『ハイキュー‼』×SVリーグ コラボ連載vol.2(12)ジェイテクトSTINGS愛知 岩本大吾 前編(連載11:広島サ…

『ハイキュー‼』×SVリーグ コラボ連載vol.2(12)

ジェイテクトSTINGS愛知 岩本大吾 前編

(連載11:広島サンダーズ髙梨海輝が振り返る、最後の春高バレー前の転機 コロナ禍でつかんだ「跳んで叩く感覚」>>)

【優勝まであと一歩に迫った昨シーズン】

「悔しさが残らないんです」

 昨年のインタビューで、ジェイテクトSTINGS愛知の岩本大吾(24歳)はそう語った。負けた悔しさがないはずはない。しかし、頭は「次はどうするか」と切り替わっているという。



昨シーズンに大きく成長したジェイテクトSTINGS愛知の岩本 Photo by Yohei Osada/AFLO SPORT

 昨シーズンの最後も、悔しさに身を焦がしてもおかしくない瞬間があった。チャンピオンシップ決勝、サントリーサンバーズ大阪にあと一歩及ばず、栄光を逃した。

「もちろん悔しさはありました。負けた直後は泣きましたしね。でも、『ここまで来られた』『ここでプレーできた』という高揚感のほうが大きかったんですよ」

 岩本はそう言って、白い歯を出して笑う。

 サントリーとの決勝の第1戦は、1、2セットを連取し、第3セットも終盤までリードしていたが、逆転されて奪い返された。続く第4セット、ファイナルセットもマッチポイントを握る場面があったが、勝者にはなれなかった。

「決勝の戦い方、メンタル面も含めて『サントリーは常勝チームだ』と思いましたね。僕らはレギュラーシーズン4位とずっと勝っていたわけではないけど、あの決勝の第1戦は勢いで2セットを先取した。でも、押しきれなかった理由は何かしらあるはずです。

 たとえば、4セット目は勝ち急ぎましたね。自分はベンチで見ていましたが、トスが上がるたびに喜んで前に出そうになって下がる、を繰り返していました。そして第2戦のサントリーは、(第1戦で)2セットひっくり返したことで"怖いものなし"って感じでした」

 岩本が包み隠さずににそう語れるのは、彼のなかで整理がついているからだろう。

「『あの時、あの点が取れていたら......』と振り返ることもありますけど、試合中は『めっちゃオモロイやん』と思っていたんです。そういう試合を経験できたことで、今は(気持ちが)クリアになっていますね。あれがあったから、次のステップに進めている感じもあるので」

【「攻撃的ミドル」というスタイルを確立】

 トップリーグ2年目、岩本は大きな成長を遂げた。アタック決定率は57.5%で、クイックは"看板"のひとつになった。

「数字がよかったのは、オポジットに(宮浦)健人さん(現ウルフドッグス名古屋)がいて、外国人のふたりもすごかったからマークが薄くなったこともあるでしょうね。そして何より、関さん(関田誠大/現サントリーサンバーズ大阪)がうまく使ってくれた。関さんは"使いどころ"をわかっているし、自分のヒットポイントに(ボールを)"置いて"くれました。

 ミドルブロッカーは終盤には打数が減ってサイド、サイドになることが多いんですけど、関さんはそれがない。だから僕の20点以降の決定率も、けっこう高いんですよ。フルセットになった東レ(アローズ静岡)戦で、5セット目の中盤くらいにノーマークで打たせてもらった時は鳥肌が立ちました」

 岩本は関田に賛辞を送った。ただ、巡り会えた運を生かしたのは彼自身だ。

「年間を通して『やれる』という自信がついていきました。攻撃的ミドルと言われますし、『自分の強みってそこなんや』と。スタイルが確立されたシーズンでした」

 新たなシーズンにも前向きな思考で臨んでいる。

「メンバーも変わって心配な部分もありましたが、プレシーズンマッチで『やっていけるんちゃうか』と思いました。今のセッターの選手たちも素晴らしいトスを上げてくれますし、みんな"最後は勝てる"というメンタリティで戦えていると思います。昨シーズンにチャンピオンシップ決勝まで行けた自信もあるでしょうね」

 2年目は出場機会を増やすことを考えていた。3年目は、どれだけ先発で出て、勝てるか。ひと段階、目標を高くした。SVリーガーとして戦いきれる実感を得たのだ。

 昨シーズンは、父親が初めて生観戦に来たという。

「チャンピオンシップ決勝も観戦に来てくれて、うれしかったですね。試合のあとは『あの時、どんなメンタルだった?』とかいろいろ聞いてきて(笑)。親子感も増した気がします!」

 岩本は成長を続ける。彼は自らの性格を「ネガティブ」と評するが、まとっている空気は明るい。

「チャンピオンシップは、夢を見ているような感じでした。SVリーグの映画(『Awesome SVリーグを闘った四人の記録』)も観ましたが、『このチームでプレーしてたんやな』とあらためて実感しました。『プロでやってるんや』って」

 岩本は他人事のように言って、快活に笑う。彼のなかにあるのは、澄みきった自負心だ。

(後編:稲荷崎のモデルとも言われる尼崎高校で受けた「ちゃんとやんねん」な指導>>)

【プロフィール】

岩本大吾(いわもと・だいご)

所属:ジェイテクトSTINGS愛知 

2001年2月10日生まれ、兵庫県出身。193cm・ミドルブロッカー。中学校からバレーボールを始め、市立尼崎高校時代には3年とも春高バレーを経験し、インターハイでは優勝。早稲田大では1年時から全日本インカレを3連覇。3年時には最優秀選手賞を受賞した。各カテゴリーの日本代表にも選出されている。2023年にジェイテクトSTINGS愛知に入団した。