◇日米女子ツアー◇TOTOジャパンクラシック 最終日(9日)◇瀬田GC 北コース (滋賀)◇6616yd(パー72)◇…

3000万円かけてトラックを導入。軟鉄鍛造アイアンを全国にPRする

◇日米女子ツアー◇TOTOジャパンクラシック 最終日(9日)◇瀬田GC 北コース (滋賀)◇6616yd(パー72)◇雨(観衆2696人)

クラブハウスとドライビングレンジの間に見慣れぬ8トントラックが駐車されていた。改造された荷台部分には地クラブのアイアンがズラリと並べられ、熱心なアマチュアゴルファーが手に取って品定めや試打を行っていた。

この車両は、軟鉄鍛造アイアンの生産が盛んな兵庫県市川町が2023年に導入したもの。試打スペースやデジタルサイネージも併設し、費用は3000万円かかったという。これまでも男子ツアー会場では実績あったが、女子ツアーでは今回が初めての展示となった。

地域振興課、主査の中塚崇仁さん(左)と課長の近藤準人さん

コンセプトは“動く小さな市川町”。地域振興課の中塚崇仁さんは「当時はゴルフ記念館みたいな箱物(建物)を作ろうという話がありましたが、今の時代に箱物を作ってもしょうがない。でもトラックなら全国を回れる」と経緯を説明した。「市川町の軟鉄鍛造アイアンヘッドは世界に誇れるもの。一点突破じゃないが、それを中心に紹介しています。コンサルタントを使わずにアイデアを持ち寄って作りました」とゴルフクラブを通じて町おこしを行っている。

打感が良いとゴルファーにも好評だ

市川町とゴルフのつながりは1928年頃までさかのぼる。兵庫県三木市の試験場にアイアンヘッドが研究材料として持ち込まれたのがきっかけだった。担当研究員の一人が市川町の鍛冶工に制作を依頼し、3年の試行錯誤を経て国産初のアイアンヘッドが完成。第2次大戦中はゴルフ用品の製造も禁止されていたが、50年頃に再開し、65年には地場産業として定着した。

市川町の人口はわずか1万人だが、ゴルフ関連企業は約20社ある。大手メーカーのOEMとして三浦技研が作ったクラブを海外メジャー15勝のタイガー・ウッズも使用していた。また、国内ツアー2勝の生源寺龍憲は藤本技工のアイアン、ウェッジを愛用する。

市川町出身でプロを目指す16歳の木村斗茉(とうま)くんも試打

刀鍛冶の技術を応用して作られる鍛造製法だが、軟鉄を金型に入れて高圧でプレスすることにより、組織が緊密になり、柔軟なしなりが生まれるという。「鉄が均一になって打感が良いと言われている。調整の自由度も高いし、それぞれのクラブに物語がある」。キャリア70年を超える職人や親子3代で製造にあたる事業所もある。

「これまでは受託製造が中心でしたが、自社ブランドを展開する事業所も増えてきたことによってPRもしやすくやった。基本的に職人堅気の人が多くて発信力は乏しかった」と地域振興課がまとめてPR活動を行っている。

だからゴルフで勝負する

「観光的には何もない…って言うと怒られるんですが、市川町は“ブービーの町”と言われている。県で2番目に人口が少なくて、2番目に観光客が少ない」。2005年の平成大合併時には住民投票で他自治体との合併を目指したが断られた経験もある。それだけに町を支えるゴルフ事業への熱は並々ならぬものがある。

市川町のふるさと納税3億5000万円のうち、ゴルフ関連が1億円弱を占める。「市川町唯一の誇れるところで、ゴルフを抜いたらもうダメです。だからゴルフで勝負している。これをきっかけにいろんな広がりをみせることができれば良い」。歴史と伝統を受け継いだ職人たちが一本3万円前後からオーダーを聞いてくれる。あなたのお気に入りクラブが見つかるかもしれない。(編集部・玉木充)