DeNAのリーグ奪還のラストピースとして活躍が期待されたバウアー。なぜ彼は“結果”を出せずにもがいたのか(C)萩原孝弘自…

DeNAのリーグ奪還のラストピースとして活躍が期待されたバウアー。なぜ彼は“結果”を出せずにもがいたのか(C)萩原孝弘

自信に満ち溢れていた助っ人が直面した笑えない現実

 サイ・ヤング賞受賞投手の看板を引っ提げ、2023年に来日したトレバー・バウアー。中4日がベターなサイクルと言い切り、気迫を全面に押し出したピッチングスタイルでNPBを席巻。昨季に日本一を果たし、今年はリーグ優勝以外に目標がなかったDeNAにとって、超大物右腕との再契約は悲願を成就させる最大のピースだった。

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「沢村賞が獲れなかったら、それは悲しいことだ」

 今年1月に2年ぶりとなるDeNA復帰を果たしたバウアーは、自信に満ち溢れていた。しかし、結果は4勝10敗と散々。2年前の10勝4敗と真逆の数字となってしまったことは、笑えない現実となってしまった。

 リーグ優勝の使者となるはずが一転、V逸の元凶になった。シーズン当初は一昨年のように打ち込まれても淡々としていたバウアーだったが、中盤以降は明らかなイラつきを露呈。そうした振る舞いに比例するように、ピッチングの内容も落ちていったことは紛れもない事実だった。

 帰国前は「数字の深い部分を見ていくと、そこまでパフォーマンスが悪かったわけではなかった。(アンドレ)ジャクソンや(アンソニー)ケイと比べても、ものすごく違う数字とは思えない」と、打たれた試合で繰り返した「ピッチングは悪くなかった。運が悪かった」とのコメントと同様のテイストだった。

 結果が出なかったのは“運”のせいだけだったのか。シーズン中、小杉陽太ピッチングコーチは「運の範疇は超えている」と真っ向否定していた。投球のロケーション、球数制限の無さを問題点として挙げる中で一番の要因としたのは、「フォーシームです」と断言。「いまの状態なら投げないほうがいい」とまで言い切り、酷評していた。

 8月23日にはファーム落ちも経験したバウアー。その調整を見守っていた入来祐作二軍投手コーチも「今年は以前ほどストレートの力がなくなっていましたね」と小杉コーチと同じ見立てを口にする。

 やはり速球の質を説いた入来コーチは、「平均で言うと1キロから2キロ遅くなっているんです。パフォーマンスも全盛期よりも落ちていますし、たった1、2キロの話でこんなにも結果が変わっちゃうんだということなんですよ」と吐露。もう少しコミュニケーションを取れればと自戒も込めながら振り返った。

「実際に自分が今までこうやってバッターを抑えてきたことが通用しなくなって、その対策がうまく出来ませんでした。彼のやっていたバッターの反応を見ながらの投球のところを僕ももう少ししっかり話ができたら良かったですけど、僕らのパズルと彼のパズルがちょっと違うんですよね。違うことはいいとして、我々はバッターをこういう感じで見ているんだよ、野球をこういう見方をしているんだよという部分を話す機会をもっと作れればよかったんですけどね……」

日本通運との試合で打ち込まれ、マウンド上で不満げな表情を見せたバウアー(C)産経新聞社

「野球を続けるかもわからない」と口にした“投げるサイエンティスト”

 その背景にはバウアーの「精神状態」も絡む。入来コーチは「そういったメンタルではなかったと思います。なんか全てが上手く行かないというような感じで塞ぎ込んでいたような部分もありましたからね。その辺ももどかしかったです」と踏み込みづらい状況でもあったと回想する。

 当の本人も「こんなにも難しいシーズンは、自分のキャリアの中でもなかった。メンタルに関しても、もっとうまく扱えていたのかもと思うこともあります」と告白したように、精神にも不調をきたしていた。それゆえに、改善点を探ることすらも難しい作業だったと想像できる。

 ピッチャーの生命線でもあるフォーシーム。入来コーチは「これに関しては(山﨑)康晃もしかりなんですよ」と近年苦しんでいる元守護神との姿を重ね、「やっぱり日本のプロ野球のピッチャーの全体的な平均球速も上がっているんです」と、直近2年間で打者も速いストレートに慣れてきているポイントを挙げる。

「細かいところはいろいろできても、基本的なスタイルは変えられないじゃないですか。でもそのスタイルでは抑えられないので、バッターのレベルが上がってきている中で、何かを付け加えるのかどうするのか。結局バウアーはその着地点が見つからなかったですね」

 暗いトンネルから抜け出す答えは、最後まで導き出せずに終わった。ポストシーズンに向けた社会人野球の強豪・日本通運との練習試合でも打ち込まれ、2025年に96番を見るのは奇しくもラストとなった。

 もっとも、シーズン当初に中4日という短い間隔での登板で「彼は我々に貢献してくれた部分はありました」と明かす入来コーチ。本人の望んだペースでのマウンドが他の投手の負担軽減に繋がるケースもあったが、「ピッチングコーチとしては、あれはあれで逆に苦しかったんですよ」と素直な心境を漏らす。

「正直なところ、なかなか難しかったです。他のピッチャーとの兼ね合いもありますから。もう少し上手く他のピッチャーを回せていけたのではないかとか、リリーフのところでも上手く出来たのではないかとか、いろんなことが考えられるのでね」

 バウアーの求めるローテーションは、あくまで勝利が担保された中で成立する。ただ結果が出なかったことで、他のピッチャーに負担を強いるだけのものになってしまった。

 いずれにしても2025年シーズンにふたたびDeNAの一員となったMLB通算83勝をマークした超大物右腕が、2年前とは違った姿になっていたのは間違いない。「野球を続けるかもわからない」と口にした“投げるサイエンティスト”は、この先に何を見据えているだろうか。

[取材・文/萩原孝弘]

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