「Stable」 サントリーサンバーズ大阪のオリビエ・キャットHC(ヘッドコーチ)は、今シーズンから新たに加わったセッタ…

「Stable」

 サントリーサンバーズ大阪のオリビエ・キャットHC(ヘッドコーチ)は、今シーズンから新たに加わったセッター、関田誠大について「落ち着いた、動じない」と英語で称賛していた。

「毎日の練習を常に一定のムードで過ごしている選手です。ふだんからプレーヤーとコネクションを作ろうと、みんなに自信を与えてくれる。チームのなかのコミュニケーションは不可欠ですが、"この選手には何が大事か""何を求めているのか"をすごくよく理解できている。誰かに不満を言うこともありません。すばらしい選手で、私も信頼を置いています。オフェンスのシステムについてもリマインド程度のアドバイスで、すぐ理解できるので」

 セッターはチームを回す立場だけに戦略的視点が求められるが、そもそも性格的資質として冷徹で揺るぎない洞察力と決断力が欠かせない。そのパーソナリティそのもので攻守を構築する。コートに独自の世界を作り出すのだ。

 関田は技術的に世界有数のセッターだが、その天性からして他の追随を許さない――。



新加入のサントリーサンバーズ大阪で名司令塔ぶりを発揮している関田誠大 photo by スポーツ報知/アフロ

 11月9日、名古屋。SVリーグ、サントリーは昨シーズンのチャンピオンシップでも激闘を演じたウルフドッグス名古屋の本拠地に乗り込んでいた。宮浦健人、水町泰杜という大砲を擁する強敵だったが、結果から言えば、前日のセットカウント3-1の勝利と同じスコアで連勝を飾っている。

「ずっと集中力を保てる」

 ウルフドッグス陣営が、王者サントリーの1試合を通したしぶとさを称賛したが、それが拮抗した試合展開でも最後の差につながったか。

 特にセット終盤にかけて、サントリーの勝負強さは圧巻だった。1、2セット目を連取したが(25-22、25-19)、折り返しまではウルフドッグスにリードされていた。それが、そこから怒濤の如くたたみかけ、一気に逆転した。4セット目も同じで、17-17の同点から突き放して25-20で奪い取った。昨シーズン以上の破壊力だ。

 荒ぶるスパイカーたちを自在に操ったのが、チームの新たなセッターとなった関田だった。

【たった数試合で"世界"を構築】

 今シーズン開幕カードの大阪ブルテオン戦。2試合目で勝利を飾ってPOM(ゲームMVP)に輝いた関田はこの時、淡々と手応えを語っていた。

「(髙橋藍とのコンビは日本代表と)同じです。全然、練習しなくてもいけると思います。小野寺(太志)選手もそうだし、代表でやっている選手が多いんで、そこは慣れているし、"こんな感じだろ"って。これからレベルアップしていければな、と思います」

 彼には描いている"世界"があって、飄々としていた。そのなかで唯一、わずかに感情が揺れた質問があった。

――いろいろな選手を使うなかでも、今日は"最後は(ドミトリー・)ムセルスキー"というところもあったように見えましたが?

「いや、そうっすね。勝ちにいったのはあるんですけど......自分のなかでいろいろなバレーができれば、と思っているので、そこは今後の課題になると思います」

"世界"の中心で全員を動かすようなトス回しが関田の真骨頂で、ひとりに頼るスタイルではない。たとえSVリーグ屈指のスパイカーであるムセルスキーという武器があっても、だ。その点、理想とするコンビには少し時間がかかると思われていたのだが、たった数試合で"世界"を構築していた。

「(関田と組むと)毎回、自分も調子を上げていきやすいし、それは全選手が感じているはずで、本当にうまいな、と思います」

 そう語ったのは、昨シーズンのチャンピオンシップMVPに輝いた髙橋で、2セット、4セット目の終盤は無双だった。さすが"勝負の天才"という火のつき方を見せ、関田とのコンビも溶けるように合っていた。

「(自在にスパイカーを操れるのが)関田選手の特徴と思っているんですが、相手ブロッカーも絞りきれない。データ的にも(トスの)偏りがないので。一緒にプレーしていて、ほしいなと思うタイミングでトスが上がってきますね」

 一方、関田は簡潔に振り返っていた。

「(髙橋を波に)乗せていきたいなって思っていました」

 まさに、そのとおりの演出になったということか。

 関田はひとりひとりの特徴を、相手に応じて生かしている。四方に向け、タイミングや高さを調整したトスを上げる。ほとんど同じ姿勢で、ポーカーフェイスでやってのけるから、敵には読めない。味方にだけわかる"周波数"だ。

「今日は(小野寺)太志選手をより使っていたので、面白い試合になりました」

 オリビエHCがそう振り返ったように、サイドだけでなく、ミドルのクイックからバックアタックまで、そのトスの多様さが攻撃の厚みにつながっていた。

「関田選手は世界最高のセッターのひとりです。(昨シーズン終了後の)手術後の症状もあったので、チーム全体でのコネクションを作るのが遅れました。しかし、彼はチームを回すことができる。これからどんどん、来週、来月とよくなるでしょう」

 オリビエHCはそう断言した。瞠目すべきは、関田が昨シーズン終了後に手術し、新チームに加わってまだわずか数試合という点だろう。

「今日は競った場面もあったんですけど、それぞれがサーブでしっかりブレイクを取れてよかったです。自分はふだんと同じく、やれることをやるだけ。相手によって、トス回しは変えながら」

 関田はこともなげに言う。フラットな性格だからこそ、敵味方に適応し、最適解を弾き出せる。そんな境地に入ったセッターはほとんどいない。

 関田という新たな司令塔を軸に、これで5連勝のサントリーは完全無欠の王者に化けるか。