11月21日からフィリピンで開催された女子フットサルのワールドカップは、今回が初開催となる記念すべき大会である。 今…
11月21日からフィリピンで開催された女子フットサルのワールドカップは、今回が初開催となる記念すべき大会である。
今回のW杯に出場する日本代表のゴールキーパーの一人である須藤優理亜選手は、スペイン・ガリシア地方にある、マリン・フットサルというチームでプレーしている選手である。
スペイン・ガリシア地方からW杯に挑む須藤選手に、今回のW杯への思いや将来フットサルをしたい子供たちへのメッセージなどを聞くことができた。
ガリシアの港町・マリン
須藤選手が所属するマリン・フットサルの本拠地は、スペインのガリシア地方。スペインの北西部に位置し、大西洋に面する地域で、南にはポルトガルと国境を接している。スペインの中でも雨が多く、緑も多い地域である。ちなみに「リアス式海岸」という用語の元となったのは、この地域の海岸線である。
そんなガリシア地方にあるマリンは、人口約24000人の港町である。港にはスペインの海軍学校があり、その隣には船を修理するためのドックや、大きなコンテナが積み重ねられられた風景が広がる。町の中で海軍の制服を着た学生たちが歩く姿を目にすることも珍しくはない。
なお、ガリシア地方にはガリシア語というこの地方独自の言語があり、町を歩いていると、ガリシア語を頻繁に目にしたり耳にすることになる。
11月中旬、このマリンで開催されたリーグ戦でのゲームが終わった後、須藤選手にインタビューすることができた。
W杯出場と女子フットサルが抱える現実について
今日の試合では、ゲーム開始直後から後半5分まで、ずっとプレーされていました。どのようなゲームでしたか。
須藤優理亜選手(以下、敬称略)「今日の相手(グラン・カナリア・FSF・テレデポルティーボ)は、昨年まで1部リーグにいたので、強いチームであることは前もってわかっていました。マリンの選手の動きが前半はちょっと堅いようにも見えましたが、点もよい感じで入っていましたから、試合としてはよかったと思います。
実は今日の試合は、今年のリーグで初めて相手チームを0点に抑えた試合だったんです。私たちのホームの試合でしたし、キーパーも全員よい仕事をしていたので、勝ててよかったです。」
W杯に向けて、すでに緊張されていますか。
須藤「目の前の試合もあるので、さすがに今から緊張することはないですね。ただ、毎日W杯のことを意識して、食事をとったり、ジムのトレーニングしたり、ケガをしないようにということは考えています。でも、W杯だから特別なことをするということはないですし、1日1日を落ち着いて過ごしていますね。」
須藤選手は以前11人制のサッカーとフットサルの両方をされていたと伺いました。フットサルを選んだ理由とは、どのようなものだったのでしょうか。
須藤「私は富山県の出身なのですが、冬になると富山では外でサッカーができなくなってしまうんです。そのため、冬は主にフットサルをプレーしていました。
2018年にユースオリンピックというU-18の選手のための大会があり、そのフットサルの日本代表に自分が選ばれたときに、『フットサルなら、シニアでも自分は日本代表になれるかもしれないな』と考えました。その結果、その後はフットサル1本に集中して今に至るという感じです。」
フットサルを始めたころには、自分がW杯に出るような選手になれると、想像していましたか。
須藤「いいえ、全く考えていませんでした。でも、前述のユースオリンピックでフットサルをプレーする自分と同い年くらいの選手をたくさん見ることができましたし、その時の日本代表自体も良い結果(銀メダル)で終わることができたんです。そうしたことを通して、自分がフットサルの日本代表になれる可能性が高いこと、そして様々な国際大会に日本代表としてプレーでし、結果を残すことができるようになるかもしれないな、とは思いました。
ただ、私がフットサルをプレーするようになったころなんて、女子のフットサルのW杯が開催されるようになるなんて、想像もしていませんでした。
私はこの5年間ほど日本代表としてプレーする機会がありましたが、今回が初開催のW杯を日本代表としてプレーすることができたのは本当にうれしいです。」
W杯の予選リーグの相手国は、ポルトガル・タンザニア・ニュージーランド の3か国です。各相手国について、どんな印象がありますか。
須藤「ポルトガルに関しては、過去に親善試合でも対戦してますし、2018年のユースオリンピックでも決勝で対戦した相手国です。また、このマリンの街からポルトガルまで本当に近いので、いろいろな情報を目にする機会も多いです。そのため、ある程度チームの特徴とかポテンシャルなどは日本代表チームとしても把握できていると思います。
3年前くらいにポルトガル代表の試合があったときには、日本代表は5-0で負けています。また、2018年のユースオリンピックでは、予選ラウンドと決勝戦の2回ポルトガルと対戦して、2回とも日本代表が負けています。直近の試合で日本がポルトガルに勝ったイメージがないので、どうやってポルトガルに勝つのかが、予選リーグでの最大の課題となるでしょうね。
一方、タンザニアとニュージーランドについてはほとんど情報がないので、どんなチームなのかよくわかっていない、というのが現状です。とはいえ、両国ともフットボールのスキルの高い国ではあるので、どういうことを本番の試合でやってくるかわからないという怖さがあり、油断はできません。
今回は女子のフットサルW杯として初めての開催ですので、何が起こっても不思議はないと思います。日本チームがポルトガルのような強豪国に勝つ可能性もありますが、日本がタンザニア・ニュージーランドに負ける可能性もそれと同じくらいあります。どんな試合も気を抜くことができないという意味で、緊張感はありますね。」
今回のW杯出場を受けて、これからフットサルをしたいという子供たち、特に女の子が増える可能性があります。そんな子供たちにメッセージを頂けますか。
須藤「今回のW杯出場で多くの人が女子のフットサルに注目してくださると思います。でも、フットサル選手になりたいと思う女の子には、フットサル選手の現実というものを伝えなくてはならないだろうと思います。
日本代表のほとんどの選手が仕事をしながらプレーしています。だから毎日仕事をした後にフットサルの練習をして、家には遅い時間に帰ることになりますし、翌日は疲れた体をなんとか動かしながら仕事に行っていることも多いです。土日はフットサルの試合があるので、休むこともできません。
今回のW杯出場で日本代表のキラキラした部分が注目されることも多いですが、きちんと現実が伝えられないと選手自身はもちろん、選手を支えるご家族も困ることになるでしょう。
このように厳しい現状が多くみられる日本のフットサルですが、それでもこの競技はとても楽しい競技だと私は思います。動きがスピーディで戦術が沢山あるので、プレーしていても退屈することがありません。スポーツの一つとして、フットサルがもっと一般的なものになったらよいですね。」
マリン・フットサルが、スペインでプレーする2つ目のチームとなる須藤選手だが、チームメイトとのコミュニケーションもポルトガル語やスペイン語を介してスムーズに行われ、試合中には観客から名前を呼んで応援されるなど、チームにしっかり溶け込んでいる様子がうかがえた。
W杯初戦となるニュージーランドとの試合は11月23日。スペインで経験を重ねた須藤選手が日本代表のゴールを守り、日本のフットサルのレベルの高さを世界に示すのは、もうすぐである。
(写真・インタビュー・文 對馬由佳理)




