まるで斎藤雅樹(元巨人)みたいだ──。 サイドハンドに近いスリークオーターから、右腕をしなやかに振るアングル。身長18…
まるで斎藤雅樹(元巨人)みたいだ──。
サイドハンドに近いスリークオーターから、右腕をしなやかに振るアングル。身長182センチ、体重84キロの投手らしいシルエット。かつて「ミスター完投」の異名を取り、通算180勝を挙げた巨人の元エースの姿が重なった。あとで知ったことだが、スライダーのように横滑りするウイニングショットを「カーブ」と自己申告する点も斎藤と共通していた。

2026年のドラフト候補、近江の上田健介
photo by Kikuchi Takahiro
【1年秋に148キロをマーク】
近江(滋賀)のエース右腕・上田健介は、早くもプロスカウトが注目する2026年のドラフト候補である。
最高球速は1年秋に計測した148キロ。ただし、2年春に右肩を故障して以降は、最速144キロに留まっている。この右肩の故障は、上田の投球フォームにも大きな影響を及ぼしている。近江の小森博之監督は、苦しい胸の内を明かした。
「上田は右肩のケガをしたことで、腕を振るアングルが下がっていっているんです。こちらからは、あまり『上げろ』と言わないようにして、自然と上がっていくことを願っています」
和歌山ホークスに在籍した中学時代は、右腕を上から叩くような正統的なフォームだった。つまり、往年の斎藤雅樹を彷彿とさせる投球スタイルは、狙ってつくり上げたものではなかった。
今の自分は、本来の自分ではない──。そんな葛藤を抱きながら、上田は右腕を振っているのだろうか。そう想像して本人に話を聞いてみたのだが、その反応はつかみどころがなかった。
「腕の振りのことは、よくわからないです」
自分ではアングルが下がっている自覚がないという。「勝手に下がっていったという感じ?」と聞いてみると、上田は「はい」とうなずいた。今の投球フォームの感触を聞くと、「しっくりきています」と答えた。
今秋、上田を擁する近江は滋賀大会を制し、秋季近畿大会に出場した。10月19日にさとやくスタジアム(奈良)で開催された市尼崎(兵庫)との1回戦。上田が見せたパフォーマンスは、本人のキャラクターと同様につかみどころがなかった。
立ち上がりに先頭打者から2者連続四球を与えるなど、4イニング中3イニングで先頭打者を四球で歩かせた。強いシュート回転のかかったボール球を連発したと思ったら、突如として指にかかった快速球やキレのあるカーブで空振りを奪う。1回に内野ゴロの間に1点を失った以外は、スコアボードに0を並べた。
試合は近江の強打線が火を噴き、9対1で7回コールド。上田は7イニングを投げて、被安打1、失点1で完投。奪三振6、与四死球7という数字が示すとおり、適度な荒れ球が市尼崎打線を苦しめた。試合後、上田は「フォアボールが多くなってしまったんですけど、途中、変化球でストライクが取れるようになってよかった」と振り返っている。
【プロで活躍できる投手になりたい】
目を惹いたのは、やはり指にかかったストレートの球威だった。小森監督は「指にかかった球は質が高いと思います」と評する。
「ポテンシャルはあるんですけど、フィジカル面がまだついてきていないので、バランスが崩れると制球に難が出てしまうんです。でも、体ができてくれば落ち着いてくると思います。肉体的にも人間的にも、まだまだこれからなので」
「人間的にも」という部分に、小森監督は語気を強めたように感じた。話を聞いていても、上田という投手が感覚肌ということは痛切に伝わってくる。
指にかかるボールとかからないボールとでは、どんな違いがあると感じますか? そう尋ねると、上田は首をかしげて「感覚なんで、あんまりわからないです」と答えた。
ただし、何も考えずに投げているわけではない。この日、荒れ球を立て直すために工夫したことを聞くと、上田は真剣な表情で考え込み、言葉を紡いでくれた。
「カーブを多く投げるようにしました。カーブを投げる時のフォームはいいので、カーブをちゃんと投げられていると、ストレートも自然とよくなっていくんです」
将来、どんな投手になりたいか。最後に上田に尋ねてみた。当然ながら斎藤雅樹の名前は挙がってこず、上田は「プロで活躍できるピッチャーになりたいです」と答えた。参考にしている投手は、とくにいないという。
その後、近江は近畿大会準々決勝で滋賀学園と接戦を演じたものの、1対2で敗れている。ほかの準々決勝の試合内容を考えると、近江が来春の選抜出場校に選ばれる可能性は高そうだ。
心技体で大きなスケールを残す上田健介は、ひと冬越えてどんな姿を見せてくれるのだろうか。「ミスター完投」に近づくのか、それとも新たなアングルを手に入れるのか。無限の可能性を秘めた大器が進化を見せたその時、来年のドラフト戦線はゆっくりと動き始めるはずだ。