日本は健闘及ばずウエールズに敗れた(C)Getty Images ラグビー日本代表(世界ランキング13位、以下ジャパン)…

日本は健闘及ばずウエールズに敗れた(C)Getty Images
ラグビー日本代表(世界ランキング13位、以下ジャパン)のオータムテストマッチシリーズ4戦目がウエールズの首都カーディフのプリンシパリティースタジアムで行われ、ジャパンはウエールズ代表(同12位)に23-24で敗れた。ウエールズとは今年3度目の対戦で1勝2敗。通算対戦成績はジャパンの2勝15敗となった。
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まさに紙一重。実に悔しい敗戦だった。2027年のW杯予選プールでの戦いを有利にするためにも、先週、先々週の惨敗のショックを払拭する意味でも、絶対に勝ちたい一戦だったが、最後の最後で勝利がスルリと逃げていってしまった。
内容的にもジャパンの方が押していた。ポゼッションこそジャパン53%に対しウエールズ47%と大した差はつかなかったが、テリトリーでは67%対33%とジャパンが圧倒していた。試合全体では、ジャパンが攻めている場面が目についた印象があり、ジャパンの圧勝で終わってもおかしくない展開だった。
にも関わらず、最終的に「惜敗」となってしまったこの試合の勝敗を分けたのは、ウエールズの試合運びの巧みさとしたたかさだった。
クルセイダーズをスーパーラグビーで5回の優勝に導き、昨季まで率いた埼玉パナソニックワイルドナイツにも数々の栄冠をもたらした名将ロビー・ディーンズ氏は、あるインタビューで「オールブラックスには、試合の中で集中力を高めてスコアを奪おうとしてくる時間帯がある。それは相手と自分たちがスコアした直後、そして前後半最初と最後の時間帯だ。この状況で得点をすることが、相手が最も心理的にダメージを負うからだ」という言葉を残している。ウエールズはこの「オールブラックス理論」に忠実な試合展開に持ち込んだ。
サマーシリーズの経験から、ジャパンは試合の立ち上がり時にやや受け身になる傾向があることを学習していたウエールズは、開始直後から猛攻を仕掛け、ジャパンディフェンスのわずかな綻びを突いてSOダン・エドワーズが先制トライを奪う。後半もジャパンのSO李承信がPGを決めるとすぐさまトライを奪って逆転。ジャパンがPGと2本目のトライで再逆転した直後にもトライを奪って再々逆転に成功していた。ロビー氏の言に従えば、ジャパンはこの展開で心理的にかなりのダメージを負い、それが最後の逆転サヨナラPGへの伏線となった。
ジャパンの攻撃時の不安定さにつけ込むしたかさも存分に見せつけられた。特にこの試合では敵ゴール前に迫ってからボールを奪われるシーンが数多く見られた。ウエールズの先制トライからしばらくの間は、ジャパンがウエールズをゴール前に釘付け状態にしていたのだが、そこで2度ほどブレイクダウンでのターンオーバーを喰らった。いずれもジャパンの攻撃陣がディフェンスラインを本格的に「崩し」にかかる前の、少ない人数でのボールリサイクルを狙う場面でプレッシャーをかけ、フォローの遅れや、ボールキャリアーのハンドリングミスを誘うというウエールズの戦略に見事にハメられた結果だった。
このターンオーバーはその際の攻撃が得点に結び付かなかっただけでなく、ジャパンの各選手に「恐怖心」を植え付ける効果をもたらした。前半の終盤にジャパンは2枚のイエローカードを受け、13人で戦う時間帯があったが、数的不利にも関わらず果敢に攻めてはいたものの、2人の選手の不在でターンオーバーへの恐怖心が高まっていたのか、密集近辺を突く肉弾戦が多く、外に展開してトライを取りにいくことができなかった。逆にウエールズは2本目のトライをチームの精神的支柱でもあるWTBジョシュ・アダムズの退場時に奪った。
そしてウエールズは後半も大半の時間を自陣内で過ごしたが、2度あったトライのチャンスと最後のPGのチャンスは確実にモノにし、得点を積み上げた。
ジャパンはこの試合、課題だったハイボールの処理もさほど見劣りしなかったし、スクラムもほぼ互角。最後の最後で唯一かつ最大の失敗を犯したものの、ラインアウトも安定していた。試合全体を支配していたのはジャパンだったのに、最終的にはスコアで下回ったという結果は、まさに「相撲に勝って勝負に負けた」という状態だ。
ウエールズのしぶとさの源泉は、やはり「経験値の差」ということになるだろうか。ここ数年低迷しているとはいえ、毎年シックスネーションズで強豪たちに揉まれているウエールズにはジャパンにはない懐の深さを感じた。ジャパンの運営に携わる方々には、来季は1試合でも多くのテストマッチを組んでいただき、少しでも選手たちの経験値をあげることに努めていただきたい。
泣いても笑ってもオータムシリーズは世界ランキング11位のジョージア戦を残すのみ。タフな相手ではあるが有終の美を飾って欲しい。
[文:江良与一]
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