年内最後の活動をおこなっているサッカー日本代表で、最も多くの人材を送り出しているクラブがある。けっしてビッグクラブとは…

 年内最後の活動をおこなっているサッカー日本代表で、最も多くの人材を送り出しているクラブがある。けっしてビッグクラブとは言えない、ベルギーのシントトロイデンVVだ。来年おこなわれるワールドカップで優勝という大きな目標に掲げる日本代表を、欧州の小クラブはどのようにして支えているのか。サッカージャーナリスト大住良之が、その「マジック」をひも解く!

■11月シリーズに「3人」が選出

 ガーナ戦(豊田)とボリビア戦(国立)に向けた日本代表チームの発表から3日後の11月9日、日本代表に最多の3人が選出されたベルギーのシントトロイデンVVは、ホームの「大王わさびスタイエンスタジアム」でベルギーリーグ1部のスタンダール・リエージュ戦を迎えた。そして、その試合で、このクラブに所属する日本人選手7人が同時にピッチに立った。

 そのうち先発は6人。GK小久保玲央ブライアン(日本代表)、DF谷口彰悟(日本代表)、FW後藤啓介(日本代表)のほか、DF畑大雅、MF山本理仁、そしてMF伊藤涼太郎が先発し、試合を優勢に進めた。そして後半12分に後藤のゴールで先制すると、後半31分にはMF松澤海斗が投入される。後半42分に伊藤が交代で退出するまで、11分間にわたってピッチ上に日本人選手が7人という状態が続いたのである。

■飛躍が期待される「2人」の選手

 松澤は静岡県富士市出身。富士市立高校から名古屋経済大学を経て2023年にJ2のV・ファーレン長崎でプロとなり、2年目から交代選手としてコンスタントに起用されるようになった。そして3年目の今年7月、シントトロイデンに完全移籍した。年代別代表に選出されたこともなく、高校、大学と無名校だった松澤。スピードドリブルが武器だが、シントトロイデンでどう「化ける」か、注目が集まっている。

 今夏ベルギーきっての強豪アンデルレヒトからシントトロイデンにレンタル移籍した後藤は、完全にレギュラーに定着して今季4点目。この試合の決勝点は、FWアルブノール・ムジャ(アルバニア代表)のシュートが相手DFに当たり、後藤の目の前にこぼれてきたのを決めたもの。目の前に来たチャンスを冷静に決めた。

 ただ、「シントトロイデンのピッチに日本人が7人」という状況は、初めてのことではない。というより、今季はクラブでは「常態化」していると言ってよい。この前週のロイヤル・アントワープ戦も、6人が先発し、後半なかばに松澤が投入され、終盤に後藤と伊藤が退出するという形だった。この試合も、開始早々の伊藤のゴールで1-0の勝利だった。

 その前のユニオン・サンジロワーズ戦は、伊藤がベンチからスタートし、5人が先発。5人ともフル出場し、後半20分に伊藤と松澤が投入されるという形だった。試合は残念ながら0-2の敗戦だった。

■先発に入ったベルギー人は「2人」

 初めての「7人そろい踏み」は8月17日、リーグ第4節のラルヴィエール戦。GK小久保、DF畑、MF山本、伊藤の4人が先発フル出場し、後半12分に後藤、同27分に谷口、そして同42分に松澤が投入された。そして終盤、1-1の状況から「昇格組」アルヴィエールのゴールを猛攻、アディショナルタイムの2分に右に回り込んだ山本のクロスを後藤がボレーで決め、2-1の勝利に導いた。後藤の初得点だった。

 4-2-3-1システムのシントトロイデン。日本人以外の先発選手は、センターバックのレイン・ヴァンヘルデン(ベルギー)、左サイドバックのシメン・ユクレラー(ノルウェー)、ボランチのアブドゥライ・シサコ(フランス)、右ウイングのアブノール・ムジャ(アルバニア)、そして左ウイングのイリアス・セバウィ(ベルギーとモロッコの二重国籍)の5人。

 監督はベルギー人のワウター・ヴランケンだが、先発に入ったベルギー人はわずか2人。後半31分にセバウィに代わって松澤が入ると、ベルギー人はセンターバックのヴァンヘルデンだけになってしまった。日本人選手の活躍は素直に喜びたいが、ベルギーのクラブとして、また、ベルギー北東部の歴史ある町として、地元のクラブで戦っているのが日本人ばかりというのはどうなのだろう。

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