サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニ…

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回のテーマは、地下鉄の駅とサッカーの深~い関係について。

■現在「5路線」が運行されるサンパウロ地下鉄

 現在、ロンドンには7つものプレミアリーグクラブがあるが、所有スタジアムの最寄りの駅名をクラブ名にできているのはアーセナルただひとつ。世界でも「スタジアム名の駅」はあっても、「クラブ名の駅」はあまり例がない。

 そのただひとつの例外が、ブラジルのサンパウロである。南半球最大の巨大都市には、サッカーのクラブ名を冠した地下鉄や鉄道の駅名が、なんと5つもあるのだ。

 1913年に地下鉄を通したアルゼンチンの首都ブエノスアイレスに続いて「南米2つ目の地下鉄」として1974年に誕生したサンパウロ地下鉄。現在は5路線が運行され、モノレールも2線ある。将来的にはそれぞれ8路線と4路線になると言われる。サンパウロ都市鉄道と合わせると22路線になるが、標高800メートルの高原に広がる1200万都市としては、それでも足りないという。

 その地下鉄路線の4駅、そしてサンパウロ都市鉄道の1駅に、この町のプロサッカークラブの名称が付けられているのだ。

 市を南北に貫く地下鉄1号線には「ポルトゲーザ・チエテ駅」があり、チエテ川を挟んでポルトゲーザ・クラブのカニンデ・スタジアムがある。

■浦和美園駅から「埼玉スタジアム」ほどの距離

 地下鉄1号線と交差して東西に延びる3号線は、その両端にサッカークラブ名の駅がある。東端にある「コリンチャンス・イタケラ駅」には、超人気クラブ、コリンチャンスのアレーナ・コリンチャンスがあり、2014年ワールドカップの主要会場のひとつにもなった。3号戦の東端の駅「パルメイラス・バラフンダ」は、これも人気クラブ、パルメイラスが所有するアリアンツ・アレーナの最寄り駅である。この2クラブの「ダービー」時には、3号線は忙しいことになる。

 サンパウロ市の富裕層に人気があるサンパウロFCのモルンビ・スタジアムは長く地下鉄網から取り残されていたが、2018年に4号線が延長され、「サンパウロ・モルンビ駅」が誕生。徒歩20分は、浦和美園駅から埼玉スタジアムほどの距離である。駅名はもちろん、サンパウロFCからつけられた。名門クラブとしては、コリンチャンスやパルメイラスに負けていられないというところだっただろうか。

 サンパウロ都市交通10号線の「モオカ駅」は、2015年に住民の強い要望で「ジュベントス・モオカ駅」と改称された。上記4クラブほど派手な存在ではないが、1世紀の歴史を持つCAジュベントスのホームスタジアム、ルアジャバリの最寄り駅であるからだ。

「さすがサッカー大国」と言いたいところだが、どうもサンパウロ市に限ったことらしい。同じブラジルのリオデジャネイロの地下鉄には「フラメンゴ駅」「ボタフォゴ駅」があるが、これは同名の人気サッカークラブにちなむものではなく、最寄りの海岸名である。

■日本での「クラブ名が入った駅名」の可能性

 日本ではどうだろうか? 「クラブ名が入った駅名」は、当面難しそうだ。理由のひとつは、Jリーグのスタジアムの大半が自治体所有のものであることだ。「浦和美園駅」が「埼玉スタジアム駅」になる可能性はないとは言えない(事実、埼玉高速鉄道は「埼玉スタジアム線」と称している)が、「浦和レッズ駅」となることはないだろう。

 柏レイソルの三協フロンテア柏スタジアムとジュビロ磐田のヤマハスタジアムはクラブの主要出資企業の保有だが、最寄り駅はJR常磐線の「柏駅」とJR東海道線の「御厨(みくりや)駅」。130年近い歴史をもち、柏市の顔と言っていい「柏駅」、そして2020年に誕生した東海道本線で最も新しい駅ながら、この地域の旧村名がつけられた「御厨駅」が、「レイソル駅」あるいは「ジュビロ駅」と改称される可能性は皆無と言っていい。

 というわけで、ハーバート・チャップマンと「アーセナル」の「歴史的独創」はあるものの、今やサンパウロこそ「クラブ名駅世界一」の都市なのである。

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