エディージャパンはアイルランドに力の差を見せつけられた(C)Getty Images ラグビー日本代表(世界ランキング1…

エディージャパンはアイルランドに力の差を見せつけられた(C)Getty Images
ラグビー日本代表(世界ランキング13位、以下ジャパン)のオータムテストマッチシリーズ3戦目は、アイルランドの首都ダブリンにあるアヴィヴァ・スタジアムで現地時間の11月8日夕刻に、アイルランド代表(世界ランキング3位)との間で行われ、ジャパンは10-41の大差で敗れた。両国代表の対戦成績は通算で、ジャパンの1勝12敗となった。
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前週の南アフリカ代表スプリングボクス戦で完膚なきまでに叩き潰されたジャパンが心身両面でどこまで回復し、戦う集団としての矜持を取り戻しているのかが第一の興味だったが、その心配は杞憂だったようだ。観客の9割はアイルランド人という完全アウエーの環境下にあって、ジャパンの選手たちは雰囲気に飲まれることなく堂々と試合に臨んだ。
現在はランキング3位だが、長らく南半球の強豪たちを抑えてランキング1位を張り続けたアイルランドは、プレーのあらゆる局面で強いプレッシャーをかけてきたものの、オーストラリア代表と互角に渡り合ったことが自信になったのだろうか、ジャパンは序盤はフィジカルバトルに一歩も引けをとっていなかった。
しかしそこは試合巧者のアイルランド。前半6分にPGのチャンスを得て確実に3点を先制すると、ジャパンのCTBチャーリー・ローレンスが危険なタックルでシンビンを宣告された直後の前半20分には、お家芸とも言えるFW、BK一体となって、随所にデコイランやエキストラマンを絡める細かいパス回しで、ジャパンの防御網に穴を開け、SOジャック・クロウリーがトライを奪う。
最初のチャンスでいきなりアイルランドが「決めムーブ」を発動させたということは、アイルランドがジャパンのディフェンスを警戒し、実際に手を焼いていたことの証左であり、ジャパンの進歩をうかがわせるものだったろう。しかし、2本目に奪われたトライはいただけなかった。アイルランドはパス回しの最中、うまくパスが繋がらずボールが転々としたのだが、付近にいた選手はノック・フォワードと判断したのかボールにも、ボールを拾い上げたFLニック・ティモニーにも積極的にチャージしに行かなかった。結局このボールはノックフォワードでなく、ティモニーにトライを奪われてしまった。レフェリーが笛を吹くまではインプレーという基本中の基本が守れなかったが故の失点。ムダ以外の何者でもなかった。
それでもまだジャパンは折れなかった。前半37分には敵陣深くのラインアウトから強固なモールを築き、最後はBKの選手もモールに参加する必殺技でトライを取り返し、追撃の狼煙を挙げた。そのまま前半終了まで上潮ムードは持続し、ロスタイムにPGを決めて10-17とじわり点差をつめた。
しかもこの際、アイルランドはWTBジェイコブ、ストックデイルのタックルが石田吉平の顔面に入ったと判定されて、10分間のシンビンを宣告された。ジャパンは後半の入り10分間を数的優位を保ったまま迎えられる。アイルランドはラインアウトが絶不調で6本のマイボールのうち3本を失っていた。ディフェンスラインも整い切っていない印象がある。2019年W杯予選プールの「静岡の歓喜」の際も、前半終えた時点で9-12のビハインドを背負っていた。こんな「有利」な条件が揃い、いやが上にも後半戦への期待は高まっていた。
しかし、後半、アイルランドは見事に修正してきた。ラインアウトはしっかりとマイボールを確保した上、ジャパンのボールを1本綺麗にスチールさえして見せた。ジャパンの弱点であるハイボールも、絶妙な位置に蹴り込んで多くの場合マイボールとして確保していた。前半からジャパンをうわまっていたスクラムでもプレッシャーをかけ続け、ターンオーバーこそなかったものの、ジャパンFW陣のスタミナをじわじわと奪っていった。ジャパンが組織だったBK攻撃を仕掛けられていなかったこともあるが、懐深いディフェンスで有効なゲインをさせた場面は少なく、トライラインがいつまで経っても近づいてこなかった。
一方で自分たちの攻撃のチャンスは確実にモノにして点差を広げていった。後半最後の二つのトライは、捨て身になったジャパンが仕掛けてきた無理な攻撃を受け止め、接点で切り返して奪ったもの。まさしく「いつか観た光景」を見せつけられたままノーサイド。後半のジャパンは無得点に抑え込まれた一方でアイルランドは4トライを奪い、最終スコアは10-41。前半戦の健闘は光るものの、まだまだ実力には開きがあることを見せつけられる結果となった。
2027年のW杯で世界4強入りを目指すことを目標としているジャパンとしては、もう少し爪痕を残しておきたかった試合だったが、世界ランキング1ケタ台の国々との差をあと2年でどれだけ埋められるのか。まずは目の前のウエールズ戦、ジョージア戦で結果を残し、希望を感じさせる空気感を醸成した上で、さらなる精進を重ねていただきたい。
[文:江良与一]
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