゃっていました。

 アジアを中心にグローバルでいこうという路線はもともとありましたが、それを2026年から本格的に進めていきます。サーキットに来たら、目で見てわかるぐらい、これまでとは違う雰囲気になると思います。

 2022年と2023年の世界ラリー選手権(WRC)チャンピオンに輝いたカッレ・ロベンパラのSF参戦に加え、ドライバーのラインナップはガラッと変わると思います。僕はもともとSFに外国人ドライバーが少ないと感じていました。

ーー近藤さんがドライバーとして参戦していた1990年代は、当時の国内トップフォーミュラだった全日本F3000選手権やフォーミュラ・ニッポンには海外の有力ドライバーがたくさん出場していました。

 そうですよね。F1でシートを得られなかった才能のあるドライバーがたくさん参戦していました。そのくらいのレベルのドライバーが来てくれたら、日本人のドライバーにもっと刺激を与えられます。

 でも今の時代、日本人とか外国人とか、国籍や性別もあまり関係ないと思っています。速いドライバー、力のあるドライバーが走ればいい。日本人のベテラン選手ばかりが乗るような時代ではない。

 面白くて、ドラマチックなレースを僕らも提供したい。たとえば、小林可夢偉選手のような元F1ドライバーが若くて勢いのあるドライバーをグッと抑えちゃう。「まだ俺の前を走るのは10年早いよ」っていうのもストーリーだし、逆にパッとステップアップしてきた若い選手や、F1に乗れるような才能ある外国人ドライバーがいきなり圧倒的な速さで優勝してしまって、「もうおじさんたちは引退しなよ」というのも面白い。そういうドラマを演出できればいいなと思います。

ーーJRP会長として4年目のシーズンとなる2026年は、SFをグローバルなレースとしてもう一歩前進させたいということですね。

 もちろんJRP側からのアピールもあるし、あと海外からの要請、要望をお待ちしている状態です。SFは、ヨーロッパではF2と同じクラスにカテゴライズされていますが、SFはマシンがすごく速いし、レースのレベルも高いという話になっていて、日本で戦ってみたいというドライバーは増えています。そういう要請があればウエルカムしようという話はしています。

 今、日本人のドライバーも含めて、2026年のストーブリーグシートが本格化していますが、来年のラインナップは本当にワクワクするものになると思いますので、楽しみにしてください!

後編につづく

<プロフィール>
近藤真彦 こんどう・まさひこ/1964年7月19日、神奈川県生まれ。1979年にテレビドラマ『3年B組金八先生』(TBS)で芸能界デビューし、以降は俳優・歌手として活躍。レーサーとしては1984年に富士フレッシュマンレースでデビュー。その後は全日本F3選手権を皮切りに、トップカテゴリーの全日本GT選手権(現スーパーGT)や、スーパーフォーミュラ(SF)の前身である全日本F3000、フォーミュラ・ニッポンにも参戦。1994年には全日本GT選手権でポール・トゥ・ウインを達成する。また世界3大レースのひとつ、フランスのル・マン24時間耐久レースにも出場。2000年にレーシングチーム「KONDO RACING」を設立。現在はチームオーナー兼監督としてSFとスーパーGTに参戦中。2023年4月にSFを運営する日本レースプロモーション(JRP)会長に就任。歌手、チームオーナー、JRP会長の"3刀流"の活躍を続ける。