まるで、重い鎖でつながれているような野球だった。 この日、横浜打線が放った安打数は10本。四死球10、敵失2と、相手か…
まるで、重い鎖でつながれているような野球だった。
この日、横浜打線が放った安打数は10本。四死球10、敵失2と、相手からもらったチャンスも多かった。それでも、横浜が最終的に奪った得点は2に留まっている。
「勝ちたい」「なんとかしなければ」という思いが強くなればなるほど、専大松戸の1年生左腕・小林冠太の緩いカーブでかわされる。残塁数は15を数えた。2点ビハインドの9回表にも二死満塁のチャンスを迎えたものの、生かせなかった。

関東大会準々決勝で専大松戸に敗れた横浜・織田翔希
photo by Kikuchi Takahiro
【関東大会準々決勝で敗退】
10月20日、山日YBS球場で行なわれた秋季関東大会準々決勝。この試合で勝利すれば関東ベスト4となり、翌春のセンバツ出場はほぼ確実になる。横浜は今春の選抜優勝、今夏の甲子園ベスト8を経験したメンバーが残り、試合を優位に進めるものと思われた。
ところが、試合は専大松戸が4対2で勝利。専大松戸の選手たちは、まるで優勝を決めたかのように喜びを爆発させた。
一方、横浜にとっては、あまりに痛い敗戦になった。
「悔しい思いはあります。エースとして甲子園に連れていくという強い思いを持って戦っていましたが、負けてしまって。自分が取られた1点も大きかったと思います。(甲子園に)連れていけない自分の情けなさを感じて、ホントにダメだな......と思いました」
試合が終わって間もなく、メディア対応スペースに現れた横浜の織田翔希はこのように総括した。大粒の涙を流す主将の小野舜友など、感情をあらわにする選手もいるなかで、織田は淡々と受け答えした。
織田は来秋のドラフト戦線の主役になりうる大器だ。高校入学直後から素材の高さは評価されており、すでに全国区の知名度を獲得している。
織田は球速や調子の良し悪しに関心を示さない。つねづね口にするのは「勝たせる投手になりたい」という言葉。試合後の泰然とした態度に、織田が背負ってきたものの大きさを感じずにはいられなかった。
この日、織田は1対3とビハインドを追う6回裏に2番手投手として投入された。
「チームに勢いを持ってきて、攻撃のリズムにつなげよう」
強い決意を胸にマウンドに立った。この日、織田が球場のスピードガンで計測した最高球速は150キロ。しかし、思いや数字とは裏腹に、織田のストレートは専大松戸の主砲・吉岡伸太朗に完璧にとらえられる。148キロを右中間に運ばれ、いきなりピンチを招く。二死三塁から長谷川大納にスライダーを右前に弾き返され、点差は3に広がった。
たとえ球速は出ていても、本来の織田のボールではない。それは筆者が秋季神奈川大会から取材するなかで感じていたことだった。
【ぶっつけ本番だった関東大会】
専大松戸戦の試合後、「この秋は納得のいくストレートが投げられなかったのではないですか?」と尋ねると、織田は首肯した。
「まったくよくないという言い方は違うかもしれませんが、納得のいく球じゃありませんでした。バッターに弾かれる球が多くて。理想と合っていたところは、ひとつもなかったです」
今夏の甲子園まで、織田はノーワインドアップで始動するフォームを採用していた。ところが、左足をプレートの横側に置く点を審判から指摘され、今秋は常にセットポジションから始動するようになった。織田は「フォームはとくに関係ないです」と語りつつも、こんな思いも明かしている。
「ノーワインドアップにするか、セットにするか、ワインドアップにするか、常に考えていました」
自分のなかでしっくりとくるフォームを探し続けていたことは、確かだった。
本人は弁解がましい発言を一切しなかったが、コンディションも万全にはほど遠かった。村田浩明監督は無念そうな表情で、こんな内幕を明かした。
「県大会では爪が割れていましたし、足を肉離れした影響もありました。関東大会はぶっつけ本番になりましたが、ベストを尽くしてくれたと思います」
チームとしても、今秋までに理想形に仕上げるには酷な状況だった。今春の選抜で優勝して以降、公式戦や招待試合など試合期間が続いた。コンディションが整わない選手は織田だけでなく、満足のいく練習量もこなせなかった。村田監督は噛み締めるように、こう語った。
「原点に帰って、練習がしたいですね。1年間戦い続けて、試合、試合が続いたので。これから本当の練習ができれば......」
【背番号1としての目標】
横浜は関東大会準々決勝で敗退したとはいえ、選抜出場の目が消えたわけではない。関東・東京地区の出場枠は6校。激戦の神奈川大会で優勝し、関東大会でも専大松戸と接戦を演じている。戦いぶりや戦力を考えれば、6校目に滑り込む可能性は十分にある。もし横浜が出場校に選ばれれば、大会の有力な優勝候補になるだろう。
織田にとっても、この冬は自身の命運を左右する時間になる。
織田はこれまで「骨の成長が止まっていない」という理由で、本格的なウエイトトレーニングを積んでこなかった。今後の方針を尋ねると、織田はこう答えた。
「まだ監督さんと話していないので決めてはいないですけど、少しずつ体を強くしていかないといけないと思います。関東大会であらためて、(自分の体が)弱いなと感じています」
裏を返せば、フィジカル的に進化の余地を残しながら、今のパフォーマンスを見せているということなのだ。将来、どれほどの投手に成長するのか、希望はふくらむ。
残り1年の高校生活のなかで、どんな姿を見せていきたいか。最後に聞くと、織田はこう答えた。
「自分がどんな姿を見せるかというよりも、監督さんをもう一度、日本一の男にして、小野を日本一のキャプテンにして、高濱(晴翔)を日本一のマネージャーにして、横浜の選手たちを日本一の選手にする。それが背番号1としての目標です」
勝てる投手になる。これからも、その軸がブレることはない。織田翔希が壁を越えたその先に、今まで見たことのない地平が広がっているはずだ。