「スターダム」なつぽい インタビュー中編(前編:スターダム「リングの妖精」が振り返るリングへの道 女優の夢も追いかけるな…

「スターダム」なつぽい インタビュー中編

(前編:スターダム「リングの妖精」が振り返るリングへの道 女優の夢も追いかけるなかで「本当のプロレス」を叩き込まれた日々>>)

 アクトレスガールズでプロレスデビューしたのち、レジェンド・堀田祐美子との戦いで"本当のプロレス"を叩き込まれ、Sareee(サリー)の師匠である伊藤薫の道場でプロレスを基礎から学んだなつぽい。その後、移籍を経て中野たむとの壮絶な抗争を繰り広げた。心身ともに極限まで削られた激闘の舞台裏を語った。


かつて、中野たむと壮絶な抗争を繰り広げたなつぽい

 photo by Tanaka Wataru

【アクトレスを離れて東京女子、スターダムへ】

――2019年からは、東京女子プロレスに参戦しました。

「実はアクトレスをやめる時に、プロレス自体をやめようと思っていたんです。プロレスにのめり込んでいた時期は、タレント活動をしていませんでした。当時は23歳で、『女優さんになるならけっこうギリギリかな』と。活躍している人たちが、同い年や年下が増えてきて、『今、動くしかない』と思い、あらためて芸能事務所を片っ端から受けました」

――アクトレスに所属したままでもよかったのでは?

「アクトレスに所属していた時は、『オーディションに落ちても戻るところがある』という甘えになっていました。だから、『甘えを捨てないと、女優でもうまくいかないかもしれない』と。すごく極端な話なんですけど、『アクトレスを辞めます。芸能に集中します』と伝えたんです。

 でも、堀田さんが『プロレスは絶対にやめちゃいけない。"お守り"として持っておきなさい』と言ってくださって。だからアクトレスは離れるけど、レスラーは引退しないという状態になりました。

 それで、ツインプラネットというバラエティに強い事務所に拾っていただいたんですが、そこでも『プロレスはやめないほうがいいよ』と。事務所がDDTプロレスとつながりがあり、東京女子プロレスは芸能もやっている子たちも多かったので、参戦することになりました」

――しかし2020年9月に東京女子を退団し、スターダムに登場しました。どんな経緯があったのですか?

「元アクトレスのひめか(当時、スターダムのユニット『ドンナ・デル・モンド(DDM)』に所属)とすごく仲がよかったんですよ。週5で家に泊まりにきたり、家族のような関係でした。それで同じDDMにいた、ジュリアちゃんが声をかけてくれたと記憶しています。ただ、誰から見ても、当時のDDMのなかで浮いている存在というか、"みにくいアヒルの子"状態でした(笑)。"黒"のイメージがあるユニットに、"白"がポツンと混じった感じ」

――スターダム初登場は2020年10月の横浜武道館でした。

「『X』として登場することが決まったんですが、その前の後楽園(ホール)で、DMMのリーダーのジュリアちゃんが『Xを連れてくる』と告知して。ファンは、私が東京女子を退団したこともあって、『なつぽいじゃないか』と思っていたでしょう。だから『どんなものを見せてくれるのか』というファンからのプレッシャーがありましたし、『DDMに相応しい選手がきた』と思われないといけなかった。『なんだよ、なつぽいかよ!』という危機感がありました」

――登場時も緊張されていましたね。

「ユニット的に、『"なつぽい"というキャラクターを受け入れられるのか?』と不安だったんです。『これまでの自分を少し押し殺しながら......』と思っていたので、メチャクチャ顔がこわばっていたのを覚えています(笑)」

【中野たむとの因縁と抗争】

――翌2021年3月には、AZM(あずみ)選手を破ってハイスピード王座を獲得しています。

「日本武道館でしたね。スターダム入団前から『ハイスピードのタイトルは絶対に獲りたい』と思っていました。DDM所属の各レスラーには、それぞれ役割があったと思うんですが、そのなかで『私の今の役割はハイスピードだ』と感じていました」

――その後、中野たむさんと1年以上にも及ぶ凄まじい抗争が始まりました。

「もともと、たむちゃんとはアクトレスで一緒でした。私の1年後輩だけど、1年も経たないくらいでやめて、スターダムに行ったんです。私はすごく寂しくて、"残された感じ"がしました。今だったら理解できるけど、あの時はその気持ちに寄り添うことができませんでした。

 いろんな気持ちのすれ違いもあって別々の道を歩みましたが、その道がまたつながった。因縁もあったなかでの再会だったんです。その時、たむちゃんは白いベルト(ワンダー・オブ・スターダム王座)を巻いていたので、すごく悔しかったし、『ここまで行かないと、私は次に進めない』という気持ちで、たむちゃんに挑みました」

――記者会見で、なつぽい選手がパスタを取り出し、たむ選手に無理やり食べさせ始めた時は驚きました。

「本当に、小さいことがケンカになっちゃうぐらいトゲトゲしていたんです。あのパスタ騒動も、アクトレス時代の練習後に行ったバイキングで、私がジェノベーゼパスタをいっぱい食べていたせいで、たむちゃんが食べられなかった、というのが原因でした。スターダムでも、たむちゃんはケータリングの明太子おにぎりを食べたかったのに、私が全部食べてなくなっちゃう、みたいな。

 本当に些細なことでケンカになっちゃって、その積み重ねが膨らんで大きくなり、あの記者会見になりました。今では笑っちゃうくらいくだらないことで、まさかのケージマッチに。そんな世界なんだなって」

――なぜ、ケージマッチになったんですか?

「記者会見の時に、たむちゃんが『ケージマッチやろう』と提案してきたんです。こっちも引けないので、『やってやるよ!』と。トントン拍子で決まりました。

 そのケージマッチが終わって、『私、本当に生きてる?』みたいな状態になったのに、その2日後に後楽園でまた激突(苦笑)。後日、たむちゃんと話したんですけど、ふたりともガリガリに痩せてました。余計な脂肪が落ちるぐらい、気も張り詰めていた。心身ともに疲労がやばかったですよ。

 その後の抗争でも、自分の嫉妬心だったり、醜い部分をすべてさらけ出した。お互い負けたくない気持ち、ネチネチした感情を思いきりぶつけ合ったんです。よかったこともあるけど、精神的にかなり疲れました。

 他人に見せる顔と、見せなくてもいい自分の本音ってあるじゃないですか。その見せなくていい部分を大人数の人に見せたので、"腹黒い"ってめっちゃ言われました(苦笑)」

【「大好き」なDDMから、コズミック・エンジェルズに移籍した理由】

――中野たむさんとの抗争の末、和解。2022年7月9日のユニット対抗戦で、DDMを裏切ってコズミック・エンジェルズに入りました。

「すごいことしますよね、私(笑)。DDMは "強さ"を全面に押し出し、戦いを大切にしていたユニット。私は見た目のイメージは違うと思いますけど、"戦い"が好きなのですごく居心地がいいユニットだったんです。だから、たむちゃんとの抗争も、疲労はすごかったけど楽しくて、『プロレスをやってるな』という感覚がありました。

 でも、ファンの人たちにとって、私がDDMにいるのは絶対に違和感があったと思います。私がニコニコ戦っていても、『ユニットに合ってない』とSNSに書き込まれたし、私の耳にも入ってきました」

――コズミックエンジェルへの移籍するきっかけは?

「たむちゃんの、私に対する思いを感じたからです。抗争のなかで『私だったら、なつぽいをもっと輝かせられる』『なつぽいの隣は私のほうが合う』ということを、ずっと言ってくれました。最初は『何を言ってんだろう?』と思っていたんですけど、温かくて、心に響いたんです。

 抗争を終えて、いろいろ考えさせられることもありました。私は『芸能とプロレスの二足のわらじ』が武器、強みだと思っていた。戦いはめちゃくちゃ好きだったけど、『たむちゃんやコズエン(コズミック・エンジェルズ)のほうが、もしかしたらプロレスラーとしての幅を広げられるんじゃないか』と考えました。

 DDMが大好きだったから、やめる決断がなかなかできない自分もいました。でも、『私がもうひと段階上に行くためには、DDMを抜けたほうがいいのかもしれない』『私個人としては楽しくて居心地もいいけど、"DDMにいる満足感"でとどまってしまうんじゃないか』と思いました。DDMが強いからこそ、この対角に行ったほうが、もっと成長するんじゃないかと。でも、あの期間は、何日もずっと迷って苦しかったですね」

(後編:デビュー10周年のなつぽいが明かす、Sareeeからの「くすぶってる」という指摘への本音>>)

【プロフィール】

なつぽい

1995年7月19日生まれ、神奈川県出身。身長150cm。幼少期よりジュニアアイドルとして活動し、3歳から芸能事務所に所属。小学校から高校卒業まで約12年間、バトントワリングに打ち込み、全国大会にも多数出場。女優を目指すなかでスカウトされ、2015年5月31日に「万喜なつみ」としてプロレスデビュー。アクトレスガールズ、東京女子プロレスを経て、2020年10月にスターダムに電撃参戦。「なつぽい」に改名後、ドンナ・デル・モンド(DDM)に加入し、その後COSMIC ANGELS(現:meltear)に移籍。ワンダー・オブ・スターダム王座やハイスピード王座など、数々のベルトを獲得している。