11月1〜2日に開かれた西日本選手権を制した「いくこう」こと櫛田育良・島田高志郎組【"いくこう"が華やかな演技で初優勝】…

11月1〜2日に開かれた西日本選手権を制した
「いくこう」こと櫛田育良・島田高志郎組
【"いくこう"が華やかな演技で初優勝】
11月1〜2日、西日本選手権で行なわれたアイスダンス予選会で、華やかさと演技力を持つ櫛田育良・島田高志郎組がデビューを果たし、みごと優勝を飾った。これまで『フレンズオンアイス』やクリス・リード杯で演技を見せてきた「いくこう」のふたりだが、公式戦での演技はこれが初めて。フリーダンスは初お披露目ということで注目が集まった。
今年5月9日にアイスダンスへの転向を発表した島田。翌5月10日に行なわれたイベントのなかで「土台作り! 鍛錬あるのみ!」と色紙に決意をしたためてから約半年の今、その意志が演技にも表れていた。
結成から今までの練習について、島田は「自分たちがただやるべきこと、目の前に来たことを日々やってきた」と語り、櫛田も「日々できることをして、限界を決めずにどこまで上に行けるか」との気持ちで取り組んできたという。
迎えた西日本選手権でのリズムダンスでは、初披露したクリス・リード杯からブラッシュアップされたプログラムで会場を盛り上げ、67.19という高いスコアを叩き出した。最初は少し硬かった部分もあったという櫛田だが、「最後のほうにいくにつれて楽しんで滑ることができてよかったです」と笑顔を見せた。
初披露のフリーダンスでは冒頭でヒヤリとする転倒があったものの、華やかなリフトに会場から歓声がわくシーンも。ふたりで声をかけ合いながら最後までクラシカルで小粋な『ムーンライト・セレナーデ/サブリナ』の世界観を演じきった。
演技を振り返って櫛田は、「前半は少し硬かったり、危ない......?(笑) 転倒もあったんですけど、後半は落ち着いて立て直せてよかったと思います」と話す。隣にいた島田は「転倒」について苦笑いを浮かべていた。
島田は「練習でもしない転倒をしてしまいましたが、育良ちゃんがすぐに立ち上がって次の要素にいってくれたことにすごく感謝しています。自分はちょっと浮足立っていたんですけど、途中で育良ちゃんが声をかけてくれて落ち着いて立て直すことができたと思います」と、パートナーへの感謝を口にした。
【世界で戦うには果てしない道のり】
この大会の成績によって、12月にクロアチアで開催される国際大会ゴールデンスピンへの派遣基準スコアをみごとクリアした「いくこう」。彼らが公式戦デビューでここまでの滑りを見せることができたのは、それぞれが高い技術を持つシングル選手だったからというだけではない。
櫛田は現在シングルとアイスダンスの二刀流だが、2020−2021シーズンに森口澄士とペアに挑戦したことがあり、リフトやダンススピンなどは経験済み。スケートの他に空中アクロバットのシルク・エアリアルを習っていることも、リフトなどの際のボディコントロールに役立っているはずだ。
そこにふたりがもともと持っていた優れた音楽表現やダンス技術が加わり、アイスダンサーとしての急成長につながっているのだろう。
現在のスコアを見て、2026年2月に開催されるミラノ・コルティナ五輪のチャンスも出てくるのでは? という声にも、島田は「当初掲げていた四大陸選手権出場にゴールデンスピンの派遣が必要。ただただ目の前の一つひとつのステップを見据えているという感じです」と冷静に答える。
「世界で戦っていくためには、今いいと言われている演技からスケーティングだけで20点以上上げないといけないので、果てしない道のりだなとまた感じています」と島田は言う。
だが、彼らの演技には大きな魅力と可能性がきらめいている。ここからの成長が楽しみで仕方がない。
【西日本選手権は5組中4組が新結成】
西日本選手権のアイスダンス予選会には5組が出場し、そのうち4組が新結成のチーム。そんなフレッシュな顔ぶれのなかで結成3シーズン目の実力を見せ、2位表彰台を獲得したのは佐々木彩乃・池田喜充組だ。チャーミングなリズムダンスと力強い一面を見せたフリーダンスで、演技力の幅広さを示した。
12月の全日本選手権に向けての課題を得られたというふたりだが、フリーダンス『ノートルダムの鐘』での見どころとして、「(主人公の)カジモドの(ヒロインの)エスメラルダに対する悲しみと、忘れられない愛の気持ちを表現する場面が大好きです」(池田)、「コレオで足を踏み鳴らすところが好きです」(佐々木)と、それぞれのお気に入りポイントを教えてくれた。フランスの衣装デザイナー、ソフィー・トーマスさんが手がけた華やかな衣装にもぜひ注目してほしい。
新しく結成された他のチームについて佐々木は、「みなさん上手ですし、アイスダンスのパートナーとして日が浅くてもここまで合わせてこられるのはシングル時代の経験や、すごく練習を積んで来られたことが感じられるので、私たちもいい刺激を受けています」と話した。
3位は紀平梨花・西山真瑚組。フリーダンスでは「練習でできていた演技ではない」(紀平)と悔しい表情を見せたが、そんなパートナーを西山はこう称えた。
「この1カ月間、西日本の予選会に出たいという強い気持ちが伝わってきましたし、ここに向けて一生懸命に練習をしていたので、さすがだな、すごいメンタルだなと。(アイスダンスは)初めてなのにここまでまとめられる、仕上げてくるスケート技術や気持ちの強さもさすがだなと思って。一緒に組めて本当にうれしく思っています」
初めての公式戦で見せた彼らのポテンシャルに今後も期待をしたい。
4位の浦松千聖・田村篤彦組もチームを結成して初めての公式戦だった。田村は経験者だが、浦松は今年5月にアイスダンスを始めたばかり。その浦松の挑戦についてパートナーの田村は、「3カ月でこの演技ですから。センスの塊でしかないですね」と絶賛する。
初お披露目となったリズムダンスでも、「とてもよかったと思います。私たちのなかでは、いい演技でした」(田村)と終始楽しそうに笑顔を見せた。
彼らの仲のよさに結成前から親交があったのかと思っていたが、5月中旬のトライアウトが初対面だったそう。浦松は2月の大会を最後にシングル選手として引退をしたが、アイスダンス挑戦を決めたのは引退直前の時期だったという。
「もともとアイスダンスを見るのが好きでやってみたいなと軽く思っていたこともあるんですけど、実際にやると決めたのは母の『ずっと(あなたの)スケートを見ていたい』というあと押しも大きかったです。それで私から(田村に)声をかけて、5月中旬くらいにトライアウトをして。そこからすぐに仲良くなりました」
そう語る浦松。「性格的には正反対だけど、だからこそ仲いいのかも」という「ちいあつ」のエネルギーあふれる演技に注目だ。
【活気づくカップル競技のこれからに期待】
5位の矢島榛乃・矢島司組も初の公式戦。偶然同じ苗字がそろったというふたりの愛称は、コーチが気に入っているという「やじやじ」。
今年3月に開催された高橋大輔プロデュースのアイスショー『滑走屋』に出演したことでアイスダンスに興味を持ったという矢島司が矢島榛乃のコーチのもとを訪れ、トライアウトを経て結成に至った。初めて挑戦するアイスダンスに矢島司は「やったことがなかったので一日一日が勉強になっています」と話す。
リズムダンス後に矢島司は「ジャンプがない分、シングル以上にスケーティングや一つひとつの動きが見られている競技。もっと練習が必要だなと思います」と話す。
パートナーの矢島榛乃は「とくにフリー『愛の夢』は私より(矢島司に)雰囲気が合っていて、いいなあって思います」と繊細な表現力を評価する。
今大会では矢島司の体調不良が本番までに回復せず、高熱が下がらないままの出場となったが、全日本では万全の体調でのふたりの華のある演技に期待したい。矢島司に、アイスダンスを実際にやってみて魅力にハマりそうですか? と問うと、「ハマりそうです」と明るい笑顔を見せた。
全日本選手権にはこの5組に吉田唄菜・森田真沙也組が加わり、6組の出場となる予定だ。
全日本ノービス選手権ではペアにも興味があるという男子選手もいるなど、国内でもカップル競技を意識する選手が増えてきた。環境面ではまだまだ海外には及ばないが、これまでカップル競技で戦ってきた日本の先駆者たちが撒いた種の芽吹きを感じている。そして、この芽が大きく育っていくことを切に願う。
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