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11月9日の日曜日、千葉ジェッツは前日に続き島根スサノオマジック相手に勝利。通算成績14勝1敗とし、変わらずリーグトップ勝率を維持して『りそなグループ B.LEAGUE 2025-26 SEASON』B1リーグ戦第9節を終えた。
その日の22時ごろ、LaLa arena TOKYO-BAYの記者会見室――。
この試合、11得点で勝利に貢献した金近廉の記者会見が終了。退席しようとしていた金近は突如、「すいませんっ!」と、頭を下げた。その先にいたのはしかめ顔!?で待機していた田代直希だった。21時30分ごろから会見に行く準備をしていたのに声がかからず、どうやら金近に先を越されてしまい、痺れを切らして会見場に来ていたらしい。
田代は部屋の後方から登壇席へ歩みを進めながら、「『先輩、どうぞ!』って、言われると思ってたんだけどなぁ。ほんと、すぐ(会見に)行ったもんね」と金近に抑揚をつけて叫ぶと、会見室に笑いが広がった。
皮肉混じりの表現にも嫌味を感じさせないのが「田代節」の真骨頂でありにじみ出るキャラクターか。その切れ味はいつも温かみを伴ったもので、チームメートやブースターにも定着しつつある。絶好調のチームの一員になれている充実感からか、この日はいつも以上に冴えているように感じられた。
田代は島根との2連戦、持ち味であるディフェンスでリーグ屈指の日本人スコアラーである岡田侑大を主にマッチアップ。この日はチームとして38−43とビハインドで前半を折り返したものの、岡田を前半3得点、試合を通しても14得点に抑えることに成功した。チームは後半、オフェンスでも盛り返し、最終的には96−82。80失点以上は今シーズン初だったが、地力の差を見せての勝利となった。
「島根には強烈な岡田選手がいるので、どう守るか。そこが昨日から課題として残っていたのですが(初戦は78−64。岡田19得点)、前半はうまく守れたと思います。ただ、チームのオフェンスがうまくいかなかった。一方で後半はオフェンスがよくなったことで、ディフェンスもうまく回るようになった感じでした。僕らにとっては連日オフェンスがうまくいかないときに、チームとしてどう過ごすかを学べたことでレベルアップした試合になったと思います」
田代はディフェンスに加えて攻守のリバウンドやルーズボールに絡む泥臭いプレーが代名詞だが、この日は前日に負傷した同じ船橋出身の盟友・原修太に代わって今季初めて先発を任された。そのため、平均プレー時間の2倍近い26分05秒が与えられた。その影響はオフェンス面でよりプラスに働き、3ポイント1本を含む計9得点をマーク。もともと専修大学時代や琉球ゴールデンキングスでのプロ初期はオフェンス型の選手だったように、潜在的な得点力も垣間見せた。
「普段は短いプレー時間の中で、激しくディフェンスをやって、オフェンスは味方を生かすことを意識してプレーしています。ただ、プレータイムが長くなれば、自分にボールが回ってくる機会が増え、オフェンスがやりやすくなります。今日は長くなることがわかっていたので、その(気持ちの)準備はできていました。
うちのラインナップを見れば、相手は自分を絶対に捨ててくる、相手のマークが手薄になるので、そこで自分がアタックしたら嫌だろうなという気持ちで考えています」
千葉ジェッツ1年目の昨シーズンは、渡邊雄太ら先発フロントライン3人をはじめケガ人が相次ぐなか、田代はレギュラーシーズン18試合、CSでも全5試合に先発するなど、当初の想定以上の役割をこなすことを余儀なくされた。ディフェンスや泥臭いプレーで貢献するスタイルに変わりはないものの、主力メンバーが欠けた状況で果たす役割と、主力メンバーが健康な状態で果たす役割は、精神面で変わってくる。
「それは全然違いますね。気楽、とまでは言わないですけど、今のほうがやりやすい。自分がやるべきことがはっきりしていますし、ある程度プレー時間も計算ができているからです。もちろん今日みたいに原ちゃんがケガで、その代わりを務めることもあるでしょうが、昨シーズンみたいに、どうしなければいけないのか、みたいな状況が続いている感じではないので」
田代の評価はスタッツでは表れにくい部分が多いが、この試合では「貢献度(出場時間におけるチームの得失点差)」において、実に+29をマーク。ヘッドコーチやGMが特にロールプレーヤーを評価するうえで重視する項目において、突出した数字を残した。
「14勝1敗ですけど、結構接戦が多いので、苦しみながら戦っているという印象です。今日も苦しいバスケットでしたが、ただ、粘り強くできているのが結果につながってきたのかなと思います」
プロ10年目。32歳の田代はコート上でも、会見場でも、これからますます「冴え」てきそうだ。
文=牧野豊
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