年内最後の活動をおこなっているサッカー日本代表で、最も多くの人材を送り出しているクラブがある。けっしてビッグクラブとは…
年内最後の活動をおこなっているサッカー日本代表で、最も多くの人材を送り出しているクラブがある。けっしてビッグクラブとは言えない、ベルギーのシントトロイデンVVだ。来年おこなわれるワールドカップで優勝という大きな目標に掲げる日本代表を、欧州の小クラブはどのようにして支えているのか。サッカージャーナリスト大住良之が、その「マジック」をひも解く!
■現在まで日本人選手「約30人」が所属
シントトロイデンVVが日本のDMM.com(ディーエムエム・ドット・コム)所有のクラブであることはよく知られている。Eコマース(ネットショッピング)で大きくなったDMMは、現在では多角的な事業を展開し、スポーツにも力を入れている。そのDMMがシントトロイデンの経営権を取得したのは、2017年11月のことだった。
ベルギーの1部と2部を行き来することが多かったこのクラブでは、2015年から2017年のはじめまで日本人FWの小野裕二(現在アルビレックス新潟)がプレーしていたが、DMMが経営権を獲得した以後は積極的に日本人選手を獲得し、現在まで30人近くの選手がこのクラブのユニフォームを着た。
日本人選手に欧州の舞台で経験を積ませようという意図が、最初からDMMにあったわけではない。欧州で人気のあるサッカーという事業に参入することで会社をさらに大きくしたいという純粋な「商業的動機」だったのだが、経営権を獲得した直後の2018年1月にはアビスパ福岡からDF冨安健洋を獲得。冨安は1年半後にはイタリアのボローニャに700万ユーロ(当時のレートで約8億4000万円)で移籍したことで、大きな利益を得た。シントトロイデンのクラブ史上、当時最高の「高額移籍」だった。
■日本人が「7シーズン」にわたって守護神
冨安が加入した半年後の2018年夏には、MF遠藤航(現在リバプール)、FW関根貴大(現在浦和レッズ)、DF小池裕太(現在ヴィッセル神戸)をJリーグのクラブから獲得、鎌田大地(現在クリスタルパレス)がフランクフルトからレンタルで加入するなど、一挙に「日本色」が濃くなった。
遠藤は在籍わずか1シーズン。2019年夏にはドイツのシュツットガルトに移籍すると、入れ代わりで鈴木優磨(現在鹿島アントラーズ)が加入し、鈴木は2シーズン目には34試合に出場して17得点を記録する活躍を見せた。
だが、このクラブが移籍で最も大きな収益を挙げたのは、GK鈴木彩艶だった。2023年8月に浦和レッズからレンタルで移籍、2024年1月に完全移籍となった。浦和に支払った移籍金400万ユーロ(当時のレートで約6億4000万円)はシントトロイデンにとって史上最高額だったが、それを支払わなければならなくなった2024年夏には、やはりクラブ記録の750万ユーロ(約12億円)でイタリアのパルマへの売却が決まっており、シントトロイデンにとっては非常に成功した商売となった。
ちなみに、シントトロイデンのGKは、2019年から2023年まで4シーズンにわたってシュミット・ダニエル(現在名古屋グランパス)がレギュラーとして守り、2023/24シーズンは鈴木、そして鈴木が移籍した2024年から現在までは、ベンフィカ(ポルトガル)から移籍してきた小久保玲央ブライアンが「守護神」となっている。7シーズンにわたって日本人GKの時代が続いているということになる。
■段階的な獲得で「地元ファンの反発」を回避
シントトロイデンはベルギー北東部のリンブルフ州にある町。7世紀に「聖トゥルード」と呼ばれる聖人が建てた修道院の周囲につくられた。町の名称はこの聖人の名にちなんでいる。都市名現在はリンゴなど果物の生産で知られている。人口はわずか4万人。旧市街の中心にある「フローテマルクト(大市場)広場」を中心にコンパスで半径1キロの円を描けば市街地の大半が入ってしまいそうな小さな町である。
この町の2つのクラブ、「ゴールドスター」と「ウニオン」が合併する形で1924年に誕生したシントトロイデンVVは、3部リーグからスタートし、1957年に1部に初昇格、後にベルギー代表の伝説的な名監督となるレイモン・ゲータルスの下、1965/66シーズンには2位という過去最高の成績を記録した。1974年に2部に降格した後、1部と2部を行き来するクラブとなったが、2015年からは安定して1部の座をキープしている。
そして2017年6月、DMMが株式の20%を取得、11月には残りの80%も取得してオーナーとなった。経営権の段階的な獲得は、外国企業がいきなりオーナーになることによる地元ファンの反発を回避するためだった。