「『こういう選手になりたい』。そんな流れが途切れずに続いていた。偉大なるGKの継承があった。それがバスク人GKの成功…
「『こういう選手になりたい』。そんな流れが途切れずに続いていた。偉大なるGKの継承があった。それがバスク人GKの成功の秘訣だ」

スペイン代表にも選ばれたビルバオのGK、ケパ・アリサバラガ
スペイン北部のバスク地方。かの地のフットボール関係者たちはそう口を揃える。50年代はカルメロ・セドゥルン、60~70年代はホセ・アンヘル・イリバル、70年代後半はハビエル・ウルティコエチェア、80年代はルイス・アルコナーダ、90年代はアンドニ・スビサレッタ。スペイン代表のゴールマウスは決まってバスク人たちが守り、代表キャップ数はこの5人だけで300近い。
だが、その流れは途切れてしまった。
1999年、ワールドユース決勝で日本を打ち砕いたスペインのゴールを守ったのは、ダニエル・アランスビアという若手バスク人GKだった。大会では年少のイケル・カシージャスを抑えて正GKの座を守っており、将来を嘱望されていた。ところが、所属するアスレティック・ビルバオで過去の英雄たちと比較され続けたことで、重圧に潰されてしまった。その後もゴルカ・イライソスというGKがアスレティック・ビルバオで試合出場を重ねたものの、代表には選ばれていない。
そして皮肉なことに、イケルというバスク人名を持つにもかかわらず、バスク人ではないカシージャス(母親が音の響きを気に入って名付けたという。出身はマドリード)が、長く久しくスペイン代表のゴールを守ることになった。
しかし、バスクには新たな才能が生まれていた。現代の欧州若手GKの中では、ACミランのジャンルイジ・ドンナルンマと並び、ビッグクラブがこぞってその獲得を狙っている。伝説のGK、イリバルの再来と言われるアスレティック・ビルバオの正GK、ケパ・アリサバラガ(23歳)である。
「イリバルの再来というのは言い過ぎだと思うよ。偉大な伝説だからね。重圧というよりは、誰とも比較されたくない。自分はケパで、自分ができるようにしかプレーできないからね」
ケパはその心境を明かしている。
ケパとイリバルとの類似点は、ゴールマウスでの落ち着いた様子にあると言われる。たとえビッグセーブでチームを救っても、何事もなかったかのような顔をしている。泰然自若。最後の砦として、味方全員に絶対的な信頼感を抱かせるのだ。
「はじめてのGKは学校の校庭だったかな」とケパは語る。
「それ以来、ずっとGKだよ。10歳くらいの頃に、人数が足りずにフィールドプレーヤーをやるように言われてね。2ゴールを決めてしまったんだ。すると、次の試合も監督から『FWをやれ』って言われてね。それがショックだったのを覚えているよ。結局、GKに戻れたんだけどね」
生まれついてのGKなのだろう。幼い頃、両親にGKグローブをプレゼントされたことがあった。サイズは少し大きく、両親は「お店に行って、取り替えよう」と言ったが、本人が「これでいい」と言い張った。少しでも手を大きくしたかったし、そのデザインを気に入ったからだという。強情とも言えるが、自分の進む道に確信があるのだ。
ケパはアスレティック・ビルバオの下部組織に入団して、16歳で3部リーグ(実質は4部)、18歳で2部B(実質は3部)でプレー。20歳でポンフェラディーナ、バジャドリードと、2部のクラブで経験を積んでいる。そして昨シーズン、21歳でアスレティックに戻ってからは先発GKの座を射止め、UEFAのルーキーベスト11に選ばれた。
「サン・マメス(アスレティック・ビルバオの本拠地)でデビューするときは、さすがに試合前は緊張したよ。でも試合が始まった瞬間、すっと心が落ち着いた。緊張する自分とプレーする自分を切り離せたんだ。そういう性格というのは、GKとしてのアドバンテージだと思う」
そう明かすケパは、すでにスペイン代表にも招集されている。現時点では、第3GKとしてロシアW杯に帯同する可能性が高い。非凡なセンスは、ブッフォンやカシージャスに比肩すると言われる。
「まだまだ技術を上げる必要がある」とケパは言う。
「現代のGKは完璧が求められる。攻撃における最初の選手であって、守備における最後の選手でもある。すべてやれないといけない。例えば足技を使えなかったら、今はトップレベルでプレーするのは難しいよ」
そう語るケパは、シュートを打たれる前の準備に優れている。ポジショニングや細かいステップワーク、そしてなによりバックラインとの連携。それらの予備動作でシュートコースを絞り込んでいる。それゆえ、シュートは”偶然にも”正面に飛んでいるように見えるのだ。この点も、イリバルと共通している。
もし、ケパがイリバルの影を振り払うことができれば、バスク人GKとして後進にも希望を与えることになる。もっとも、その未来は必ずしもアスレティックとともにあるとは限らない。クラブとの契約は来年の6月末で切れる。しかし、契約更新にまだサインはしていない。レアル・マドリード、バルサなど、欧州中のビッグクラブが食指を動かしていると言われる。
「自分は目の前のプレーに集中するだけさ」
ケパはそう言って雑音を封じ、自分の進むべき道を見失っていない。