全日本の最終7区で、区間2位の好走を見せたエースの溜池一太 photo by SportsPressJP/AFLO【出雲…


全日本の最終7区で、区間2位の好走を見せたエースの溜池一太

 photo by SportsPressJP/AFLO

【出雲駅伝での苦戦も想定内】

「溜池、来い!」

 アンカーの溜池一太(4年)がゴールに飛びこんでくる直前、藤原正和監督が大きな声で叫び、その体を選手たちとともに受け止めた。11月2日に行なわれた全日本大学駅伝、中央大は2005年以来、20年ぶりとなる2位でフィニッシュした。

「いや~、ここまできたら優勝したかったですけどね」

 そう言いながらも、藤原監督の表情は明るい。

 今季の3大駅伝の初戦となった出雲駅伝(10月13日)は、1区の岡田開成(2年)が区間賞を獲る好スタートを切った。だが、2区で期待のルーキー、濵口大和(1年)が遅れると、その後も波に乗れない走りが続き、10位に終わった。惨敗に等しい。ただ、この結果はそれほど深刻にとらえる必要がないものだった。

「(出雲は)僕(4区7位)も含めて、みんな脚の重さや多少の疲労感を抱えてのレースでした」

 キャプテンの吉居駿恭(4年)がそう語るように、走りこんだ夏合宿の疲れが残っているなかでのレースだった。加えて、濵口など今後を見据えたテスト的な意味合いも含めた起用もあり、おそらく難しい駅伝になることは、ある程度予測できていた。それも、あくまで箱根駅伝で勝つための布石なわけだが、トラックシーズンで好記録を出してきた中大だけに、周囲からは「大丈夫なのか」と見られた。

 その出雲から全日本大学駅伝まで3週間あまり、今回、2区2位と力を発揮した吉居は、ふたつのことに注力してきたという。

「出雲は、夏合宿の疲労が抜けなかった部分があり、うまく走れないのは仕方ない部分があったんですけど、それを言い訳にする選手がいたり、2区で濵口がブレーキして、想定よりも後ろの順位で来たことで、(走る前に)集中力が切れてしまった選手がいたりしたんです。そういうところをもう一度見直して、精神的にもっと強くなろうということをメインにやってきました。そして、もうひとつは、個々のコンディション。ただ、これはなかなか厳しかったですね」

 どういうところが厳しいと感じていたのだろうか。

「疲労が残っている影響のせいか、自分もですけど、みんなスピードを出しづらいと言っていました。個人的にも、監督にその話をしたところ、『疲労を抜いて調整していけば(スピードは)出るから』と言われたのですが、前回の箱根を100%とすると60%ぐらいの仕上がりでした。ただ、60%のなかでのマックスは出せたのかなと思います」

 4区で区間賞を獲った柴田大地(3年)は「単独走」が重要なテーマだったという。

「出雲で主力が出場して、あんな結果になって、チーム内では『単独走で勝負できていない』という認識が共有されました。全日本まで3週間という短い期間でしたけど、ロードで単独でもしっかり走るということを全員が意識して臨めたのがよかったと思います」

【1年かけて山を走る選手を育成してきた】

 短い期間でもチームが修正できたのは、夏合宿で例年以上の距離を踏んだことも大きいだろう。月間走行距離は、吉居と柴田は例年より多い900km、岡田は1000kmを超えたという。その成果を、柴田はこう語る。

「相当走りこみました。また、そうしたキツいなかでも、ポイント練習をはじめ、1本1本の練習で出しきってきたので、今回のようにレース中盤や後半でも、しっかり安定して走れることにつながったのかなと思います」

 2区の吉居は、8位で襷を受けてスタートすると、落ち着いた走りで入り、2.3km地点で先頭集団に追いつき、ラストスパートで帝京大を抜いてトップで襷をつないだ。そのラストスパートは「自分の体と相談して、ここからいけると思って仕掛けた」というが、トラックでのスピードが生かされた一級品だった。

 4区の柴田も、國學院大の高山豪起(4年)を相手に一歩も引かない走りを見せ、トップで三宅悠斗(1年)に襷を渡した。ちなみに、その際、柴田はガッツポーズをしたのだが、藤原監督からは「(ガッツポーズは)いらない。あと5秒削って欲しかった」と言われ、「三宅が初めての駅伝で1秒でも削って渡しかったんですけど......すみません、(ガッツポーズが)出てしまいました」と反省していた。

 とはいえ、柴田の好走もあり、4区終了時点までトップをキープしたことが、結果的に2位につながったといえる。藤原監督もやはり、夏の手応えを感じたという。

「夏にガラっとトレーニングを変えてやってきました。この全日本に向けて、状態が上がってくるようにつくりましたので、それぞれ持っているものをちゃんと出せたという意味ではよかったのかなと思います。

 ただ、6区(佐藤大介・2年)、7区(岡田)は、出雲ではよかったんですが、今回、ちょっと苦戦しました(それぞれ区間3位、6位)。特に、岡田がちょっと不発だったのが残念でしたね。それでも、アンカーの溜池が持っている力を出し、4年生らしい(頼もしい)走りをしてくれた。区間賞を獲らせてやりたかったですけど、チームを2位に押し上げ、一矢を報いてくれたので、箱根での走りも楽しみです」

 出雲の1区で区間賞を獲った岡田は、その後、少し調子を落としたという。全日本に向けて状態を戻してきたものの、7区6位という結果に悔しさを滲ませていた。

「襷を受けた時は、前の駒澤大の佐藤(圭汰)さん(4年)を追っていくことと、後ろの國學院大(青木瑠郁・4年)を離すことを考えていました。後ろを離すことができたのはよかったんですけど、前が全然追えなくて......。(佐藤さんが)故障上がりならもうちょっと戦えるのかなと思ったのですが、(ともに7区を走った)昨年の箱根から、佐藤さんとの差は全然縮まっていなかったです。ハーフ(マラソンの距離)をしっかり走れる力を蓄えて、もう一度戦いたいと思っています」

 2位で襷を受けた岡田は、3位の國學院大・青木との差を広げたものの、5位から追い上げてきた青山学院大の黒田朝日(4年)に抜かれた。最終8区スタート時、2位の青学大との差は36秒。アンカーを務めるエースの溜池は、5km手前で青学大の小河原陽琉(2年)をかわし、そのまま2位をキープしてゴールした。中大は出雲駅伝からV字回復を見せたが、藤原監督は今回、他校の走りを目の当たりにしたことで、箱根に向け、あらためて気を引き締めている。

「(優勝した)駒澤大は、(つなぎ区間とされる)5区、6区にエース格の選手を置いて流れを変えましたけど、それができるのが駅伝巧者だと思います。それに佐藤圭汰君という軸が1本入ると全然違うチームになるので、箱根も強いでしょう。青学大も山でガラッと流れを変える選手、ゲームチェンジャーを育成していると思います。ただ、山については、われわれもこの1年かけて育成、強化してきた選手がいますので、それをぶつけて勝負したいですね」

【自信を持って箱根に臨める】

 箱根に向けて、出雲、全日本で出走した選手が軸になる一方で、出走できなかった選手も状態が上がってきている。世田谷246ハーフマラソン(11月9日)、上尾シティハーフマラソン(11月16日)、MARCH対抗戦(11月22日)などで確認していく予定だ。藤原監督はこう意気込む。

「今年の夏は、中間層の育成を徹底的にやりました。また、トラックの強さをロードに転化するという、うちの一番の課題にも取り組んできました。それを今回、多少は見せられたのかなと思うので、箱根ではそれをさらに表現したいです」

 これから箱根までの2カ月弱をどう過ごすのか。一昨年の箱根で、中大は12月に体調不良者が続出して総合13位に終わった。だが、その苦い経験を生かし、前回はしっかりとコンディションを整え、1区序盤から吉居が先頭に立つ攻めの走りを見せ、往路2位、総合5位と見せ場をつくった。藤原監督は「前回のよいプランがあるので、それを参考に、自信を持って箱根に臨めると思います」と語る。

 今季はどんな戦略を考えているのだろうか。

「先手必勝ですよ。最初からいきます」

 30年ぶりの箱根制覇に向け、潔く、腹の底から自信に満ちた言葉だった。