怪童の「変化」は、言葉にも表れていた。 今秋の関東大会での試合後、報道陣から「今後も二刀流で上を目指すか?」と問われた…

 怪童の「変化」は、言葉にも表れていた。

 今秋の関東大会での試合後、報道陣から「今後も二刀流で上を目指すか?」と問われた菰田陽生(こもだ・はるき/山梨学院2年)は、こう答えている。

「そこは全然考えていなくて、まずは自分の野球をして、チームに貢献できるようなプレースタイルでいきたいと思います」


関東大会準々決勝の浦和学院戦で特大の本塁打を放った山梨学院・菰田陽生

 photo by Kikuchi Takahiro

【関東大会で打率5割超えの大爆発】

 今までなら、二刀流に関する質問が飛ぶと、「大谷翔平選手(ドジャース)みたいになっていきたい」と、強い二刀流への意志を示してきた。だが、今秋の菰田の発言は、いくつかの解釈を生みそうだ。

 二刀流志向からトーンダウンしたとも取れる。今秋から主将を務めており、自分のことよりチームを最優先に考えているとも取れる。

 いささか気が早いが、2026年のドラフト戦線は今のところ3人の高校生が最前線にいる。織田翔希(横浜2年)、末吉良丞(沖縄尚学2年)、そして菰田である。菰田は身長194センチ、体重100キロと圧巻の巨躯の持ち主で、投打に高い資質を持っている。菰田が二刀流としてプロに進む意思を持ち続けるかは、来季のドラフト戦線を左右するかもしれない。

 とはいえ、今夏の時点では最速152キロを計測する本格派投手としての評価のほうが高かった。打者としては甲子園での4試合で7安打を放ったものの、任された打順は7番。コンタクト能力も高いとはいえず、山梨学院首脳陣からの評価も辛(から)かった。菰田自身も「バッティングはまだまだ全然」と、甲子園の試合後に語っている。

 しかし、今夏の甲子園準決勝(沖縄尚学戦)で右ヒジ痛を発症したことで、風向きが変わった。その後は秋の関東大会までマウンドに上がることなく、野手に専念。菰田は「バッティング中心の練習になって、バッティング練習でもいい形で打てるようになりました」と明かす。

 今秋の関東大会では、投手としては2試合4イニングの登板に留まったのに対し、打者としては3試合で打率.583、1本塁打、7打点と大暴れした。とくに鮮烈な印象を残したのは、10月20日、浦和学院との準々決勝で放った本塁打だった。

【選抜以降に本塁打量産】

 3対2と1点リードして迎えた5回裏。一死走者なしの場面で、菰田は3回目の打席に入った。

 悠然と構える姿が、大物感を増幅させる。スムーズにバットを振り抜くと、打球は無風のセンター上空へと弾け飛び、そのままバックスクリーンに直撃した。菰田がバックスクリーンに放り込んだのは、高校生になって初めてだという。

「夏の甲子園が終わったあと、タイミングの取り方やどのボールを打つべきか指導を受けて、バッティングの状態がよくなってきていました。夏までは、何でも打とうとしすぎていたので」

 この一発で、高校通算本塁打は何本になったのか。囲み取材で問われた菰田は、こう答えている。

「30何本くらいです」

 今春の選抜時点で高校通算6本だったことを考えると、半年あまりで30本近くも増えた計算になる。そして、本数を明確に数えていないところに、菰田が本塁打の数にこだわっていないことがうかがえた。

「本塁打の数は重視していないですか?」と尋ねると、菰田は「そうですね」とうなずいた。

「まずは公式戦で、しっかりと結果を残すことが大事だと考えています」

 菰田は1年前の関東大会でも、中堅方向へ衝撃的な一打を放っている。東海大相模との初戦、途中出場した菰田はドラフト候補だった福田拓翔の快速球をとらえ、センターオーバーの二塁打を放っている。インパクトの瞬間、「ドカン!」と爆発音が響くようなスケール満点の一打だった。

 1年前はフェンスまで届かなかった打球が、今年はバックスクリーンにぶつけるまで伸びている。その点について聞くと、菰田はうれしそうな表情でこう答えた。

「冬に筋トレをやってきた成果が、今のバッティングにつながったと思います」

【部長は"投手・菰田"に期待】

 一方、心配された右ヒジの状態は、石橋を叩いて渡るように調整してきたこともあり、良好のようだ。菰田は投手としての状態を「徐々に上がってきています」と語る。

 今の菰田の状況を見ていると、13年前の大谷翔平のケースが思い出される。大谷は花巻東に在学した高校時代、股関節を痛めたこともあり、満足に投球できない時期があった。投手としての練習ができないため、代わりに打撃練習に注力したところ、打撃が開眼。ドラフト会議前には「大谷は投手か、打者か」という論争が沸き起こるほどの存在になった。

 菰田も同じような道を歩むのだろうか。だが、菰田の身近には、熱烈な「投手派」が存在する。山梨学院でおもに技術指導を担当する吉田健人部長だ。

 吉田部長は「私はピッチャーだと思っています」と一貫して言い続けてきた。関東大会の試合後も、吉田部長はこんな思いを語っている。

「もちろん、バッターとしてプロに行けるだけの素質はあるんですけど、ピッチャーとして大きく育ってほしいなと。もちろん、ピッチャーとしてもまだまだなんですが」

 菰田は長身ではあるものの、角度を生かして投げ下ろすタイプの投手ではない。吉田部長はダルビッシュ有(パドレス)のように並進運動を長く取れる、球持ちのいい投手に進化する成功イメージを抱いている。

 今後、菰田が二刀流を継続するにしても、投手一本に絞るにしても、底知れない可能性を秘めていることは確かだ。

 そして、もうひとつ。菰田の陰に隠れた、功労者の存在を忘れてはいけない。山梨学院の背番号1を背負う檜垣瑠輝斗(ひがき・るきと/2年)だ。今夏の甲子園でも好投した左腕は、今秋の関東大会では武器のカットボールを駆使してチーム最多の16回2/3を投げている。吉田部長は「檜垣の存在があってこそ」と高く評価する。

「檜垣がいるから、菰田を無理させずに使うことができる。頼れるピッチャーが菰田ひとりだったら、こんな起用はできません。どうしても菰田ばかりが注目されますけど、このチームにとって檜垣の存在はものすごく大きいですし、ありがたいと感じています」

 秋季関東大会を制した山梨学院は、11月14日に開幕する明治神宮大会へと駒を進めた。秋空の神宮球場で、菰田陽生はどんなパフォーマンスを見せてくれるのか。

 怪童の進化を堪能できる時間は、たっぷりと残されている。