サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニ…
サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回のテーマは、地下鉄の駅とサッカーの深~い関係について。
■ルヴァンカップ決勝で「国立競技場駅」へ
11月1日のJリーグYBCルヴァンカップの決勝戦の取材で、久しぶりに地下鉄大江戸線の「国立競技場駅」を利用した。
私の自宅は渋谷と横浜を結ぶ東急東横線の沿線で、国立競技場での取材のときには、かつては渋谷からJR山手線を使って代々木で中央線に乗り換え、「千駄ケ谷駅」を利用していた。10年ほど前に東横線が東京メトロの副都心線と連絡運転をするようになってからは、乗り換えなしで行ける「北参道駅」を利用するようになった。しかしこの日は、午前中の用事の関係で、「国立競技場駅」からスタジアム外周を半周して報道受け付けに向かったのである(個人的な詳細ばかりで申し訳ない)。
「フ~ム…」。地下深くから何度も折り返すエスカレータを昇り切って地上に出たところが競技場の北側、「千駄ケ谷門」の近くである。地上の光のなかで改めて駅名の不思議さに気がついた。スタジアム名が鉄道の駅名になっているのは、そう多くはないのではないか…。埼玉スタジアムの最寄り駅は「浦和美園」だし、日産スタジアムは「新横浜」である。
ちょっと待てよ、国立競技場は「命名権」契約がまとまり、来年には「MUFGスタジアム」になると報道されていた。すると駅名も「MUFGスタジアム」になるのだろうか。あるいは「MUFG国立競技場」だろうか。この駅には「東京体育館前」という「副名」もあったはずだが、もし東京体育館にも命名権がついたら…。
■スタジアム名がついた「日本の駅」
それはともかく、スタジアム南側の報道受け付けまで歩きながら思いついたのが、東京メトロの「後楽園駅」と、阪神電気鉄道の「甲子園駅」である。どちらも野球場の名称がそのまま駅名になったはずだ。
「甲子園駅」は、阪神電鉄が建設した甲子園球場開業とともに1924年にオープンした。球場のある西宮市には、北から阪急線、JR線、そして阪神線が並行して走っている。JRには「甲子園口駅」があるが、ここから歩くと優に30分はかかる。阪神の「甲子園駅」からは歩いて数分、まさに「球場前駅」なのである、
東京の「後楽園駅」は、1954年に開業した東京メトロ(当時は営団地下鉄)丸ノ内線のひと駅として開業。「後楽園スタヂアム」は1937年に建設され、戦後には巨人軍のホームスタジアムとして大変な人気になっていた。後楽園競輪場も1949年に誕生して人を集めていたが、駅名はやはり野球場からとったと考えるのが妥当だろう。1988年、東京ドームの完成で後楽園スタヂアムも競輪場も壊され、今ここにある「後楽園」名のスポーツ施設は後楽園ホールだけだが…。
■海外の「スタジアム名」を冠した駅名
海外にも、スタジアムの名を冠した駅名はある。
ソウルの「ワールドカップ競技場駅」は、地下鉄6号線にある。改札口を出て左に向かうと、古代ローマの劇場のような巨大な半円形の階段があり、エスカレータを昇ると目の前に2002年ワールドカップ開幕戦と準決勝(韓国×ドイツ)を開催した巨大スタジアムがそびえている。試合のない日にも乗降客が多いのは、スタジアム内につくられたショッピングモールとシネコンがお目当てだ。
ブラジルのリオデジャネイロといえば、1950年ワールドカップの「優勝決定戦」で20数万人をのみ込んだという伝説があるマラカナン・スタジアムだ。現在の最寄り駅はメトロの「マラカナン駅」で、2階建ての駅舎を出て陸橋にかかると、マラカナンの壮大な全容を見ることができる。
スペイン・マドリードのメトロ「サンチャゴ・ベルナベウ駅」は、もちろん、レアル・マドリード所有のホームスタジアムの最寄り駅。かつては国鉄のチャマルティン駅から30分ほど歩いたものだったが、今では多くのファンがチャマルティン駅から3駅のメトロを利用している。この駅は、1982年、スペイン・ワールドカップの直前に開業した。
ミラノのACミランとインテル・ミラノの両巨大クラブが使う「ジュゼッペ・メアッツァ・スタジアム」は、1980年に「サンシーロ・スタジアム」から改称された。「ジュゼッペ・メアッツァ」はこの年に死去したインテルのレジェンドの名である。だからACミランのファンや多くの市民は今もこのスタジアムを「サンシーロ」と呼ぶ。メトロの「サンシーロ駅」はスタジアム名と言っていいだろう。
サンシーロと言えば、ミラノ中央駅から路面を走る「トラム」で行くものだった。スタジアムの横に巨大な待機線があり、何百両ものトラムが待ち構えて、試合が終わると次々とファンを都心に送り届ける光景は圧巻だった。2013年にメトロが開通し、輸送の主役は代わった。だが現在もトラムは規模を縮小して運用されている。