蹴球放浪家・後藤健生には心配なことがある。サッカー取材に必要なものが、消えようとしているのだ。デジタル化の波、はたまた…
蹴球放浪家・後藤健生には心配なことがある。サッカー取材に必要なものが、消えようとしているのだ。デジタル化の波、はたまた、その他の理由で国内外から消えつつある、取材のマストアイテムの「不在」を憂うとともに、その紙を手に入れるための「冒険」を振り返る!
■感染防止のために「なくなってしまった」配布
2020年に新型コロナウイルスによるパンデミックが起こりました。「いったい、この社会はどうなってしまうのか」と不安にかられた毎日でしたが、もう遠い過去の記憶のようにも感じます。
RNAワクチンの開発がもう少し遅かったとしたら、あるいはもっと致死性の高い病原体だったら、どうなってしまっていたのでしょう。
サッカー界もJリーグが中断となり、再開後も無観客、観客数の制限、声出し応援の禁止などいろいろなことが起こりましたが、コロナ禍の収束とともに少しずつ平常に戻り、今シーズンはJリーグの観客数が過去最多を更新したそうです。
でも、まだ影響は残っています。
たとえば、ウイルス感染の拡大を防ぐためにJリーグでは紙類の配布が中止されました。それまでは、試合開始前に紙の(A4版の)メンバー表が、また記者会見が終わるころには(やはり紙の)公式記録が報道陣向けに配布されていました。
ところが、感染防止のために紙の配布がなくなってしまったのです。メンバー表や記録はサイトから開いて見る形になりました。
そして、新型コロナウイルスの感染が収まった現在も、ほとんどのクラブで紙のメンバー表や公式記録の配布がなくなってしまったのです。マッチデープログラムなどの紙は配っているのに、肝心のメンバー表や記録が配布されないのです。湘南ベルマーレや東京ヴェルディ、FC町田ゼルビアの試合では(紙の)メンバー表がもらえます。
■「ピッチ上のプレーを凝視し続けるべき」なのに…
もちろん、パソコンやスマートフォンの画面で紙のものとまったく同じメンバー表を見ることはできます。
しかし、これではやはり見にくくて不便なのです。僕が、インターネット世代より年齢が上だからなのかもしれませんが、それだけではありません。
試合中は、本来サッカー記者はピッチ上で繰り広げられているプレーを凝視し続けるべきだと僕は思っています。セットプレーでプレーが止まったときでも、やはりピッチ上で何が起きるか見ているべきです。
そんなときに、ピッチ上の光景からパソコンやスマホの画面に視線を移動すると、焦点を合わせたり、明るさの変化に合わせて瞳孔を調整したりする必要があるので、かなり見にくいのです。
一部の記者のように画面でDAZNの画面ばかりを見ていたり、試合中だというのにSNSに何か書き込んでいる人にとっては画面上のメンバー表を見るのに抵抗はないのでしょうが、ピッチ上のプレーを見ているときにチラッと視線を動かして選手のデータ(たとえば身長・体重とか、今シーズンの出場試合数とか)を見るのには、やはり紙のほうが使いやすいのです。
ぜひ、来シーズンからは紙のメンバー表の配布再開をお願いしたいものです。
■Jリーグのメンバー表に「改善の余地はたくさん」
紙にしろ、ネットにしろ、Jリーグで配布されているメンバー表や公式記録はかなり使いやすいものだとは思います。まあ、キャプテンが誰なのか分かるようにしてほしいとか(キャプテンはアームバンドを着けているので分かりますが、後日、「あの試合のキャプテンは誰だったのか」を調べることができません)、公式記録にも枠内シュート数を載せてほしいとか、改善の余地はたくさんあると思いますが。
それに、選手名に読み仮名もつけてほしいかな……。
なにしろ、日本人の人名は読み方が複雑(メチャクチャ)なので、本人以外には読み方が分かりません。下の名前はもちろん、名字でもそう。「塩谷」が「しおたに」なのか「しおや」なのか分かりません。大昔、日本リーグ時代には三菱重工に「えんや」と読む選手もいました。「下平」が「しもたいら(しもだいら)」なのか「しもひら」なのか……。もしかしたら「したひら」かもしれません。
成人男性以上にキラキラネームが多いからなのか、WEリーグや高校サッカーのメンバー表には読み仮名がついています。
でもまあ、どんな形にしても、メンバー表が手に入るだけマシなのでしょう。
メンバー表が手に入らないことも多々あるのです。